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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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戻れない海 (全10)

 掌編なのです。とはいえミステリーやオカルトではないので注意して下さい。


 目下、世界中に大流行している感染症のために仕事もなくなり貯金も底を尽き、アパートさえ引き払わざるを得なくなり、尻に火が点いた俺は思い余ってその求人に応募した。今にして思うとバカな事をしたものだと思う。でも、その時の俺は結構切羽詰まってたし、条件も給与も魅力的に思えた。軽く考えてたってのもあると思う。


 その職場は豪華客船。が、クルーズに出るわけではない。客船を急遽病院棟に改造しただけの、言ってしまえば隔離施設。その病院船に感染症患者を収容して治療する。

 だからその船はどこにも行かない。沖合に停泊して補給のため、たまに港に横付けするくらいだ。


 そんな船だから職員は慢性的に不足しているらしい。常に求人はかけているみたいだが俺みたいな一般職はひと月という縛りがある。休日はないが1日5時間程度の労働とのことで、その程度ならやれなくもない気がした。ただし、そのひと月の間、勝手な下船は許されない。万一感染した場合はそのまま船に入院。ただ、治療費と入院費は国が持ってくれるらしいが、そうなったら当然その日から給料は出ない。

 プライベートでは通信機器は職場に預けることになる。外部と通信する際はわざわざ許可を取らなければいけない。守秘義務も結構ある。酒もタバコもご法度だ。それはちょっと厳しい気がしたがひと月くらいならなんとか我慢できると思った。なにより特殊法人だけあって給料がいい。そんなわけで俺はつい、出来心でその求人に応募したってわけ。

 人出が不足してるだけあって採用はすぐに決まった。この異例の速さに一抹の不安を感じないでもなかったが、この時はまだ楽観していた。他に採用のアテもなし、アルバイト気分でその船に乗り込むことになった。


 担当者のレクチャーによるとひと月の労働期間を終えると強制解雇となる。引き続き仕事を続けたければ10日間ほど間隔を置き、もう一度願書を提出する必要があるらしい。が、リピーターなら再雇用はスムーズとのこと。

 また仕事柄、残業が発生する場合は拒否権はないらしい。とはいえ労働時間は厳しく守られるそうなのでブラックの心配はなさそう。とはいえ、お国の斡旋する仕事だからアテにはならない。何次下請けなのかも想像すらつかない。 

 それでも住み込みで食事代はじめその他諸々向こう持ちの仕事は魅力的。住む場所がなくなってもその仕事を継続できれば当座はしのげる。まとまったカネさえできれば後はなんとかなりそうな気はする。


 医療スタッフは隔離エリアで患者の治療に当たる。が、俺のような一般職は雑務を担当するので感染リスクは低いとのこと。ただそれもあくまでリスクなので感染の可能性はアナウンスされた。

 以上、大まかな説明を受け、少々多めの契約書やら誓約書やらにサインして採用の流れとなった。


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