いつか咲く君に SIDE B 3
ちなみにリアルの僕は結構充実してたりします。職員10名規模の小さな物流会社の役員に収まってます。種を明かせばコネ採用。父親が創業者なので長男の僕がゆくゆくはその会社を引き継ぐってわけ。なので、会社で僕は全従業員に一目置かれてます。仕事できてる感じはあんまりないけど。つまり、僕個人なんかはどうでもいいんでしょうね。次期社長って肩書き付きでみんなは僕を見ている。とてもありがたいしラクだけど、全く評価されてないってのも分かってます。社長の息子なんてどうでもいいんでしょうね。仕事の邪魔にさえならなければ。
でも読者コーナーの常連さんは違う。一人の投稿者として僕を見てくれる。うっちゃり八兵衛って、ちょっと恥ずかしいペンネームで活動する、絵が下手な底辺常連として僕を評価してくれる。雑誌の編集さんも、同じ雑誌に投稿してる常連さんも。だから僕は下手なイラストでも投稿になおハマってしまったのだろう。ここでは僕の素の実力しか通じないから。
ま、だからといって上手い絵が描けるようになるわけもありませんけどね。上手くなりたいがために今はひと月に10枚くらいのイラスト描いては送り付けてます。いや、これは別に下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、ってなまっとうな戦略じゃないんです。
小さな読者コーナーでは一人の投稿者の掲載数は1〜2枚がとこ。絵の上手い人なら2枚はカタイです。つまり、僕みたいなヘッタクソのイラストは10枚送っても9枚はボツられるわけ。でも逆に言えば、そんだけ送ってりゃ最低1枚は掲載される公算が高いってことです。投稿は頭を使ってするもんよ。さらに毎月10枚も送り付けることにより編集さんに無言のプレッシャー与える効果も期待できます。「こいつを全ボツったらヤバイ行動に出るかもしれん」てな不安を植え付けるのです。そんな心理的優位に立てれば僕のようなポンチ絵描きでも常連に引っかかれるのです。是非、お試しあれ。いや、オススメはしませんけどね……
そんなかんなで3年もやってるとそれなりに画力はアップした……と思う。個人的に。
でもなんなんだろうなあ。描き上げた時は「上手くなったじゃ〜ん、僕」って思えるんだけど、いざ雑誌に掲載された僕の絵を見ると全然上手くない……
周りの人が上手いってのもあると思う。あと客観的に見るとやっぱりダメって分かる。そんな時は凄いヘコむ。もうイラスト投稿なんかやめようかなって思う。でも何故かやめられないんだよなあ。今まで継続してきたってのもあるし、常連さんと顔見知りになれたってのもあると思う。でもやっぱり大きいのは自分の投稿作品が掲載されてるか否か、そのワクドキ感、あと掲載された時の感動。なんだか自分がプロクリエイターにでもなれたような、あの疑似体験が堪らないってのが大きいと思う。
その感動の虜となって、親の持ってくる見合いの話もなんとなくやり過ごして今に至る。我ながらだらしないと思うけど、だらしないんだから仕方ありません。しかし運命の5年目にアイツはやってきた。魔界彗星なる謎の投稿者が僕の前に立ちはだかったのだ。




