闘いに疲れた君へ贈る葬曲
人が寄りつかない山奥。ドラゴンの目のように開いた平地にそれは存在した。
標高3000mを超える高地に木を切り倒しそのまま組み立てたような平屋の一軒家がひっそりと聳え立つ。そんな辺鄙な土地で人が暮らせるのかと思うほどに人気すらなく大型の魔物が時より姿を見せる。この場所から1番近い集落からも100km以上離れ、ここに来てから1回たりとも 人 というものを見たことはない。
俺にとっては最高の環境だ。人から離れるためだけにこの辺鄙な土地に来たんだからな、ここに来た当初はまさかこんな辺鄙な山奥に平屋の建物があり、家具も完全装備で埃すらたまっていない清潔な状態であるとは思わなかった。最悪野宿もありだと考えていたがラッキーだっだと今になっては確信するが・・・それでも最初は誰か住んでいるのだろうと思いながら住み始めて4年、家主が戻る気配すらない、一昨年あたりから初めて空き家だと認識するようになったがまだ本来の家主が戻ってくるのかもしれない。だから無駄に触らず壊さないようにしている。幸いなことに俺は特に物を持つ主義でもない、本来の家主がもし戻って来たのならば俺はここを離れるつもりであっが、ここ最近はそうも思えなくなってしまった。
彼女が来たからだ。
「アランさん!見てください!黒い蝶々が飛んでますよ、イタッ!」
無邪気に蝶々を追いかけて躓き転ぶ。黒髪が耳元まで伸びた15歳前後の少女。前後というのは本人は名前も年齢もどこに住んでいたのかも覚えていない記憶喪失だからだ。
最初俺はここの家主の子供ではと最初思いこいつに聞いてみたが本人はここの記憶すらないみたいだ。『わかんない』と言われた。だから俺はこいつの記憶が戻るまでの間ここに残ると決めた。俺は親にはなれないが、何故かこいつを1人ここに残す事は出来なかった。不思議な感覚だった。言葉にはできない何かが働いたような気がする。
そんなこともありこの子の記憶が戻るまでの間一緒にすることとなったがやはり名前がないと不便だからな、昔お世話になった奴の名前を頂いた。今もマリア陛下にコキ使われてるんだろうな、あいつは。
「あはは、サンディ、前を見ないからだ。前を見ないから転ぶ。」
「笑わないでよアランさん。」
俺は転んだサンディに手を差し出すと、なんでと言った目で見てくる。
「汚れるぞ、ほら、つかめ」
女の子座りで膨れっ面を見せるご機嫌斜めみたいだな。ここに姿を現した当初はそんな表情見せる事はなかったのにここ最近は表情豊かになってきた。そんな彼女は楽しそうだ。だからこのままではいけないのだろう。彼女も立派な大人だ誰とも接することのない人生など彼女に歩ませてはいけぬのだろう。友人、恋人あいつにはそれら全てが欠如している。もう遅いのだ、だがそれに甘えずるずると引き延ばしてはいけない決断する時だ。こいつの未来の為に。俺は俺がができることをするしかないんだ。たとえそれがどんな結末を迎えようと。
俺の手を掴みその細い手を引き上げる。
そうするとサンディは服についた泥をパタパタと叩き落とす。
「サンディ、そろそろこの山を降りようと思う。お前はどうする」
そう問いかけるとサンディは不思議そうな顔を浮かべる。まぁそうだろうなここ以外こいつは知らない。山を降りると言っても全く意味合いなど伝わらないだろう。
「山?降りるってどこに?」
「ここから100km離れたところに俺が昔いた街がある。お前はもう立派な大人だ、お前が見る景色はここだけじゃない。もっと広い。」
こいつももう大人だいつまでもここに居てはならぬ。それは俺も同じことだといえよう、ここで5年。心を休ますことができた、そろそろ潮時だと思っていた。だから丁度いい機会だこいつには経験が必要だ。
「街って?」
「んー・・・そうだな人間がいっぱい居て、建物もたくさんある。まぁここより少しだが緑は少なくなるがいい所だった。」
そう説明するがまたしても不思議そうな顔をする。
「だった?もうないの?」
「昔の話だ、今は違うのかもしれん、俺もな少し用事があるん、そうすると1ヶ月はここに帰ってこれないかもしれない。お前1人ここに残すわけにはいかない。お前1人じゃここでの生活すらままにならぬだろう。だから俺に着いてくるか」
「行かないって選択肢なんでないでしょアレクさん」
悪いなサンディ、選択肢はないんだ。お前は物分かりがいい子だ、だから俺が負担をかけちまう。すまない。サンディ。俺を許してくれ
「わかってくれるか」
「うん!街って美味しそう」
「食べ物じゃない」
「なーんだ、なら行かない。」
「だが、ここよりも美味しい食べ物はたくさんある」
「なら行く!!」
「よし、準備しないとな、急だが明後日ぐらいに出るか」
「ここにもう帰って来れないの?」
「んー、わからん帰って来たくなったらいつでも来れる距離というわけではない。街まで俺の足で3日はかかるお前がいるなら5日は見といたほうがいいな、」
「わかった。じゃあ、食べ物たくさーん持っていかないと」
「そうだな詰め込めるだけ持って行こう。重くなっても文句言うな」
「言わない!大丈夫!」
「中に戻るか」
「うん!」
その無邪気な笑顔に俺の良心が俺を咎める。だが黙っててくれ。もう少しでいいから。
2日後
「なんだその荷物」
サンディの背中には大量の食べ物が積まれていた。
「お前服は良いのかよ」
「ちゃんと持ってるーほら見てよ」
サンディはバランスを保とうと踏ん張りながらゆっくり回転する。
「お前ちょっとそれ下せ」
「はーい」
背中に背負った荷物をゆっくりと丁寧に地面に置く。
「ほらこっちもて、俺の手荷物は少ない。だからお前がこれを持ってけ」
「いいの?」
「行くぞ遅れる」
「わかった」
サンディは寂しそうに呟くと今日まで住んでいた家に向かって振り返る。
「行ってくる!必ず帰ってくるから!」
「そうだな」
「アレクが返事しなくていいの!」
「悪かった」
『待ってるからね』
「ん?なんか聞こえた、」
「空耳じゃねえか俺には聞こえなかった。」
「変なのー」
そこから俺たちの旅が始まる。
その第1歩であった。




