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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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サイレントアグレッサー 3

「滅びる……運命? とても信用できないな。だったらなぜお前たちはこんな侵略行為を行う。いずれ滅びるのなら侵略なんて無意味じゃないか!」


『君たちにとってはそうだろうな。だが、我々には無意味ではない。いずれ滅びるとは分かっていても、最期の時は心安らかに送りたいものではないかね? 我々の肉体はこの星に適応できない。だが精神を上書きする施術によって君たちの体を借り、この星での生命活動が可能になった。ならば、この星の社会、生活圏を、我々の住み良いようにしたいと思うのが当然ではないか。そうすることによって人類もまた多少の紛争や諍いが消えて、お互いにとってプラスになるとは考えられないかね? 君たちの社会は殺人、暴力、自殺、戦争など、抱えなくていい問題をあえて抱えてもいるだろう。我々にはそれが不思議でならない。君たちはこの星に高度に適応し、環境にも恵まれ、社会も築いているというのに、なぜ多くの人類は恵まれていると感じないのか。我々は君たちから肉体をもらってこの星に住まわせてもらっている。しかし君たち人類のほとんどの人は、その恩恵に気付いてすらいないのではないのか?』


 侵略者の言葉に異能者Qはいつの間にか反論できなくなっていた。心の中では違う、信用できないと思いつつ、テレパス能力で嘘を言っていないのは分かる。反論はしたいがどう反論するべきか分からない。


『我々はここで君を殺すこともできる。が、それは我々のルールに反する。この星、社会にとり、僅かでも有用と判断した人類には危害を及ぼさぬと取り決めてあるのでね。が、君がこのまま考えを変えず、我々を排除するというのならそれに従うまでだ。我々はこの星を去る。この肉体を得た者はもう宇宙の環境には耐えられないだろうがね。だがそれも仕方ない。我々自身で決めたことだ。君たちと争うのが目的ではないし、無用な混乱や軋轢も招きたくはない。どのみち我々は間もなく滅びる。願わくば最期の時は心安らかにいたいからね。それともうひとつ、君と同じように我々の侵略に気付いた人たちも世界には少なからず存在するが、我々の事情を説明すれば、ほとんどの人たちが理解を示してくれたよ。まあ、心の底では納得はしていないだろうがね。でも少なくとも、我々を排除する行動は取らずにいてくれているみたいだ。君もそうしてくれることを祈っているよ』


 話が終わると侵略者の集団は次々頭を下げ、姿を消していった。その中には見知った顔もあった。いつも喧嘩が絶えない夫婦が急に円満になったとか、暴力を振るっていた息子が真面目に働くようになったという話を最近よく耳にもしていた。それも侵略者たちの仕業なのだろうか。


 それからというもの、異能者Qは侵略者の存在を告発する活動を停止した。いつか彼らが危険な行動に出た時は自身も動くべきとは思っているが、そんなことは起きないと、半ば確信めいたものがあった。これほどの侵略ができるテクノロジーを持つ彼らがその気になれば、人類を一掃するなど容易なことだと分かったから。

 だが、彼らはそんなものは望んでいない。争うつもりもなければこの星を支配したいわけでもない。この星の環境を守り、自身たちの安寧こそが彼らの目的なのだから。 

 彼らは自分たちの卑劣さを自覚しながらも、終の棲家を求めてこの星にやってきた。ただそれだけに過ぎない。


 世界各国で平和協定が結ばれ、経済活動より個々の生活を重視する政策にシフトする国家が増えつつあるとニュースは報じる。テロや紛争も近年はすっかり鳴りを潜め、経済に狂奔していた人類は自然環境保護の元、環境破壊に繋がる活動は一時期ほどは進まなくなり、世界の総人口も緩やかに下降線を辿っている。


 あと100年もすれば彼ら侵略者は滅びると言っていた。その後はまたこの星には元通り、ただの人類がのさばり始めるようになるのだろう。

 そのような社会にはできれば住みたくはない、というのがいまの異能者Qの偽らざる気持ちだった。




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