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虎先鋒、再来

「虎先鋒は赤銅色の刀を持った、白虎のツワモノである! 千騎の妖群に匹敵するほどの将であるぞ! 雑魚と一緒に送り返されるようなヘマはせんわい!」


「あ」


 玄奘は思い出した。赤銅色の両刀を持った白虎なら、確かにいた。

 沙羅に火ダルマにされ、池に飛び込んでいた妖魔である。

 それを聞いた黄風大王は、大地にどうと伏して、涙を飛ばし大いに嘆いた。


「おお我が雄々(おお)しき名将よ! 前世では豚にまぐわで九つの穴をあけられ絶命し、蘇ってもなお火に巻かれて死んでしまうとは、なんと哀れな部下であるか!」


「死んでないわよ多分。火傷はしただろうけど」


 沙羅がいけしゃあしゃあと言った。


「黙らっしゃい!」


 黄風大王がキンキン声で怒鳴った。

 その時、遠くから「うおー」という吠え声が聞こえてきた。


「やあやあ我こそは虎先鋒(こせんぽう)! 火吹き犬はどこにおる! 我と今一度、勝負せい!」


「おおお、生きておったか虎先鋒!」


 黄風大王は感涙にむせぶ。


「しぶといんだなぁ」


「だがしかしボロボロだ」


 八戒と悟浄が、両手に赤銅色の刀を握り擦り足で駆けて来る白虎の姿を見て、顔をしかめた。千騎の妖群に匹敵する武将も、今やその姿は白虎というよりは、二本脚で歩く巨大な禿げ猫である。


「あたしは禍斗(かと)(火を吐く犬の妖怪)!」


 『火吹き犬』という呼び方が気に入らなかったのであろう。沙羅は一喝で訂正すると、続いてすう、と息を吸い込む。また火を吹くつもりだと察した玄奘は、火柱が発射される前に、大慌てで沙羅の口を手で塞いだ。


「これ以上やったら殺してしまいます!」


「でも勝負しろって、あいつが!」


 玄奘の手を口から引っぺがした沙羅が、異議を唱えた。玄奘は目で訴えながら首を横に振る。

 

 黄風大王が玄奘に駆け寄り、足元にひれ伏した。


「なんという慈悲(じひ)であろうか! 悟空の一打から我が命を救った霊吉菩薩(れいきつぼさつ)にも勝るとも劣らぬ!」


 そして、傷ついた虎の部下を横に跪かせた黄風大王は、玄奘の恩に報いる為にも、ここは虎先鋒(こせんぽう)と二人、大人しく元の世界へ帰ってやろう、と言った。


 悟空が不満げに鼻を鳴らす。


「菩薩に恩を感じてんなら、なんでこっちの世界に来ちまったんだよ」


「仕方あるまい。牛魔王の妖術を受けてしもうたのじゃからして」


 そう答えると黄風大王は、左の襟をぐいと開いた。

 左胸に、杀悟空(悟空を殺すべし) 吃三藏(三蔵を喰うべし)という二つの墨文字(すみもじ)が並んでいた。

 その墨文字を見た沙羅の表情が明らかに緊張した事に、玄奘は気が付く。


 牛魔王の怒りに触れると、この墨文字に傷めつけられるのだと黄風大王は説明する。


「お前の輪っかみたいなもんじゃ、悟空。正に死の苦しみじゃよ」


 長い白髭を揺らし、やれやれとばかりに首を横に振った。そして、やや混濁した目で沙羅をじろりと見る。


「やい、お(ぬし)。最初に蹴りだされたという『火付け番』であろう」


 沙羅は返事をしなかった。『恐怖』の二文字が、その青ざめた顔にあった。

 黄風大王は気にせず続ける。


「何故、よりにもよって悟空に(くみ)しておるのか知らんが、気をつけよ。牛魔王は目ざといぞ」


 悟空が黙って、虎先鋒と黄風大王の顔面に赤札を貼った。

 二人は仲良く並んで消えていった。


「おい、メス犬」


 悟空がその金赤に輝く両目で、沙羅を見据えた。


「分っただろ。オメエの競争相手は山のようにいるぜ。他の奴らにおっしょさんを横取りされたくなけりゃ、裏切るんじゃねえぞ」


 玄奘を含め、そこにいる全員の視線が沙羅に集まった。

 沙羅は悟空と睨み合ったまま、やはり一言も発しなかった。


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