第8話 勇者アスティの書籍化まだー?
「ノベり。」の月別ランキングTOP10にまで到達したアスティの作品は、人気の上昇が留まるところを知らない。
合計応援ポイントは、とうとう10万にまで到達。
応援ポイントが増えるほどに強くなる勇者アスティは、訳が分からないくらい強くなった。
山をも両断する必殺剣『本気の一撃』なんか、とうの昔に習得している。現在は、その山を原子分解して消滅させる必殺剣とか習得している。殺意高すぎませんか。
物理、魔法、あらゆる属性、あらゆる状態異常を自動的に反射するスキルまで習得している。今のアスティは、たとえ超遠距離狙撃を用いても暗殺できない。オカルト的な呪殺だって反射するだろう。
さらには、「敵のレベルを強制的に1にするスキル」とか、「敵の全てのスキルを封印するスキル」とかも習得している。どんな強敵が出てこようと、アスティの前に立てば、たちまちの内に無力化される。なんだコイツ負けイベントのボスかよ。
まぁそういうワケで、現在のアスティは完全なる無双状態。
アスティに蹴散らされる魔族たちを見て、読者たちの興奮も留まるところを知らない。
ここまで強くなれば、もう魔王だって楽勝だろう。
僕が魔王なら、今からでも直接アスティの元に出向いて土下座するレベル。
しかしアスティ曰く、この世界の魔王は恐ろしいほどに強く、これでも勝てるかどうかは分からないレベルらしい。そんな化け物が野放しになってるのに、よく今まで無事だったなそっちの世界。
まぁ、それはそれとして。
合計10万ポイントをも集めたアスティの作品。
これだけの人気作、出版社が見逃すはずがない。
連中はしょせんポイント至上主義だ、と僕の書き手友達が言ってた。
だから、アスティに書籍化の声がかかるのも時間の問題のはず。
そうなれば、アスティのイラストやグッズが世に出るかもしれない。
そんな形ではあるが、僕はアスティに会えるかもしれない。
そう思っていたのだけれど……。
アスティは一向に、書籍化決定のお知らせを報告してこなかった。
なんでだろう。守秘義務とか?
実はもう声がかかってるけど、今はまだ言えないとか?
これだけの人気作、もういつ出版社から声がかかってもおかしくないと思うんだけど。
彼女の作品が書籍化を狙えるくらいに成長してから、すでに一か月以上経過している。その間、僕はずっと書籍化決定の報告を待っていたけれど、一向にそんな報告が来る気配はなかった。
だからもう、とうとう耐え切れなくなって。
僕は彼女の作品の感想で、それとなく聞いてみることにした。
感想欄の「グッドな点」に、いつものように誉め言葉を。
そして「気になってしょうがない点」に、「書籍化マダァー?(・∀・ )っ/凵⌒☆」と、茶化すような感じで入力、送信した。
送信してから、少し後悔した。
なんとなく、この感想でアスティの気を悪くしてしまったらどうしよう、と。
ここまで人気になっているのに書籍化に触れないのは、触れたくないワケがあるのではないか、と。送信してから思い始めてきた。僕は不安になって仕方なかった。
アスティからの返事は、少し時間が経ってから送られてきた。
まず先に言うと、アスティは僕の感想で気を悪くしているような様子は全然なかった。そこはすごく安心した。
それで、肝心の内容だが。
こんなことが書かれていた。
『オールドくんー! いつも応援ありがとー! しょせきか……っていうのは、実は前に一回、なんか声をかけられたことがあったんだよねー。けれど私、みんなと住んでる世界が違うしさ、よくわからないお話だったから断っちゃった!』
お……おいおいおい……。
キャラ付けのためにそこまでするのか、アスティの中の人よ……。
まぁ、でも、それはとってもアスティらしいというか。
僕は、悲しくなるより先に、「さすがアスティ」と呆れた笑いが出てきてしまった。
そして同時に。
彼女に対して、申し訳ない感情が湧き上がってきた。
僕は最初、彼女の作品に出会ったとき、「ポイントクレクレもここまで来たか……!」と思った。応援ポイントで強くなるという設定も、どうせいつか書籍化を狙うためにポイントをかき集めようと思っているのだろう、と。そう感じていたのだ。
だが、そんな最初の頃の僕の予想に反して。
彼女は、書籍化の声を自ら蹴っていた。
彼女が評価ポイントを欲するのは、魔王から自分の世界を守るため。
彼女は、どこまで行っても「勇者アスティ」を貫くつもりなのだ。
彼女はいま、何万人ものユーザーから応援されている。
最初は0ポイントだった応援ポイントが、今では10万に達している。
そのすべての始まりが、僕が入れた10ポイントとお気に入り一件。
自分が入れたポイントを元手に、彼女はこの小説投稿サイトでここまで成り上がった。
その一助になることができたような気がして。
僕はとても嬉しくて、誇らしい気持ちだった。