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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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タバコ

 あ〜、ダルいわ〜。もう仕事探すのも面倒くさい。てゆうか、もう今さら仕事したいとも思わない。やっぱり人間、自分の時間は自由に使えた方がいい。生活するために仕事して、仕事のために人生の時間の大半を費やすのは何かがおかしい。やっぱり人間は労働より自分時間の優先でしょ。


 そんな哲学的な結論を導き出しながらプカリとタバコの煙を吐き出す。この煙にいったい幾らくらいのカネがかかっているのか。煙を回収して換金してくれる機械とか発明されないだろうか。そうすればそのカネをまたタバコ購入の資金に充てて、またタバコによる税の回収が進むのに。うん、このアイデア、いまのうちに特許でも取っとけばいずれ小金の成る木に育つかもしれない。特許の取り方なんか知らんけど。


「もーう! 朝からなに余裕こいてんのよ! 私、今日早番だから、留守番しっかりしててよね!」


 朝早くからキンキン声で俺のプライベートスペースに遠慮無くズカズカ踏み込んでくれる。まあ、俺の方がこの女の家に居候させて頂いてるんだが。


「安心しろよ。お前の留守は俺がしっかり守っといてやるから、タイタニック号に乗ったつもりでしっかり仕事してこい」

 その分俺の生活費も稼いできてくれ、などという余計なひと言はもちろん付け加えない。俺は仕事はしないが誰よりも空気を読む男なのだ。


「ちょっと! そんなことより、少しは仕事探そうとか、滞納してる家賃払おうとか考えないわけ!?」


 例によって聞きたくもないお説教をしてくれる。お前は親か。せっかくの寝覚めのタバコがまずくなっちまった。


「あ〜、そうね。今日はちょっと思いつきそうにないけど、近いうちに職探し始めるわ〜。だからさあ、帰りにタバコ買ってきてよ〜。ちゃんとタバコ代出すから〜」


 言いながらバッグの中の財布をまさぐる。なけなしの生活費だが背に腹は代えられない。そう思ってると俺の目の前に見慣れぬ細長い箱が落ちてきた。


「そう言うと思った! だから箱買しといてあげたわよ! それでしばらくもつでしょ」

「おい、これカートンじゃねえか。今どきこんなまとめ買いしたら結構高くつくだろ」

「まあね。でも帰りのたんびにアンタのタバコ買うのもメンドいんだからね。それ全部吸っちゃう前に仕事見つけてよね」

「いや〜ホント、助かるわ〜。この恩返しはいつかするから。もう感謝の言葉もありませぬ」

「バーカ! あげるわけじゃないからね! 貸しただけだから。利子付けて返しなさいよ! じゃ、行ってくるから!」


 ありがたい。これだけあれば当分遠慮なく吸える。仕事探すのはこれ全部吸いきった後でいいや。女は俺の部屋を後にし、やっと仕事に行ってくれた。2、3日戻ってこなければいいのに。


 部屋とは言っても物置だかクローゼットだかを居住空間にしているだけなのだが。それがこの家に居候させてもらえる条件。

 夜間は出入り禁止条約を締結してるのでトイレの際はそこらに転がってるペットボトルを使う。我ながら情けないが、これが意外と手間がかからなくていい。

 付き合い始めた頃はあの女もそれなりに喜んでたっぽいけど、今じゃすっかりお荷物扱い。まあでも、日頃からお世辞言ったり、気も遣ってるから持ちつ持たれつだろ。タバコ、カートンでわざわざ買ってきてくれたし。


 折角なので早速吸いかけのタバコを使い切るべく1本火を点ける。今日は一日タバコ吸って寝て過ごそう。有意義な一日になりそうだ。


 スマホの動画をダラダラ視聴してたらいつの間にか昼近くになってた。窓もないので懐中電灯の明かりだけでは時間の経過がよく分からんのがこの部屋の欠点だ。腹も減ったし、冷蔵庫でなんか漁るか。

 しかしドアが開かない。なんだろ? なんかつっかい棒みたいに引っ掛かってんのか? まあいいや。動いてないからそんなに腹も減ってないし。ペットボトルはいくらでも転がってるし。今日はたっぷりタバコもあるし。これをメシの代わりにすればいい。そう思って立て続けに4、5本吸ってるうちにだんだん眠くなってきた。薄暗い部屋だし、ハラも減ってるし、こういう時は寝るのが一番だ。


 夜、あいつが帰ってくるまで寝ることにしよう。


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