猫を拾った、特典で美人がついてきた。
「はあー、つっかれた・・・。バイトも楽じゃないねえ・・・」
時刻は二十一時半、つい先程バイトを終えた俺こと佐伯悠也は特に寄り道もせず帰路につく。帰り際にコンビニ寄ってなんか買おうかとも思ったが、今はそんなことよりも早く家に帰って休みたい気持ちでいっぱいである。
高校進学の際に実家から離れ、一人暮らしをする際に少しでも社会勉強のためにと始めてはみたが、これがまあ大変である。たかがバイト、されどバイト。人間生きるためにはどんなめんどくさいことでもやらないといけないのだ。
実家の母はバイトなんてしなくても仕送りはする、とは言ってくれたがそれにばかり頼るのもいけない。自分がまだ高校生のガキである以上親の力は借りてなんぼではあるが、頼りきりなのも良くはない。自分のことは自分でしないといつかダメ人間になる未来が見え見えだからだ。俺は絶対ヒモになんてなりたくない。
「とは言っても平日は学校行ってからバイト、休日もバイト入れまくってるし、こんな青春でいいのか俺・・・」
自分で選んだ道ではあるものの、こんな生活ではいつか壊れてしまうかもしれない。若いうちは〜なんて言葉、絶対乱用しない方がいいと思う。全国の十代二十代に謝ってほしい。
友達と遊んだりとか趣味に全力を捧げるのであればモチベーションもあがるのだろうが、生憎今の俺にはそんなものはないし彼女なんてもっての外だ。友達こそいるものの、あいつはあいつで忙しそうだから何かと遠慮してしまう。放課後気付いたらいなくなってることが多いが、昼休憩になったらいつも俺のところに来て一緒にご飯を食べる。おかずを分けあったりするくらいには仲がいい、とは思う。
「これで友達じゃないとか言われたら、しばらく落ち込める自信あるわ…」
「にゃあ?」
「お前もそう思うだろ?・・・って猫!?」
一人でぶつくさ呟いてたらいつの間にやら側に猫がいた。その猫は真っ白な毛色で、街灯に照らされてとても輝いて見える。こちらを覗くその目は珍しい青い瞳(子猫は成長するにあたり青から黄色に変わることが多いそうだ)で誰がどう見ても美猫と呼ぶに相応しい。そんな猫が、俺のペースに合わせて横を歩いていた。
「首輪してないから野良・・・なんだよな。でもそれにしては毛ヅヤがとても綺麗だ・・・」
「うにゃん」
俺がしゃがみ込むとその猫は俺に近づき、座りながら見上げてくる。逃げないということは人馴れをしている。つまりは地域猫なのか、元々飼われていたか。でも白い猫は汚れがとても目立つから、多分後者なのだろう。あまり考えたくはないが、捨てられたのかもしれない。
「うにゃあ」
「・・・やばいめっちゃかわいい」
警戒心があまりにも薄い。こんな見ず知らずの俺に対して頭を擦り付けてくるのは嬉しい反面とても恐ろしいことだ。今ここにいるのが俺だからよかったものの、かなりヤンチャな小中高生とかだったらその優しさに踏み込んでいじめてくるかもしれない。この猫に万が一のことがあったらと思うと、夜も眠れない。
「ひとまず連れて帰るか。最近はコンビニにも猫の餌とかは売ってるし、今日のところはそれで我慢して明日休みだからトイレとかミルクだとか、あとは予防接種とか万が一のことも考えて捜索依頼がないかも見て・・・」
いざ連れて帰ろうと考えると途端にやらなきゃいけないことが頭に浮かぶ。とはいえ、この猫のためならばそんなことも言ってれらない。成り行きとはいえ、自分で決意をしたのだからこれは必要なこと、そこに後悔はない。
「うにゃっ」
「あっ、おい!?」
色々と考えてたら猫が急に離れていく、と思ったらある程度の距離を歩いたら立ち止まってこちらを見てくる。俺がまた近づくと猫はまた距離を空け、こちらを見てくる。まるでこちらに来いと誘っているようである。
「もしかして、こっちに何かあるのか?」
「うにゃ」
こちらの問いかけに返事をするし、相当賢いなこの猫・・・ひとまずついていくしかなさそうだ。
それからしばらく歩いていると目的地についたのか急に走り出す猫をさらに追いかける。そこには根城としていたであろうダンボールの中に・・・
「・・・あっ、猫さんおかえり」
「にゃあ〜ん」
「・・・・・・は?」
猫と全く同じの白い髪の毛で青い瞳の
「・・・そっちは、だれ?」
すっごい美人がいた。
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「・・・・・・・・・・・・・・・」
「やったね猫さん、新しいお家だよ」
「にゃあ〜」
どうしてこうなったのだろうか。
