第4話 勇者アスティは頑張っている
アスティが応援ポイントでサバイバルスキルを習得して、数日後。
あれからアスティは、意外なほど上手くやっていた。
まず、『釣り超人』のスキルが意外といい仕事をしている。このスキルは釣りが上手くなるだけでなく、珍しい魚も釣れやすくなるらしい。
彼女が竿を振り上げるたびに、食べるだけでわずかながらもステータスを永続アップさせる魚や、店で売れば高値で買い取ってもらえる魚を次々と釣り上げてみせる。
とはいえ、そこはアホの子アスティ。
高値で売れる魚まで、一緒に食べようとしてしまう。
このままでは、彼女はいつまで経っても野宿から解放されない。
高値の魚は店に売却してはどうかと、僕はアスティに感想を送って提案した。
アスティはそれでも魚も食べたそうにしていたが、最後は「やっぱりふかふかベッドも恋しいなぁ」と言って魚を売却。これでアスティは、当面は残飯で食いつなぎつつ橋の下で寝る生活から解放されたはずだ。
アスティは宿代を確保しつつ、余ったお金でなぜか各種調味料を購入。
どうやらこの調味料を使って、魚を料理するらしい。
そこで活きるのが、僕のプランを忘却した末に入手した『料理超人』のスキル。
スキルのおかげで究極の料理上手となっているアスティが、ステータスをアップさせる魚を料理すると、その料理を食べたときの能力上昇率がさらにグンと上がるのだ。彼女の素晴らしい調理の腕によるものである。
こうしてアスティは、魚を食べつつメキメキとステータスを上げていき、並の雑魚敵には負けないくらいに強くなった。
魚を釣って食べまくるところはともかく、実力は勇者と呼んでも差し支えないくらいにはなっただろう。
それと、俺のネット小説仲間たちが彼女の作品にポイントを入れたことで、彼女の作品が少しずつ他のユーザーにも注目され始めてきた。僕たち以外にも彼女の作品にポイントを入れる人たちが出てきた。
まだまだ超強力なスキルを手に入れるには全然届かないが、アスティは少しずつ強くなってきている。この調子でいけば、魔王を討伐できる日もそう遠くないだろう。
さて、ここまでの冒険でまとまったお金が手に入ったアスティは、そろそろ武具を新調しようと考えたようだ。アスティはさっそく、現在拠点にしている町の武具屋へと向かった。
アスティが武具屋を物色する様子が書かれている。
武器は良いものが無かったらしく、新調は見送りに。
気を取り直して、アスティは防具の品ぞろえを確認する。
『わぁぁ! いろいろあって迷っちゃうよー! みんなはどれがいいと思う? もしよかったら、活動メモのコメントでみんなの考えを聞かせてほしいな!』
その一文と、売っている防具のリストで、今回のお話は締めくくられていた。
で。
その防具のリストなのだが。
・狩人の服
・鉄の鎧
・鋼の胸あて
・ビキニアーマー ←
・マジックアーマー
・蜘蛛糸のマント
ちゃんとしたラインナップの中にしれっと混ざる、ビキニアーマー……。
いや別に、僕はこういうのを特別嫌悪しているわけじゃないんだけどさ。どうして最近のファンタジー小説の防具屋って、率先してこういうのを造るのか。
リストの真ん中の方に混ぜ込まれているのも、防具屋のおっちゃんの「ここに置いとけば、別にお色気を重視しているワケじゃない真面目な防具として並べているように見えるだろ」という感じの魂胆が見え隠れして仕方ない。
そして僕は、嫌な予感がして、さっそく活動メモのコメント欄を覗いてみた。
そこには、いつも以上にたくさんのコメントが書かれていた。
『ビキニアーマー』
『ビキニアーマー』
『ビキニアーマー』
『ビキニアーマー一択』
『ビキニアーマー』
『ビキニアーマーだろ常考』
『ビキニアーマー』
これだよ。
お前ら、普段は僕くらいしかコメント書かないのに、こういう時だけ心を一つにしやがって。
僕は無難に「鉄の鎧」を勧めておいた。
けれど、どうせ彼女のことだ。
たぶん、一番多く勧められているビキニアーマーが最良と信じて疑わず、迷いなく購入するに違いない。
いやでも……彼女だって女の子だ。ビキニアーマーなんて、そんな露出度の高い装備、いくら読者のためとはいえど、着たがらないのではなかろうか。
そして彼女は、最初のポイント提供者でもある僕の案を採用して、無事に「鉄の鎧」を購入してくれるという可能性……。
うん、ゼロではないぞ。十分に有り得る。
信じるんだ。アスティはきっと、僕の案を見てくれるって。
ドキドキしながら、僕は次の日を待った。