いつか咲く君に SIDE B 4
投稿人生5年目にして僕は空前絶後の大スランプに陥っていた。何を描いても上手く描けない。描けば描くほど下手になる。自身の下手さ加減に愕然とする。あまりにも下手すぎて正直、引退も考えた。でも10枚送り付け恫喝作戦のおかげで掲載は堅調。今の安定はできれば手放したくない。
そんな悩みに悩んでる時にアイツは彗星のように現れた。そいつのペンネームは魔界彗星……って、どう考えてもあの国民的ロボットアニメからパクってるだろ! などというありがちなツッコミはさておき、とんでもない新人が現れたとド肝を抜かれた。初投稿なのに画力はすでにトップクラス。読者コーナーの神常連も太刀打ち出来ないハイレベル。一体何者? いや、なお異常なのはそれほどの画力の持ち主なのに最後のページの隅っこにひっそり掲載されてることか。そこはちょっと前までの僕の定位置、早い話が下手な奴のイラスト置き場。編集さんのコメントもそっけない。編集部は何を考えているのかッ! と、机を叩いて叫びたくなるレベル。こんな扱いしてると他誌に逃げられるぞ。
なお気になったのは絵柄が今の流行りじゃない。今は年齢低めな女のコの萌系の絵柄が主流なのに熟女キャラを描いてきてる。ペンネームが魔界彗星だし、年齢高めのお方なのかな? それはさておき、熟女キャラ絵描きは僕の専売特許なのだ。いや、僕は別に熟女好きじゃない。今風の絵柄じゃ他の常連に太刀打ちできないから熟女キャラ絵描きというニッチな芸風で生き残ってきたのだ。しかしこの魔界彗星氏はあろうことかその僕の生き残り戦略のお株を奪う作風でご乱入あそばした。シマ荒らしもいいとこである。こんな商売敵にはとっとと他誌に移ってほしい。いや、今すぐツブれてほしい。プロにでも行ってほしい。こんな絵の上手い人に乱入されるだけで底辺は肩身の狭い思いをするんである。
だいたい上手いのになんでわざわざ熟女描いてくるかなあ。大人しく萌系の絵描いてりゃいいのに。でもペンネームが魔界彗星だしなあ。あのアニメのファンってことは悪い人ではないんだろう。できれば交流したい。ファンコール送りたい。いや、ダメだ。こっちが先輩なんだぞ。新入りはきっちりシメとかないと。でもこれだけ絵の上手い人なら再来月にはファンコールが殺到するんだろうな。羨ましい。
魔界彗星氏のイラストはマイナー系ゲームの熟女キャラが儚げな笑顔でこちらをまっすぐ見つめている、とても魅力的な絵。画力もすでにプロレベル。世の中にはいるのね、こういう天才的に絵の上手い人。見れば見るほどため息しか出ない。どうやって描いてるのかすら分からない。恐る恐る前ページの僕の絵を確認。あまりの下手さに正視できず、思い切り雑誌を閉じる。しばらくふてくされて座り込むこと数刻、練習用ノートに魔界彗星氏の絵を模写ってみる。もちろん上手く描けるわけもない。そんなことは分かりきってる。
もう一度雑誌を開き、今度は魔界彗星氏の絵を見ながら模写。それでも上手くは描けない。まあ当然ですわな。




