第7話 勇者アスティは大人気
僕がアスティの作品にレビューを送ってから、数日後。
アスティの作品は、人気が大爆発していた。
爆死したって意味じゃないぞ。
ものすごく人気が出てきたんだ。
はたして、僕のレビューの内容が良かったのか、それともレビューを投稿した時間帯が良かったのか、ただタイミングが良かったのかは分からないが、僕のレビューはそこそこの数のユーザーをアスティの作品に呼び込むことに成功したらしい。
で、その呼び込んだユーザーたちがアスティの作品にポイントを入れて、そのユーザーのうちの何人かが自身のSNSやブログ、あるいはネット掲示板などで話題にし、さらに多くのユーザーを呼び込んでくれたのだ。
こうして集まってきたユーザーたちが、さらにアスティの作品にポイントを入れて、アスティの作品はどんどんランキングを駆け上がっていき、ついには月別ランキングのTOP10にランクインした。
ここまで来れたら、もう文句なしの超人気小説の仲間入りである。
ポイントの入りも、さらに凄まじいことになるだろう。
ネットの口コミを見ると、どうやら「主人公であるアスティ自身が、ユーザーとしてこの作品を書いていて、物語の主人公から感想の返信がもらえる」という設定がウケているようだ。たしかに今までありそうでなかったようなスタイルだもんな。
そんなわけで、アスティに感想を送る人も、ものすごく増えていた。
アスティを応援する人。アスティの冒険譚に勇気をもらえたと言う人。
その感想の一つひとつに、アスティは元気よく対応していた。
中には、アスティの作品に悪いことを言う人もいた。
ここの部分がつまらないとか、文章が拙くて読みにくいとか。
人気作品への妬みかは知らないが、もはや作品の内容になど一切触れず、アスティの人格を否定するだけの感想もあった。
こういった感想に対してアスティがどう反応するかというと、わりと真正面から殴り合う。
ここの部分がつまらなかったという声に対しては、『そんなこと言われたってー! 今回はそういう冒険だったんだよー!』と釈明し、文章が拙いという声に対しては『もともと勉強とか苦手なんだけど、世界を救うために頑張って書いてるんだよ! ちょっとくらい許してよー!』と弁解する。
アスティへの人格否定については『なんだとー!? バカって言う方がバカなんだぞー!』と、実に彼女らしさ溢れる可愛らしい反撃をお見舞いしていた。
こういう返信って、下手すると炎上しそうなものだけれど、多くの読者は「まぁアスティだし」と受け止め、むしろ彼女らしい返信と思って特に炎上も何もしなかった。これって冷静に考えるとすごいことではなかろうか。
今までアスティの作品の感想欄やコメント欄には、僕くらいしかまともな書き込みをしている人はいなかった。……ビキニアーマーの件は除く。
それが今では、無数の読者から感想やコメントを寄せられている。
なんだかアスティが、雲の上の住人になってしまったような気分だ。
皆がアスティをアイドル扱いして、自分を見てと言わんばかりに彼女を称賛している。僕より後からやって来たくせに。最初に彼女を見つけたのは僕なんだぞ。
……うん。今の僕自身をよく見て、分かったことが一つ。
僕は以前、アスティのことを「お気に入りのキャラ」だと言ったことがあった。好きなキャラ、活躍するところをたくさん見たいキャラだけど、愛情としてはあくまでファン止まり。
けれど、今の僕は、アスティが他の読者と仲良くしていると、なんだか嫉妬してしまう。他の読者が彼女と仲良くしようとすると、なんだか彼女に粉をかけられている気分になる。彼女のことを悪く言われると、なんだか無性に腹が立ってしまう。
だから……今の僕は……。
たぶん、アスティに本気で恋しているのではないか、と思う。
「二次元キャラに恋とか、キモオタ乙」とか思われるかもしれないが、だって仕方ないと思わないか? あっちは物語のキャラのはずなのに、現実のユーザーみたいに僕と感想欄でやり取りしてくるんだよ?
小説や漫画やアニメのキャラっていうのは、そのキャラの活躍するところを、彼らとは別の世界である現実世界から眺めるだけの関係。そう思っていたのに、その距離感を完全に狂わされた。
憧れのキャラと、直接やり取りできる。
これって、全ての創作好きが一度は描く夢じゃないか?
僕はいま、その夢が叶ってしまっているんだよ。
だから、アスティのことを特別に想ってしまうのも仕方ないんじゃないか。
とはいえ……まぁ、うん。
アスティにはやっぱり、中の人がいるワケで……。
その中の人が、せめて同い年くらいの女の子だと、僕も何の気兼ねもなく好きになれるんだけどなぁ。
まぁ、それはそれとして。
アスティに会ってみたい。
漠然と、僕はそう思うようになってきた。
どんな表情をする子なのか。
どんな仕草をする子なのか。
文章だけでなく、映像として彼女を見てみたいと思うようになった。
なんか……こう書くと、ストーカー気質を疑われそうだけど、僕自身に邪な気持ちはないはずだし、思考や精神状態も正常なはず。僕はただ純粋に彼女のことを想っている。ダメだ、もう何書いてもストーカーだと思われそうになってきた。
ところで、僕の中で、ふと一つの考えが浮かんだ。
彼女の作品は、ものすごい人気になった。
そうなると、出版社が彼女に書籍化の声をかけるのではなかろうか。
この作品が書籍化したら、アスティにも必ずイラストが付くだろう。
彼女がどんな子なのか、限りなく作者自身のイメージに近い形で拝むことができる。
アスティに会えるかもしれない。
彼女の書籍化を、僕は心の底から祈った。