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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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自殺者の死に戻り ~後日談~ 7/6


 表情が冴えず、常に何かを抱え込んでいるような感じがしたと奥さんは言う。

 奥さんも心配になって悩みがあるのかと何度か聞いたもののご主人は頑なに口を閉ざしていたそうだ。

 そして2年後、あの別荘でご主人は変死を遂げる。しかしご主人は会社の代表変更手続きをいつのまにか済ませており、後継者も育成済みだったので何の問題もなかったとのこと。

 奥さん、子供にしても遺言書が作成されており、相続で揉めることもなかったらしい。まるで自身の死が分かっていたかのように、あらゆる後始末がなされていた。これもあの手記と不気味なほど一致している。


 奧さんはそんなものいらない、家も財産も欲しくなかった。ただ夫として、父として生きてさえいてくれればよかったのに、と、とうとう泣き崩れてしまった。

 僕としては何も言えず、奥さんが落ち着くのを待って、写真を返して家を辞するしかなかった。

 結局、あの手記の事は言い出せないままに。


 家を出る際、あの子はやっぱりテレビを見ながらタレントの物真似をやっていた。この子もタレントになれる素質のある、父親の血を引いてるはずなのだ。あの手記が事実なら。


 外に出ると再び熱波に襲われる。セミも相変わらず狂ったように喧しく鳴いている。1匹残らず死んじまえ! と思いたくなるほどに。

 なんだか自分がひどくろくでもない人間に思えた。単なる好奇心で死んだ人の遺族の感情をいたずらに揺さぶりに来た野次馬のような気がした。いや、実際そうだったんだけど。


 結局あの手記のウソを暴くどころか、返り討ちに遭ってしまう体たらく。しかも遺族に嫌な思いまでさせるという後味の悪いオマケ付き。

 きっとあの手記は死んだご主人の近くにいて、幸せな家庭に妬みを持つ趣味の悪い人間が仕掛けたものだったのだろう。そうとしか考えようがない。


 仮にあの手記が事実と仮定して、自殺した人間が人生やり直すなんてあるか?


 そんなことがあるなら人間みんな自殺して人生やり直すに決まってる。成功者はみんな人生やり直してることになる。

 もし手記が本物ならやはり本人の妄想としか考えられない。冒頭にあった、まさに誇大妄想狂だ。ただ、あの奥さんの様子を見るにつけ、そんなおかしな人物という印象は全くしないんだけど。


 だが、ここで僕はもうひとつの恐ろしい仮説の存在に気付いた。




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