第5話 勇者アスティがお気に入り?
次の日。
『みんながたくさん勧めてくれた、ビキニアーマーを購入したよー! うひゃー、胸のまわりとかおなかとか太ももとかが寒いー!』
知ってた。
少しでも彼女を信じようとした僕が馬鹿だった。
感想欄を見てみれば、どいつもこいつも歓声を上げてお祭り騒ぎ。
僕のネット小説仲間たちまでいやがる。
明日、学校で会ったら殴ったる。
……いや、なんで殴る必要があるんだ?
僕が馬鹿にされたワケでもないのに?
アスティが皆に良いようにいじられてるから?
もしかしたら、そうかもしれない。
僕が応援ポイントを入れたことで、活力を取り戻した少女。
冒険の始まりの方から面倒を見てる、放っておけない女の子。
いつの間にか、僕の中で、彼女がすごくお気に入りのキャラクターになっていたのかもしれない。好きなキャラクターを小馬鹿にされたら、ちょっと腹が立つのは当然だもんな。
さて、アスティは結局ビキニアーマーを着たまま冒険を再開。
旅路は順調。スムーズに次の町へ到着。
新しい町に到着したアスティ。
まず最初に向かったのは、防具屋。
さすがにビキニアーマーをずっと着ているのは寒いとのことで、ビキニアーマー以外の新しい防具を持っておきたいとのことだ。暖かければビキニでもいいのか。お前に羞恥という感情は無いのか。
で。
今回も前回と同じく、アスティは僕たち読者に意見を聞いてきたワケだが。
『どれがいいかな?』
・毛皮のマント
・ふさふさローブ
・僧侶の法衣
・キャプテンコート
・聖なるキャミソール ←
・不可思議なボレロ
ほらまたすぐそういうことをする。
なんで普通の装備を取り扱っている中に下着を置いているんだよこの店は。
だいたい、そういう下着の類の装備って、カジノの景品とか世界中に落ちているメダルを集めて交換するアイテムじゃないのか。そっちの世界じゃ店で売ってんのか。
一応、人間の善性なるものを信じて、感想欄も見てみる。
『聖なるキャミソール』
『聖なるキャミソール』
『聖なるキャミソール』
『聖なるキャミソール一択』
『聖なるキャミソール』
『聖なるキャミソール』
『聖なるキャミソールしかありえない』
思わず頭を抱えたくなる、それはそれはひっどい光景が広がっていた。
人間の善性どころか、この世全ての悪だよ。
でもまぁ、キャミソールって下着でしょ。
これならさすがのアスティだって……。
ほら、彼女は一応、女の子なんだし。
アスティだって……えーと、まぁその。
次の日。
『みんなにお勧めしてもらった、聖なるキャミソールを購入したよ!』
知ってた。
少しでも彼女を信じようとした僕が馬鹿だった。
『さっそく着てみたけれど……うーん、ビキニアーマーと大して変わらない寒さかなー』
そして素直に着てしまうお前もお前だよ。
もっとこう、「男の人っていつもそうですね…! 勇者のことなんだと思ってるんですか!?」くらい文句言ってもいいんだよ?
コメント欄を見てみれば、やっぱり祭りが開催されていた。
今のアスティの姿をイラストにできる絵師を募集する声まで出ている。
言っておくが、僕にイラストなんか期待するな。
優しい美術の先生が通知表で唯一1をつけた生徒、それが僕だ。
……でも、ちょっと勉強してみようかなゲフンゲフン。
な、なにを考えているんだ僕は。
僕は決して、そんな邪な目でアスティを見ないぞ。