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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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ドライブレコーダー 最終話

 支店長が仕事を口実にさっさと部屋から出ていき、俺ひとり、部屋に取り残された。目の前には映像確認のために使ったノーパソの電源が入ったまま。俺は再び着席し、映像を一から確認し直す。この映像に一体何が起こったのか。俺が見たものはなんだったのか。


 ドライブレコーダーが俺の運転した光景を映しだす。それは事件のあった集落とは全く関係ない街並みであったり、俺が会社からスタートする光景だったり、配送を終えて会社に戻った映像だったり。俺自身、はっきり憶えてない過去を克明に記録している。映像なんだから当然ではあるのだが。


 もう何度確認したのか分からなくなった頃、すでに陽は傾き、部屋には西日が差し込んでいる。不意に徒労感と虚無感に襲われ、椅子に座ったまま大きく伸びをする。休日を丸々無駄にした事実も思い出し、明日の仕事も考え映像のウィンドウを閉じようとした瞬間、そこに映っていたものに俺は思わずあっと声を上げた。


 それから数日後、少年の遺体が発見された。場所は集落から数キロ離れた市街地の一軒家。一人暮らしの無職の中年男の家だった。

 決め手になったのは俺のドライブレコーダーの映像だった。


 それは俺が集落に行った、失踪事件の起きる数日前の映像。そこで一台のセダンと国道ですれ違っているのだが、その助手席に青い衣服の少年が乗っていたのだ。対向車の車内の映像なのではっきりは分からなかったが、警察はその映像を元にセダンの持ち主を特定。以前から要注意人物として警察もマークしていた、地元でも札付きの不審者だったらしい。

 警察のガサ入れで少年の遺体が発見されると犯人はあっさりゲロ。いたずら目的で子供を物色中、たまたま山道で見かけた青い上下の少年を言葉巧みに車に乗せ、自宅に連れ込み抵抗されたので殺したらしい。これは余談だが、もし俺がもう一日仕事で車を走らせたら、そのセダンの映像は上書きされて消えているところだった。


 これで事件はいちおうの解決を見た。俺は期待していた警察からの表彰なども特になく、会社から金一封が贈られることもなく、またいつもの変わり映えのない日々が続いた。が、どうにも辻褄が合わない。


 少年が殺人犯に殺されたのは俺が集落に行った数日前。つまり、俺があの山道を走った時にはあの少年が山道にいるわけがない。では俺が見た少年は一体誰だったのか? ドラレコに映っていた少年はなんだったのか?


 いや、映像には青い上下の少年など映っていない。映っているのは殺人犯のセダンの助手席に乗ってた少年のみ。そして人の記憶も曖昧だ。俺が山道で見た青い上下の少年も、最初から存在しなかったのかもしれない。


 ただはっきりしてるのは、俺の記憶違いとドライブレコーダーの妙な現象のおかげで殺人犯が捕まったってことだ。

                     ~了~

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