第3話 勇者アスティの評価スキル一覧表
勇者アスティに初めての感想を送ってから、およそ一時間後。
彼女の活動メモに、応援ポイントスキルの一覧表が更新された。
さっそく僕は、一覧表に目を通してみる。
ざっと見ただけでも、とんでもないスキルがこれでもかと並んでいる。
たとえば、死亡したら自動的に復活する『オートリザレクト』。
あらゆる攻撃で自分の生命力を回復させてしまう『全属性吸収』。
そして、山をも一撃で真っ二つにする必殺剣『本気の一撃』。
ちょっと待って、いつもの攻撃は本気じゃないの?
こんなのでも序の口で、まだまだ凄まじいスキルが数多く存在している。これら全てを習得できれば……彼女の作品のタイトルの通り、アスティは最強の勇者になれるだろう。
まぁ、とはいえ、そんなに甘い話ではないようで。
これらのスキル、超強力な代わりに、どれも必要応援ポイントが凄まじい。『オートリザレクト』は3000ポイント。『全属性吸収』は2000ポイント。『本気の一撃』は3500ポイント。
つまり、アスティさんが本気を出すには3500ポイントも必要らしい。どんだけ本気出したくないんだ。
ネット小説は厳しい世界だ。
一件のブクマさえ手に入れることができない人だってものすごく多い。
現に、僕にこの作品を見つけてもらう前までのアスティはそうだった。
彼女が『釣り超人』のスキルを習得したのも、これくらいしか選択肢が無かったからというのもあったのだろう。
しかし、もう少し頑張れば、50ポイントのスキルの一つに『取得経験値10倍』というものがある。これは文字通り、アスティが魔物を倒したときに取得できる経験値が10倍になるというもの。
このスキルは、今後の彼女の戦いにとても役立つはずだ。
僕はこの活動メモのコメントに、彼女へのメッセージを書いて送った。
「次は『取得経験値10倍』のスキルを目指してみてはどうでしょう。役に立つと思いますよ」
これで良し……と。
そして案の定、返信はすぐに来た。
『なるほどー! 参考になりました! がんばってポイントを貯めてみようと思います!』
よしよし、いい子だ。
魔王討伐を目指して頑張るんだぞー。
まぁ、どうせ、彼女の中の人は、どのスキルが有用で、どのスキルを優先して取得するべきか、普通にちゃんと分かってるんだろうけどね。
けれどまぁ、向こうも楽しくなりきりごっこをしてるんだ。
ならばこっちも、せいぜい付き合ってやるとしよう。
なんにせよ、アスティは危なっかしすぎて、ちょっと放っておけないしね。
その次の日。
僕は学校のネット小説仲間たちに、アスティの作品について教えてやった。
五人の仲間たちもまたアスティの作品が気に入ったようで、五人全員で満点評価&お気に入り登録を入れていた。
これでアスティの評価ポイントは、総合で72ポイント。
アスティは昨日、10ポイントを使って『釣り超人』のスキルを習得していたけれど、それを差し引いても、スキルポイントとして使える応援ポイントは62ポイント残っているはず。
とりあえず、昨日提案した『取得経験値10倍』には届く!
きっとアスティも喜んでいるに違いない。
学校が終わり、家に帰った僕は、さっそく「ノベり。」にログインし、アスティの作品をチェック。
アスティの作品は最新話が更新されていた。
僕はさっそく最新話のページを開き、アスティの様子をチェック。
『すごいんだよ! 今日はね、なんかたくさんポイントが入ってきてくれたんだよ! これで、あのスキルもこのスキルも習得できる……!』
ははは、喜んでる喜んでる。
ここからのお話の流れは、予定通り『取得経験値10倍』を手に入れて、余った10ポイントで彼女の好きなスキルを……ってところかな。
『ええと、まずは釣りあげたお魚を美味しく料理するために『料理超人』のスキルをゲットして、次にいつでも快適な野宿ができるように『キャンプマスター』を取得して……!』
待て待て待てぇぇぇぇ!!
この勇者、自分がほしいスキルに目がくらみ過ぎて、昨日のプランを忘れていらっしゃるぞ!
結局、どれだけ僕が投稿済みの小説に向かって叫ぼうと、アスティの耳に届くはずはなく、彼女は無事に『料理超人』や『キャンプマスター』をはじめとした、戦いに全く役に立ちそうにないサバイバルスキルばかりを習得した。
もう勇者やめてキャンプ女子になればいいんじゃないかな、キミ。