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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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戻れない海 4

 二日目から早くも淡い期待が裏切られる。作業時間が終了すると当然のように残業を言い渡された。いちおう話が違うとささやかな抵抗も試みたが労働基準法云々とか契約書がどうたらこうたらと事務的な口調で返され、拒否など許されない雰囲気。周りの連中も大人しく従っていた。特にリピーターと思しき連中は慣れたものでここでは残業、時間外労働など日常茶飯事であることが窺えた。仕方がないので俺も倣うことにする。残業もこなしただけ手当も出ると自分に言い聞かせて。


 が、そんな日々が続くとさすがに疲労も溜まってくる。仕事には慣れてきたし作業効率も上がっているのに、比例して疲労が蓄積されてゆく。それも当然な気がする。なにしろ清掃、洗濯、消毒作業など毎日やってて終わりがない。翌日にはまた同じ単調な作業の繰り返し。時間が異様に長く感じる。船内という閉鎖された空間がそれに拍車をかける。しかもどこにウイルスが潜んでいるか分からないという緊張が精神を蝕む。そんな場所から離れることもできず、毎日同じ船内にいれば24時間労働している気分になる。たまに甲板に出て気分転換もできなくはないが焼け石に水でしかない。沖合から見える陸の明かりがとても懐かしくなる。たったのひと月という労働期間が果てしなく長いものに思えた。


 さらに一週間も経過した頃になると仕事にも慣れてきたみたいだから、などともっともらしいこと言いながら一般職は立ち入りを禁止されてるはずの隔離区域への立ち入り、早い話が感染症患者と接触せざるを得ない仕事まで言い渡された。

 それはさすがに話が違うと、俺だけでなく俺と同じタイミングで入ってきた奴らも抵抗はしたが、やはり契約の規定云々を盾に従わざるを得なくなった。リピーターは慣れたものでこれにも大人しく従っていた。恐らく、そういう仕事もこなしてきたからこそリピーターになりえるのだろう。

 逆に拒否しようものならこれまた契約不履行だかなんだか言って船からの退去もちらつかせてくる。実際、キレて下船した奴も何人かいた。しかし住む場所もない俺にその選択肢はなかったし、ここで降りたら給与が差っ引かれそうな恐怖もあった。

 その恐怖に負けた俺は船に居残り、不本意な作業も行わざるを得なくなったのだが、下船した連中が羨ましいというのが偽らざる本音だった。


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