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7/12

第7話 勇者アスティは大人気

 僕がアスティの作品にレビューを送ってから、数日後。

 アスティの作品は、人気が大爆発していた。


 爆死したって意味じゃないぞ。

 ものすごく人気が出てきたんだ。


 はたして、僕のレビューの内容が良かったのか、それともレビューを投稿した時間帯が良かったのか、ただタイミングが良かったのかは分からないが、僕のレビューはそこそこの数のユーザーをアスティの作品に呼び込むことに成功したらしい。


 で、その呼び込んだユーザーたちがアスティの作品にポイントを入れて、そのユーザーのうちの何人かが自身のSNSやブログ、あるいはネット掲示板などで話題にし、さらに多くのユーザーを呼び込んでくれたのだ。


 こうして集まってきたユーザーたちが、さらにアスティの作品にポイントを入れて、アスティの作品はどんどんランキングを駆け上がっていき、ついには月別ランキングのTOP10にランクインした。


 ここまで来れたら、もう文句なしの超人気小説の仲間入りである。

 ポイントの入りも、さらに凄まじいことになるだろう。


 ネットの口コミを見ると、どうやら「主人公であるアスティ自身が、ユーザーとしてこの作品を書いていて、物語の主人公から感想の返信がもらえる」という設定がウケているようだ。たしかに今までありそうでなかったようなスタイルだもんな。


 そんなわけで、アスティに感想を送る人も、ものすごく増えていた。


 アスティを応援する人。アスティの冒険譚に勇気をもらえたと言う人。

 その感想の一つひとつに、アスティは元気よく対応していた。


 中には、アスティの作品に悪いことを言う人もいた。

 ここの部分がつまらないとか、文章がつたなくて読みにくいとか。


 人気作品へのねたみかは知らないが、もはや作品の内容になど一切触れず、アスティの人格を否定するだけの感想もあった。


 こういった感想に対してアスティがどう反応するかというと、わりと真正面から殴り合う。


 ここの部分がつまらなかったという声に対しては、『そんなこと言われたってー! 今回はそういう冒険だったんだよー!』と釈明し、文章が拙いという声に対しては『もともと勉強とか苦手なんだけど、世界を救うために頑張って書いてるんだよ! ちょっとくらい許してよー!』と弁解する。


 アスティへの人格否定については『なんだとー!? バカって言う方がバカなんだぞー!』と、実に彼女らしさ溢れる可愛らしい反撃をお見舞いしていた。


 こういう返信って、下手すると炎上しそうなものだけれど、多くの読者は「まぁアスティだし」と受け止め、むしろ彼女らしい返信と思って特に炎上も何もしなかった。これって冷静に考えるとすごいことではなかろうか。


 今までアスティの作品の感想欄やコメント欄には、僕くらいしかまともな書き込みをしている人はいなかった。……ビキニアーマーの件は除く。


 それが今では、無数の読者から感想やコメントを寄せられている。

 なんだかアスティが、雲の上の住人になってしまったような気分だ。


 皆がアスティをアイドル扱いして、自分を見てと言わんばかりに彼女を称賛している。僕より後からやって来たくせに。最初に彼女を見つけたのは僕なんだぞ。


 ……うん。今の僕自身をよく見て、分かったことが一つ。


 僕は以前、アスティのことを「お気に入りのキャラ」だと言ったことがあった。好きなキャラ、活躍するところをたくさん見たいキャラだけど、愛情としてはあくまでファン止まり。


 けれど、今の僕は、アスティが他の読者と仲良くしていると、なんだか嫉妬してしまう。他の読者が彼女と仲良くしようとすると、なんだか彼女に粉をかけられている気分になる。彼女のことを悪く言われると、なんだか無性に腹が立ってしまう。


 だから……今の僕は……。

 たぶん、アスティに本気で恋しているのではないか、と思う。


「二次元キャラに恋とか、キモオタ乙」とか思われるかもしれないが、だって仕方ないと思わないか? あっちは物語のキャラのはずなのに、現実のユーザーみたいに僕と感想欄でやり取りしてくるんだよ?


 小説や漫画やアニメのキャラっていうのは、そのキャラの活躍するところを、彼らとは別の世界である現実世界から眺めるだけの関係。そう思っていたのに、その距離感を完全に狂わされた。


 憧れのキャラと、直接やり取りできる。

 これって、全ての創作好きが一度は描く夢じゃないか?


 僕はいま、その夢が叶ってしまっているんだよ。

 だから、アスティのことを特別に想ってしまうのも仕方ないんじゃないか。


 とはいえ……まぁ、うん。

 アスティにはやっぱり、中の人がいるワケで……。

 その中の人が、せめて同い年くらいの女の子だと、僕も何の気兼ねもなく好きになれるんだけどなぁ。


 まぁ、それはそれとして。


 アスティに会ってみたい。

 漠然と、僕はそう思うようになってきた。


 どんな表情をする子なのか。

 どんな仕草をする子なのか。

 文章だけでなく、映像イメージとして彼女を見てみたいと思うようになった。


 なんか……こう書くと、ストーカー気質を疑われそうだけど、僕自身によこしまな気持ちはないはずだし、思考や精神状態も正常なはず。僕はただ純粋に彼女のことを想っている。ダメだ、もう何書いてもストーカーだと思われそうになってきた。


 ところで、僕の中で、ふと一つの考えが浮かんだ。


 彼女の作品は、ものすごい人気になった。

 そうなると、出版社が彼女に書籍化の声をかけるのではなかろうか。


 この作品が書籍化したら、アスティにも必ずイラストが付くだろう。

 彼女がどんな子なのか、限りなく作者アスティ自身のイメージに近い形で拝むことができる。


 アスティに会えるかもしれない。

 彼女の書籍化を、僕は心の底から祈った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 今回はこんな感じです~~♪ 勇者アスティ最近のお悩み <i591161|34709> 勇者アスティ最近のお悩み2 <i591163|34709>
[良い点] アスティちゃんを想う気持ち、よく分かります! 私も夢中ですので( *´艸`) 人気になると寂しい、という経験あります! 私もガチで二次元に恋してた時期があったのでめちゃくちゃ共感しました。…
2021/10/27 07:24 退会済み
管理
[一言] な、中の人なんて居ない!! 居ないよ? 居ないからね!! 中の人が60とか70のじいさんとかアラフォーのおばさんとかではない事を祈る(ΦωΦ) (ホントに中の人なんか居ない)
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