いつか咲く君に SIDE B 12
青春を失った僕は観念して親の持ってくる見合いの話を前向きに受けると伝えた。やっと孫の顔が見れると喜ぶ両親。いや、そう上手くいくとは思えないけどね……僕も大人になりきれてないし。
ところが親はあっという間にお見合いをセッティング。いや、まあ、ありがたいけどね……
お見合いでのドライブの最中、いつもは点けないカーラジオから人生相談番組が流れ始めた。お見合いの席にはそぐわないと思い、消そうと思ったもののそれもなんかわざとらしいので適当に聴き流すことにした。女性との会話も不慣れだし。が、相談内容に妙に心を奪われた。
『職場にどうしても許せない人がいるんですよ。私のこと、無視するんです』
無視されてるのなら気にしなけりゃいいのに。頭の悪い相談者だな。最初、そう思いながら適当に聞いてた。
『無視されてるのなら気にしなければいいんじゃありません?』
『でも! その人、職場で平気でサボってるんですよ! 私がいる場所も嫌味みたいにわざと避けるし。何を注意しても無視するし!』
『それはあなたの態度にも問題があるからじゃありません? それにその人がそれほどサボってるのなら上司に報告すればよろしいでしょう』
『それが駄目なんです! 上司もその人に甘い顔して、私の訴えなんか全然聞いてくれないんです!』
『はっきり申しましょう。あなたがその人を許せないのは、あなたがその人を好きで堪らないからなんです。でも、その人はあなたに全く関心がない。あなたの怒りの根源はそこなんです』
『そんなはずありません! 私があの人のことなんか好きなわけがありません! 嫌いで仕方がないんです! 相手にするのも嫌なんです!』
『好きの対義語は無関心なんです。嫌いというのは好きの類義語なんです。あなたがその人を本当になんとも思っていないのなら気にもならないし普通に接することができて相談なんかしないはずなんです』
『違います! あの人を放置しておくと職場がとんでもないことになるから、あの人を変える方法を教えて欲しくて相談したんです!』
『その人を変える必要も方法もありません。変えるのはあなたの心の方なんです』
『なんで私が変える必要あるんですか! それじゃこっちの負けじゃないですか! ええ、もう分かりました。こんなとこに相談した私が間違ってました。失礼します!』
『自分の本心を認めない人が、救われることはありません』
番組終了のメロディが流れている時、この相談者は僕と同じだと思った。僕は魔界彗星が嫌いで仕方なかった。憎んでさえいた。でも、それは好きの気持ちの裏返しだった。好きで堪らなかったからこそ、彼がサクラだと知った時、裏切られたと感じた。深い失望を覚えた。だから僕はムキになって彼を振り向かせようとした。彼に認めて欲しかった。彼のようになりたかった。彼が羨ましくて仕方なかった。でも、彼は僕のことなど眼中になかった。それが許せなかった。
僕は、自分自身のことすら、よく分かっていなかった。




