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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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いつか咲く君に SIDE B   5

 もう頭の中は魔界彗星氏で一杯。来月には一体どんな絵を描いてくるのか、それを考えただけで気分が塞ぐ。しかも僕はいま絶賛大スランプ真っ最中。これでは勝負にならない。いや、元々勝負にならないほど画力に差があるのは分かってるんですけどね。とにかく、何を描いても上手く描けない。このままでは次の締め切りにも間に合わない。

 埒が明かないので魔界彗星氏の絵柄をパクることにする。悔しいけど彼は僕の理想とする絵柄をまんま体現している。ならそれを自分のものにしたいのは人情というもの。いいよね? どうせ素人の読者コーナーだもん。


 しかし素人にはハードルの高い難行ではある。必死に絵柄をパクってはみたものの締め切りまでに5枚しか描けなかった。まあでも今までの実績(?)もあるし、5枚でも充分編集部への恫喝になるだろう。


 そして翌月、雑誌の発売日。書店で購入し、帰宅して雑誌を手にすると緊張で手が震える。いや、今までも毎月緊張はしてたけど今回は意味合いが違う。魔界彗星氏はどんな絵を描いてくるのか。やっぱりトップページにデカデカ掲載なんだろうな。いや、それは分かりきってるんですけどね。でも僕のイラストは熟女描きのポジションを奪われて全ボツかもしんない。そんな負の連鎖の予想を振りきり、覚悟を決めて読者ページを開く。


 が、そんな不安は見事に裏切られ、魔界彗星氏のイラストはなかった。正直、かなりガッカリ。一方、僕のイラストは無事に1枚掲載されていた。安堵も少しあったけど肩透かしを食った気分。冷やかしで投稿しただけだったのかなあ。残念に思う常連もさぞかし多かろう。彗星のように現れた期待の新人だったのになあ。いや待て。投稿作品が掲載されるのは2ヶ月のラグがあるから様子見かもしれない。先月号に掲載されたから来月は現れるかも、という希望的観測をしてみる。ま、現れたら現れたでまたブルーになるんだけどね。それは分かってるんですけどね。


 僕は買ったばかりの今月号そっちのけで先月号の魔界彗星氏のイラストを改めて眺める。イラストのお手本にしたのですっかりページがよれている。これほど上手い絵が描ければ悩みなんかないんだろうなあ。いやね、上手い人には上手い人なりの、もっとハイレベルな悩みがあるのは分かっちゃいるんですけどね。それでも下手な奴は憧れる。こっちは5年も投稿して、まだ下手くそのままなんだぞ。

 そんなこと考えながら魔界彗星氏のイラスト眺めてると、フト記憶の底に眠ってるものが呼び起こされた。


 押し入れから雑誌のバックナンバーを何冊も引っぱり出す。いかがわしい雑誌をこんなに買ってると知れたら社会的信用を失ってしまうな。いや、今はそれどころではない。何年も前の読者コーナーをひたすら確認。するとあった。2年前の数カ月間、やはり彗星のように絵の上手い人が現れて消え去っている。ペンネームは『ペルソナ』さん。この頃は流行の絵柄だけど、たぶん間違いない。これは魔界彗星氏と同一人物だ。イラスト投稿を数年やってりゃそれくらいの眼力は身に付く。


 ということはこの人は新人でも何でもない。お遊びみたいに読者コーナーにふらっと現れては消え、ペンネーム変えてしれっとまた現れる。まあ読者投稿に明確なルールなんかないからそれはその人の自由だろう。でも、このとき僕は魔界彗星氏に対し仄暗い感情を覚えた。


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