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厠倶楽部  作者: 厠 達三
68/120

コロッと・・・・・・

 プチホラー掌編

 はい皆さんこんばんは。番組パーソナリティの横野道郎です。『現代社会の閑話休題』のお時間がやって参りました。今夜も現代社会に潜む、ちょっとした話題を取り上げて参りますよ。

 なお、閑話休題とは横道に逸れた話を本題に戻すという意味で、ひと休みという意味ではございません。あくまで当番組で扱うのは横道であります。一部の視聴者様からタイトルが間違ってるぞというご指摘をたくさん頂いております。感謝申し上げますと共に、当番組は横道に逸れているというスタンスでありますので、視聴者様にはその点をご留意頂けると大変助かります。


 では、前置きもそこそこに行きましょうかね。閑話などに興味ないという方は今すぐチャンネルを変えることをお薦めします。暇だから別にいいよという方はどうぞそのままご視聴下さい。番組スタッフ一同喜びます。

 今回扱うのはこれ、3年前、◯◯県で起きた幼児殺害事件ですね。ワイドショー等でも連日報じられていたので記憶に新しい方も多いかと思われます。


 事件の概要はママ友サークルが催したホームパーティで、あるお母さんの子供が行方不明になったことから騒ぎとなり、翌日その1歳の子供は近くの林で遺体で発見されたという痛ましい事件です。

 事件当初は大きく扱われることはありませんでしたが、1歳の幼児が3キロも離れた林へ行っていたこと、ママ友たちの証言に不自然な点が多かったこと、おまけに警察の捜査の杜撰さもあってネットを中心に一気に話題が広がりました。


 まあ事件は皆様もご存知のように数日で解決。パーティに参加したママ友の1人が犯人だったという、誰もが予想していた結末。なお殺害の動機は怨恨。犯人の女性は被害者のママから日頃から陰湿ないじめを受けており、復讐のためにパーティーでお使いを頼まれた際に幼児を連れ出し林へと連れて行き犯行に及んだというものであります。

 なお、被害者の母親はママ友グループの中でもボス的な存在で、普段から尊大な態度で周囲からも嫌われており、パーティーの参加者の証言が曖昧だったのもそれが関係しているとネットでは専らの噂です。いや〜、ご近所付き合いってのは怖いですねえ〜。


 閑話休題。この事件がメディアで扱われると、ちょっとした映像がネットに流出し話題となりました。事件が起きた時のパーティーの様子を参加者がたまたま撮影していた映像なんですけどね。

 なんということもない映像なのですが、ある箇所にネット民が注目したところから大騒ぎに発展しました。おっと、この番組はあくまで横道というスタンスでありますので、その点をくれぐれもご注意下さい。では、早速その問題の映像にいってみましょう。


……はい、こちらですね。スマホの映像なので少々見辛いですが、1人の女性の取り乱した声が聞こえますね。これが被害者となった幼児の母親の声でしょう。映っているのはパーティに参加したお母さんや通報を受けて駆けつけた警察、それと野次馬の後ろ姿ばかりではっきりしたことはよく分かりません。ま、この映像というより、入っていた音声が問題なんですけどね。

 雑音も激しいけど音声も聞き取れる程度には録音されてます。泣き叫ぶ母親の声ばかりが聞こえますねえ。あとは野次馬の雑談でしょうか……もうそろそろ問題のシーンになります。


 ここです。ここでひとつ悲鳴が上って、辺りが騒然となります。しかしどうやらパーティーの参加者の誰かが躓いて転んだだけだったようです。問題になるのはこの後です。この後、マイクは偶然にも犯人の女の声を拾っていたのです。


『お母さん、どうしたの? 大丈夫?』


 これは犯人の女の娘が母親に問いかけている声なのだそうです。この後の、犯人である母親のセリフが問題になったのです。


『ああ、大丈夫よ。ちょっと躓いて転んだだけだったんですって。あなたは大丈夫よ。そんなに太ってないし……コロッと……』


 はい。お分かり頂けましたね?

 恐らく、躓いて転んだのは太めの女性だったのでしょう。しかしそんなことはあまり関係がなくて、娘は母親の様子がどこかおかしかったので、心配して先刻のような問いかけをしたものと思われます。ところが母親はどういうわけだか娘が「自分も転んでしまう」と、心配して問いかけたのだと勘違いした。そこであの返答だったわけです。「コロッと」


 気持ち悪いですねえ。なんであの状況でそんな一言を加える必要があったんでしょうね。「コロッと」

 この一言がネットで話題となり、この声の主が犯人なのではないのかという憶測が飛び交い始めます。そして偶然か否か、後日警察が改めてこの女性に取り調べをしたところ自白。事件はスピード解決となったのです。ま、たぶん偶然でしょうけどね。まさか警察がネットの流言を元に捜査なんてしないでしょう。


 それはさておき、ここまででおかしなところがありましたよね? そうです。そもそも犯人はなぜ被害者の幼児を難なく連れ出せたのか?

 いくらパーティで騒々しいとはいえ、まさか1歳の幼児がいなくなったことに気付かないわけはないでしょう。顔見知りのママ友パーティなら尚更。しかしこの犯人はお使いを頼まれ、その時に幼児を連れ出したと証言しています。気付く人がいないもんですかねえ。さらにこの映像が録画されていた際、タイミングよく転んだ女性がいたというのも出来過ぎだとネットで少し話題になりました。まあ、パーティが思わぬ大騒ぎになって全員が取り乱していたと考えられなくもありませんが、それにしてもおかしな話です。この映像をネットに流出させた意図もよく分かりません。


 前述したようにこの事件で殺害された幼児の母親はママ友グループのボス的存在で、裏ではかなり嫌われていたようです。そもそもこのパーティ自体、どういう理由で催されていたんでしょうね? 怖いですねえ〜。


 では、来週もまた、この時間にお会いしましょう。ご視聴いただき、ありがとうございました。

 





挿絵(By みてみん)







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