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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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ドライブレコーダー (全5話)

 ホラーノベルゲームシナリオを意識した掌編でございます。


参考書籍

 殺人犯はそこにいる    清水 潔 氏著


 近所の小さな村で子供が神隠しにあったと、ちょっとした騒ぎが起きた。

 市街地から十数キロしか離れてないが車で小一時間はかかる、割と山深い集落。そこに住む少年が行方知れずになったという。


 ニュースによると夏休みで近所の山へ遊びに行ったまま帰ってこなかった。もちろん両親はその日の晩に警察へ通報。翌日から地元住民や消防団も加わっての捜索が行われたものの杳として分からず。俺がニュースでちらと見たのはそんな内容だった。確かに近所で起きた大事件ではあるが、お気の毒様という以上の感慨は湧いてこなかった。むしろ俺が誘拐犯か何かかと疑われないことを祈ったくらいだ。なにしろ俺もその集落に仕事として毎週行ってるんだから。


 それから少年は発見されることもなく数日経ち、遭難による生存のボーダーラインとされる10日も超え、捜索の規模は縮小、実質打ち切りになったらしい。あとは少年の遺体が山のどこからか発見されるのを祈るのみ。両親もほぼ諦めた風だという。

 いくら山深いとはいえ、地元民にとっては庭も同然。子供が一人で遊びに行ったとて、それも日常の風景に過ぎない。閑散とした山の集落で起きた失踪事件に、地元マスコミも結構な時間を割いて放送していた。

 俺が無関係を装いたかったこの神隠し事件と向き合わねばならなくなったのは、不幸にもたまたま見ていた夕時のワイドショーで、両親の作成した情報提供を呼びかけるポスターが映されたからだった。


 そこにはいかにも親が慣れない手つきで無理して描いたと思われるイラストも添えられていた。青い上下に虫取り網。一見してなんの変哲もない少年の服装だが、俺は確かにその少年を見ていた。10日ほど前、仕事であの集落に行った時だった。往路の山道を登っている途中、狭い道路の緩やかなカーブの先、青い上下の少年が虫取り網を持って佇んでいた。俺の車を認めると少年はすぐ路肩に寄った。


 クソ暑い中、よく虫取りなんかやるもんだと思いつつ、サイドミラーで確認するとその少年は沢に降りて行くのが見えた。

 で、配送の仕事を片付けた復路、やはり同じ道路を走ったがあの少年は見なかった。もしかするとその間に神隠しに遭ったのかもしれない。だとすれば俺は今の今まで重大な情報を届けなかったことになる。


 いやいや、待て待て。あれが仮に失踪した少年だとしても、俺が見たのは失踪の前日とか前々日くらいだったかもしれない。人間の記憶なんて曖昧なもんだ。大抵がそんなもんさと自分に言い聞かせ、ビールを呷る。


 が、やはり拭いがたい罪悪感と不安が頭をもたげてくる。夏の暑い時期、同じ服を着てる日なんてそんなにない。やはり俺が見たのは少年が失踪した日だと考えた方が合理的だ。しかもそんなタイミングで俺はその少年とすれ違ってる。警察だって無能じゃない。少年の足取りや失踪した時間帯くらいは押さえてるかもしれない。俺があの日、あの時間帯、仕事で失踪の現場を走ってる事実なんてちょっと調べればすぐにアシは付く。

 俺は言いようのない寒気を感じた。


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