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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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19 一撃

 拳を突貫にシフトするのは難しくもない。ただグローブの中で僅かに握りを変えるだけでいい。2本の指の第二関節を突き出すように握り変えるだけで一撃必殺の威力を秘める突貫に変貌する。ルールブックにはない反則。相手陣営はその存在を知らない。壊れ拳の情報だけが刷り込まれている。


 ゴングが鳴って第2R。


 レフェリーのボックスと同時に謝敷が突っ込んでくる。1Rめの挨拶代わりとは眼の色が違う。確実に倒しに来ている。もう相手陣営はGOサインを出したと見える。

 先刻のラッシュと同等の連打が奥野に牙を剥く。観客席からも声援が上がる。奥野も得意のディフェンスで距離を置こうとするが謝敷の踏み込みがその上をゆく。距離を詰めながらもラッシュの弾幕。攻めているのは謝敷なのに逃げる奥野の方がスタミナを削られる。

 謝敷の大振りフックを躱しつつの左ボディーがヒット。が、手打ちのために効果なし。打ち終わりを狙って更にプレッシャーをかけてくる謝敷。

 KO狙いの連打をなおも容赦なく浴びせてくる。躱しきれない数発を堪らずアームガードブロック。それでも止まらない謝敷の前進。もはや奥野はガードを固めて下がる一方。お構いなしにパンチを叩き込んでくる謝敷。悲鳴にも似た平岩の声。KOを期待する観客の声援。謝敷の息もつかせぬ猛攻。全てに奥野は呑み込まれそうになる。その間隙を縫って奥野、渾身の突貫!


 ゴツンという手応えを感じた。苦し紛れに放った突貫は謝敷のグローブに防御されたものの効果はてきめん。謝敷、呆気にとられた表情。こんなはずはない、と。その謝敷の動きが止まった一瞬を見逃さず更に右の連打……と、思わせてからの左リバーブロー。謝敷が慌てて上げたガードの下を難なく潜って脇腹直撃。これに完全に冷静さを失った謝敷、破れかぶれの左ストレート。待ってましたとばかりに奥野得意のライトクロスカウンター。

 謝敷の左頬を狙ったものの僅かに外れる。しかしこれが顎に入るラッキーパンチになった。奥野の突貫に確かな顎の手応え。と同時に謝敷は崩れ落ち、膝をついてレフェリーが割って入る。


 奥野が自陣に下がるとレフェリーがカウント。謝敷はまだ何が起きたか理解できていない。カウント5あたりでやっと自身がダウンしている事実に気付く。両手を踏ん張り立ち上がろうとするも体がついていかない。奥野も何度か経験がある。こうなればもう10カウントが30カウントでも立ち上がるのは不可能。奥野は勝利を確信。しかし会場の人間も、平岩も、謝敷陣営も、謝敷自身も、誰1人としてこのまま終わるとは思っていない。


 しかし無情にもカウントは進み10カウント。誰も予想し得なかった結末に会場はしんと静まり返る。だが、しばらくして小さな拍手が起こった。奥野がその拍手の先に目を向けると静まり返る観客席にただ一人、拍手する長船の姿が見えた。



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