第10話 勇者アスティの気持ち
僕がアスティに、僕のことについてのメッセージを送ってから数分後。
アスティから、返信が届いた。
『わぁー! ありがとー! 『こーこーせー』とか『やきゅー』とか、そういうのは私の世界にはないからちょっとわからないけど、なんとなくオールドくんって、私と歳が近いようなイメージ!』
そのイメージに間違いはないけれど、どこまで勇者に成り切るつもりなんだ、アスティの中の人は……。本当は高校生も野球も知ってるんだろ?
そんな野暮な考えを頭から追い出して、僕は高校生や野球について教えるメッセージをアスティに送信。ついでに、アスティの言う通り、僕たちは歳が近いということも。
再び、アスティからの返信がすぐに届く。
その内容は、本当に、知らない世界を目の当たりにしている年頃の女の子のようで。
僕がこちらの世界のことについて教えるたびに、アスティは輝くような反応の返信を送ってきた。それが楽しくて、僕はさらにいろいろなことを彼女に教えた。……もちろん、僕の個人情報が深く知られない程度に……。
最初はいつもの感想のように丁寧語でメッセージを送っていた僕は、気が付けば自然な標準語でアスティと話していた。
『ねぇ、オールドくん。最初のころさ、私がオールドくんの計画を忘れて、料理超人やキャンプマスターのスキルを習得しちゃったこと、怒ってる?』
「あー、あったね、そんなこと。いやいや、全然怒ってないよ。まぁ、当時はちょっとビックリしたけどね」
『ホントにごめんねー! 私も後から思い出してさ、自分の忘れっぽさがイヤになっちゃったよ! それから後で習得した絶対記憶のスキルはさ、もう二度とこんなことがないようにって思って、最優先で習得したんだよ!』
「そ、そうだったんだ。思わぬ裏事情が聞けちゃった」
こんな調子で、僕とアスティのメッセージのやり取りは一時間近く続いた。もう一生分のメッセージ機能を使った気がする。
「だいぶ話しちゃったね。明日の戦いもあるだろうし、そろそろお開きにした方が良いんじゃないかな」
『そうだね。うん、しょうがないかー! それじゃあ、おやすみー!』
これにて、アスティとのやり取りは終了。
……と、思いきや。
最後にもう一回、アスティからメッセージが来た。
『ごめん! 最後にこれだけ! オールドくん、キミのことを教えてくれて本当にありがとう! それと、そっちの世界のいろんなことを教えてくれて! 楽しいお話をしている間に、胸のモヤモヤはスッキリしちゃったし、むしろ勇気がモリモリ湧いてきたよー!』
律儀だなぁ。
アスティからのメッセージには、まだ続きがある。
『私ね、王家の予言で、仲間を連れて行けない勇者だったんだ。仲間を連れて行ったら、必ず魔王に敗北してしまうだろうって予言があってさ。だからずっと一人で旅をしてきたんだよ。正直に言うと、それってとっても寂しかった。でもね、オールドくんが来てくれて、それからたくさんの人たちが私を応援してくれて、ちっとも寂しくなくなったんだよ!』
そ、そういえばたしかに、アスティってずっと一人旅だったな。
そんな裏事情があったのか。
『今でこそ、たくさんの……えーと、ゆーざーっていうんだっけ? たくさんのゆーざーさんから応援してもらってるけど、そのきっかけを作ってくれたオールドくんは、私にとって一番特別なゆーざーさんだったんだよ!』
そっか……、僕はちゃんと、キミの特別になれていたのか。
それが聞けて、僕も嬉しくなった。
『もし、魔王を倒して、こっちの世界が平和になったら、いつかキミに会いに行きたいな……』
え……。
『まぁ……でもやっぱり、お互いの住んでる世界が違うから難しいよね! ゴメンね変なこと言っちゃって!』
いや、ちょっと待って、べ、別に変なことじゃ……。
『明日、私は魔王と戦う。もし魔王に勝てたら、その時はいつも通り、魔王に勝てた報告を作品としてアップするよ! でも……もし私が負けたら、もう作品は更新されないと思う。その時は、オールドくん。キミが私の代わりに、作品の完結をみんなに教えてほしいんだ。勇者アスティは負けてしまったって』
え!? い、いやそんなこと言われたって……っていうか、勝てるんだよね!? そういう風にストーリーができあがってるんだよね!? ねぇ!?
『伝えたいことは以上! それじゃあまた、魔王討伐の報告で会おうね!
今日は本当にありがとう! 私、オールドくんが大好きだよ!』
アスティからのメッセージは、ここで終わっていた。
ちゃんと、更新、されるんだよな……?
これは、ちゃんと、ネット小説なんだよな……?
僕はすぐさま返信のメッセージを作成。
ただ一言。
「こちらこそありがとう! 明日は頑張ってね!」
……と。
それだけ書いて、送信した。
いろいろと聞きたいことはあった。
でも、聞かないことにした。
アスティは今、不安が晴れて絶好調だ。
余計なことを聞いて再び彼女を不安にしてしまうのは避けたかった。
このメッセージに対するアスティからの返信は、来なかった。
キリが良いところで終わったからだと、そう信じたかった。




