いつか咲く君に SIDE B 9
それからというもの僕は狂ったように魔界彗星のイラストを模写しまくった。絶賛スランプ中だったこともすっかり忘れた。練習用ノートに魔界彗星の絵をパクったラフを描いてはページを破って捨てる。何がなんでもこいつの絵柄を盗みたい。でも描けない。当然だ。相手はプロなんだから。素人に盗めるわけがない。でも、僕はその無理を押し通したかった。ここまで真面目に絵を描いたのも初めてかもしれない。それほど僕は頭にきていた。
目の前には模写するために切り抜いた魔界彗星のイラスト。それをとても魅力的と思ってしまう自分がまた腹立たしい。くそ! くそ! くそ!
こんなサクラの絵がどうして魅力的なのか。分かってる。それはプロの仕事だから。素人が自己満で描くようなイラストとはモノが違うから。そんなこと分かりきってる。でも認めたくない。
魔界彗星のイラストを見るたび怒りがこみ上げる。魅力的なのがなお許せない。
サクラめ! サクラめ! サクラめ! どうせお前は僕達素人なんか眼中にもないんだろう。心の中であざ笑ってるんだろう。掲載に必死になってる読者の気持ちなんか分かりもしないんだろう。投稿作がボツられた素人の気持ちも分からないんだろう。自分のイラストが掲載されても何の感動も覚えないんだろう。それが当たり前だと思ってるんだろう。お前にファンコールを送ってる人がたくさんいる事実など知りもしないんだろう。お前みたいになりたくてもなれない、凡人の気持ちも分からないんだろう。
嫌いだ! 嫌いだ! 嫌いだ! みんなはお前を認めてるんだろうけど、僕はお前が大嫌いだ! だから意地でもこっちに気付かせてやる。路傍の石に過ぎない僕が、お前を嫌ってるって事実を教えてやる。
お前の絵をパクってやる。真似てやる。盗んでやる。そうして嫌でもこっちに注目させてやる。構うもんか。相手はどうせプロ。素人ごときが程度の低いパクリをやったところで屁とも思うもんか。プロがその程度でヘコむメンタルなわけがない。僕は今までお前の絵を追ってたんだ。お前の癖も作風もだいたい分かってるぞ。お前が次に描いてきそうな絵をこっちも描いてやる。素人が下手な絵で真似て嫌な気分にさせてやる。
負の感情でラフを描きまくり下描きを描きまくり投稿絵も描きまくった。それでも出来上がったのはどうしようもない素人絵ばかり。でも仕方ない。その程度の努力でプロ並みの画力が一朝一夕身に付けば誰も苦労しない。でも絵の構図はパクれたと思う。その中から次にあいつが描いてきそうなものをピックアップして1枚選抜。もうこれからは1枚しか投稿しない。何枚も送り付けてたらあいつと同じ構図の絵はボツられるに決まってるから。だからあいつがいなくなるまで1枚しか投稿しない。ボツになっても構わない。僕の絵が全部ボツになろうが関係ない。あいつの絵をこれからもパクり続ける。
プロが素人にパクられるってのはどんな気分かな。いや、分かってる。さぞかし気分が悪いだろう。でも、お前はそれ以上のことを僕達に対してやったんだ。自業自得というもんだ。