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15.殿下、それは梅干しです



 お日様サンサン、ビューティフルサンデー


 洗濯物を干しながら目を細める。長ったらしい梅雨の後に迎えた7月は連日の晴天で、私のように外干し派の人はきっとニッコリだろう。


 ロイの服も買い足さなければ、と思いつつソファの上で目を閉じたままの王子を眺めた。相当な寝相の悪さなのか、王子というよりも魔王のような寝癖が付いている。私がゴソゴソ動き回ってもまったく起きる気配がないから、相当に図太い神経に違いない。


 今日の朝ごはんはおにぎり。


 朝のニュース番組を見ていたら、梅干しが夏バテに良いと書かれていたので入れてみた。あとはツナとおかかも握ったので全部で三種類。ロシアンルーレットよろしく、海苔で包んで三つ並べた小さめのおにぎりに、シルヴェイユ王国の王子はいったいどんな反応を示すのだろう。


 想像すると自然と笑みが溢れてハッとする。

 私、この生活をちょっと楽しんでいるんじゃ?



「………ん、」


 唸るような声がして、ベランダから部屋を覗くと、ソファの上から片足を放り出したロイが半目を開けていた。


(くぅ…相変わらず寝起きでも顔だけは良い…)


 拳を握って耐えながら、意識が完全ではないうちにとご尊顔を眺めることにした。無賃で泊めてあげているんだから、少しぐらい大目に見てほしい。


 フルフルと震える睫毛。

 うっすらとシーツの跡が付いた頬。


 認めよう。確かに顔だけは最高にタイプ。自分なんかが上から目線でそんなこと言うのも悪いとは思うけれど、恋愛ゲームなら絶対に攻略したい。どうして現実に現れてしまったのか。生身相手だと難しいことばかりだ。



「おはよう、ロイ」


 ボケっとした顔で頷くと長身の王子はそのまま魂の抜けたような姿で洗面所へと向かった。直ぐにシャワーの音が聞こえる。水音が止まったら味噌汁をよそおうと、コンロに掛けた鍋に再び火を入れた。


 味噌の匂いがほんわりと部屋を包む。

 異世界から来た彼には分からないと思うけれど、これは家庭を思い出す良い匂いだ。豆腐やわかめを満遍なくお椀に流し込んで、食卓へ置いた。


「メイ…起きた、おはよう」

「目は覚めましたか?」

「………爆弾?」


 私の質問に答えを返さずに、ロイはテーブルの上のおにぎりを凝視して固まる。確かにそう見えなくもないけれど、窓の外にぶん投げられても困るので、慌てておにぎりについて説明した。


「この黒々した丸いのが食べ物…?」


 爆弾おにぎり風に海苔で包んだのがダメだったのだろうか。ロイが食べなかったら自分の夜ごはんに回そうとショボくれていると、長い腕が伸びて来て真ん中のおにぎりをひょいと掴み上げた。


 私がドキドキしながら見守る中で、ロイはおにぎりを食す。気になるのはその中身だけれど、いきなり梅干しはちょっとハードルが高いので、どうかツナかおかかであることを祈った。


「……ん…んん?」

「?」

「これは…ナシではない」

「実は中身は3種類あって、食べてからのお楽しみなんです。どんな味でしたか?」

「なんかこう…もったりとした…」


 ツナだろうか。なんとか食べてくれたので胸を撫で下ろしながら、味噌汁の説明に移った。味噌が納豆と同じ発酵食品であることは言わずに、身体に良いという部分だけ強調すると、ロイは少し興味を持ったようだった。


 口元に腕が運ばれて、少しだけ味噌汁が流れ込む。


「………ほう」

「殿下、どうですか?アリでしょうか?」

「その殿下って呼び方はやめろ…」


 呆れた顔をした後にロイは「悪くない」と二口目を口に付けた。日本特有の啜る文化を説明したいけれど、西洋のマナーの話も関連して難しいので、とりあえず今は良しとした。


 私はロイが二つ目のおにぎりに手を伸ばすのを見届けて、今日の予定を考える。取り急ぎ買う必要があるのは食事用の椅子をもう一脚、あとはロイの替えの服と歯磨きセットぐらいだろうか。


 この平和な時間は、梅干しに遭遇した王子が口の中のものを吐き出す5秒前の話。




実はこのなんちゃって逆転移ラブコメは40話ぐらいまでストックがあります。アルファさんでも連載してますが、すぐにHOTランキングから落ちて、救済のために書いた別連載の方が謎にのびてしまったので混乱。


作者的には書きたかったほのぼの系なので、読んでいただけると嬉しいです。

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