俺はバイト帰りに猫と出会し、安全面も考えて連れて帰ろうとした。ここまではいい。だがその後が問題だ。何故こんな美女がついてきた。何この、この猫ちゃんを飼われるお客様にこちらおまけです〜、と言わんばかりの超軽い感じでこの人がついてきたんだけど。猫だけ連れて帰ろうとするとえっ、行っちゃうの・・・?と目で訴えられてるような気がして思わず連れてきちゃったし。ってかよくよく見たらこの人うちの学校で超有名人な一個上の先輩の白鷺環その人である。あの時間になんであんな場所にいたのか。
でも白鷺先輩がいてくれたおかげで猫を預けているうちに餌とか買いに行けたし、一人ではできなかったことが割とあったのでとても助かった。そして白鷺先輩は先程買ってきた餌を猫に与えている。
「ふふ、たんとお食べ」
「えーっと、白鷺先輩?」
「環」
「え?」
「環でいい。君は私と猫さんの命の恩人。私たちはこれからお世話になるから遠慮は不要」
「お世話になることは確定してるんですね・・・」
「もしかして、迷惑、だった?」
「っ!?いやっ、迷惑とかではなくてですね・・・」
うん、まあ迷惑とかではない。困惑はしてるけどこんな美人と話せるのだから迷惑なんてことはない。前世でどれだけの徳を積んだんだ俺と思うくらいには。ただそれを抜きにしても気になることがございまして・・・
「あの、白鷺先輩は・・・」
「環」
「・・・環先輩は、どうしてダンボールの中にいたんですかね?」
これくらいは流石に聞いてもバチは当たらないだろう。家出とかだったら(それでもかなりヤバい)親と喧嘩したのかそれとも別の理由かって大体察しはつくし、それなら一晩くらいは・・・とも思う。こんな美人と一晩一緒に過ごすのはかなり刺激が強いけど、一晩だけだしなんとかなるだろうと割り切るしかない。俺の理性、持ってくれよ。
「それはね、私の家が燃えちゃったから」
「あーなるほど、家が・・・燃えた!?」
「うん、お隣さんが火事起こしちゃって、私の家にも被害が出たの」
「いやー、マジかあ・・・」
「うん、マジなの」
予想の斜め上の返答だった。今後の生活を左右するほどの出来事にも関わらずなんでこの人こんなに落ち着いていられるのか。
「ちなみに言うとお父さんもお母さんも海外に行ってていない。そもそも海外に行くからって一人暮らしを始めたのに、引っ越してすぐに焼けちゃったから。実のところ荷物は無事だったりする」
それならまあ、よかった・・・のか?思ったより被害が少なかったからなのかそこまで重く捉えていないようであった。
「いや、それならホテルとかに行けばよかったのでは?ご両親に言えばお金とかはなんとかなったはずでは?」
「報告はしたけどすぐに動けるわけじゃない。あと毎日ホテル泊まってたらお金はすぐになくなる。それなら誰か泊めてくれる人を探してお世話になった方がいい」
「そんなことよりも自分の安全面に気を遣いましょう!?誰か怖い人に襲われたらどうするんですか!?」
ほんっとにこの人はどこか抜けてるというか危機感がなさすぎるというか、危なっかしくて放っといたら何されるかわからんな!!
「それとも君は、私を襲ったりするの?」
「襲いませんよ!?やったらやったで俺の学校生活が終焉を迎えるわ!?」
「・・・泊めてくれたお礼だから別にいい、と言っても?」
「マジでこれ以上俺を翻弄するのはやめてくださいなんならそれ絶対他の人に言わんでくださいよ?」
「ん、わかった」
これ以上はもう考えない方がいいような気がしてきた。もう連れてきちゃったし諦めた方がいいのかもしれない。触らぬ神に祟りなし。
「にゃあ」
「ん、食べ終わったね。美味しかった?」
「うにゃん♪」
「・・・はぁ」
なんかこの猫見てたら一気に気が抜けてしまった。これからのことは後で考えるとしよう。案外なんとかなるかもしれない。まず今日はご飯食べて風呂入って寝て、明日からまた行動しよう。白・・・環先輩も今はお腹を空かせているのかもしれないし。
「ひとまずご飯食べますか。コンビニ弁当で申し訳ないですが」
「ん、大丈夫。お世話されてる身としてはそれだけでもありがたい」
環先輩はそう言ってコンビニ弁当を取り出し、電子レンジの中に入れる。やはりお腹を空かせていたのだろう。長々と話していたのが申し訳なくなる。
「・・・ありがとう」
「え?何か言いました?」
「っ、なんでもない」
小さい声で何か言った気がするが、気のせいだろう。深くは聞かない。
これから二人と一匹で過ごす時間は大変だろうけど、今までの変わりない人生に比べたらきっと楽しいものになるに違いない。そう考えたらこれもいいなって思える。
それにこんな美人と・・・いや、何も考えるな俺。今は先にやることをやって・・・
「ねぇ、電子レンジに入れたのにお弁当温まってない。どうしたらいいの?」
「・・・そこからか」
前言撤回。先行きが不安すぎる。
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