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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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サイレントアグレッサー 2


『確かに君の怒りは尤もだ。我々には弁解の余地もない。卑劣で許されざる侵略行為だ。この世に神がいるとすれば、間違いなく君の正しさを認めるだろう。断罪されるべきは我々だ。だが、我々の言い分も少しばかり、聞いてほしい』


 彼らは高度なテクノロジーを以って繁栄を築いたが、惑星の寿命はどうしようもなかった。一時は100億の人口も誇ったが、社会が成熟するにつれ人口は減少し、現在は10億ほどになっているという。その10億の宇宙人が、新たな生存圏を求めてやっと辿り着いたのが地球だった。が、地球には人類という先住民がいた。彼らとしては人類を排除して地球を奪うこともできなくはなかったが、それはしたくはなかった。


『そこで我々が採った道が、この星に住む人々に一部成り代わり、この星で余命を全うさせてもらおうというものだったのだ』


 宇宙人の言葉に嘘がないのは異能者Qにはテレパス能力で分かった。が到底納得できる話ではない。


「なるほど。表面上は紳士的な風を装ってはいるが、卑劣な侵略行為を行ってるって自覚はあるわけだ。とんだ偽善者だ。人類の歴史にも似たような事例はいくらでもあるぞ。そうやって相手の同情を誘い、結果として土地を、国を乗っ取った事例がね。君たちもそのご同類というわけだ」


『その通りだ。弁解はしない。君にすれば我々のやっていることはさぞかしおぞましい行為なのだろう。信用できないのも仕方ないと思う』


「当然だ。お前たちは自分の苦境を訴えてるつもりか知らないが、お前たちに成り代わられた人々はどうなった? まさかどこかで生きているとでも言うのか? あるいは物理的に人格をメモリーされてるとでも言うのか? そっちの方がはるかにおぞましくて非人道的だ!」


『それも尤もだ。正直に言おう。我々に人格を上書きされた人たちの人格は消去される。それは死と同義だ。我々は自らのために、君の同胞をもう何千、何万と殺している。だが聞いてほしい。我々の中にもこの侵略行為に反対した者も大勢いる。すでに半数以上の我らの同胞は新たな地平を求めて旅立った。計算上、まずありえない確率だが。そして残った者達にも、まだ迷っている者が数多くいる』


「それを聞かされたところでお前たちの侵略が正当化されるわけでもない。殺された人たちはもう戻らないし、お前たちに騙されている人は今もなお大勢いる」


『それも尤もだ。しかし__しかし、弁解に過ぎないが、少し言わせてほしい。我々が成り代わるべく取捨選択した人々は……少なくとも、君たちの住むこの惑星に、人類の社会に、有用とは判断できない人々を選別したつもりだ。また、自ら生きることを放棄した人々からも、無許可ではあるが肉体を提供してもらっている。君も少しは思い当たるのではないかね。我々の侵略が始まってから、この星の世界情勢が少しずつ良くなっていることを』


 確かに異能者Qには思い当たることがある。世界情勢をいたずらに混乱させる危険な思想者、指導者が次々失脚し、異能者Qの国でも景気が上向き、生活が向上し、周辺諸国との関係もこの上なく良好になった。一時期、国をほぼ私物化していたような為政者もいつの間にか姿を消していた。侵略者は続ける。


『君も薄々気付いていると思うが、我々は人格、いや、心を奪って、この星に元いた人類の肉体を借りているに過ぎない。我々はこの体で子を為しても遺伝子を汚染することなどありえないし、人類に取って代わることもできない。やがて我々はあと100年と経たず滅びる運命なのだよ』




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