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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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自殺者の死に戻り ~後日談~ 7/3


 僕は思わずガッツポーズ。期待してた心霊現象とはちょっと違ったけど、こういう展開を待ってたんだ。

 この別荘で死んだ人物のものと思しき手記。ちょっと出来すぎててイタズラ臭いけど、何もなしに帰るよりよっぽどいい。イタズラ主に感謝しないとな、などと思いつつ手帳のページをめくる。外では耳障りなセミの大合唱がさらに狂ったように鳴り始める。


『私は◯◯市内に住む◯◯。地元ではそれなりに知られている実業家だと思う』


 この名前はこの別荘で死んだ人物と一致する。やはりこれは怪死した人物のダイイングメッセージ。やっぱり仕込み臭いなあ~、とニヤケながら読み進める。


 最初のうちこそありきたりだけど実業家の成り上がり人生が綴られていた。割と詳しい個人情報も書き込まれており、本人のものかと思わせるリアリティも充分。途中からこれは仕込みじゃなく本人の手による本物じゃないかとさえ思い始めていた。


 が、いよいよその人物の死の核心部分に迫る段になると、一気に醒めてしまった。

 要約するとその人物は自殺したタレントで、10代の頃に死に戻って人生やり直してたんだって。バカバカしい。

 んで、前の人生で自殺した年齢、自殺した日時に自分は死ぬと感じてこのセーフハウスに避難してたらしい。仕込みならもうちょっと面白い話にしてくれよ、と落胆せずにいられなかった。


 たぶん死亡騒動の後、どこかの頭悪い奴がオカルト騒動を起こしたくて仕込んだものだろう。これもほぼほぼ想定内。でも、ちょっとは楽しませてくれたので感謝するべきなのかな。この手帳は夏の旅の記念に貰っておこう。

 と、手帳の後ろのページに1枚の写真が挟んであった。若い男性と、その奥さんらしい女性と、2人の子供らしき3人が笑顔で写っているありがちな家族写真。仕込みにしちゃ手が込んでんな、と感心したもののストーリーはいただけない。

 もうちょっと面白い設定なら及第点だったけどね、などと思いつつ別荘を後にした。


 不動産屋に別荘の鍵を返しに行くと露骨なセールス攻勢に遭った。事故物件をさっさと売りつけたい魂胆が見え見え。だから泊まりがけの内見が許されたんだろうけどね。

 とはいえ僕にそんな気はなく、ただ肝試しに行っただけ。それは向こうも薄々感じてたのだろう。僕みたいな若造に別荘なんて買えるわけないって。


 セールストークを無難に躱して帰宅。別荘を録画しておいた画像を入念に確認したけど心霊現象らしきものも映っていなかった。

 結局泊まりがけ肝試しの結果は全くの不発。収穫は頭悪い奴が仕込んだイタズラ手帳と家族写真のみというお粗末な結果に。


 ただ、これをイタズラと考えるには少し腑に落ちない点があった。

 手記によるとその人物はやり直す前の人生で、飛び降り自殺をしたと書いてある。これだけならありきたりな設定。

 でもこれって、僕があの別荘で見た夢と妙に一致するんだよなあ。これが首吊りとか薬物死だったら気にもならなかっただろうけど。ただの偶然とは分かっていても。


 どうにもスッキリしない僕はこのイタズラを暴いてやろうと余計なファイトを燃やし始めていた。

 今にして思えばここで止めておくべきだったのに。



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