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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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自殺者の死に戻り ~後日談~ 7/1

真実に、辿り着く。


 狂おしいほどのセミの鳴き声が聞こえる。

 彼らはなぜ、ああも耳障りな大合唱をするのだろう。

 子孫を残すための鳴き声というから、そりゃ必死なのだろう。ひと時の生きた証を残すための悲痛な叫びにも聞こえる。こんな暑苦しい夏、早く終わってほしい。


 僕はいま郊外の別荘地にある、いわく付きの一軒に来ている。

 なんでも若い実業家が所用で購入したものの、程なくしてその人物が奇怪な死を遂げたという物件だ。


 どのように奇怪なのかというと、その人物は玄関も窓も厳重に戸締まりし、狭い部屋の片隅で毛布を被り、時計を抱えたまま絶命していた。まるで自分の死ぬ時刻が分かっていたかのように。そしてその死体は恐怖で歪んだような顔をしていたという。


 もちろんこの奇怪な死に方はメディアでちょっとだけ取り上げられ、警察も他殺自殺両面で捜査。が、検死の結果はショック症状による心臓麻痺という結論だった。


 ネットでも憶測が飛び交ったものの大して面白い話は出てこなかった。

 死んだ人物は結構なやり手実業家で妻子もあり事業も順調。死ぬ動機もなければ成功者にありがちなプレッシャーによるストレス死という結論に至らざるを得なかったようだ。


 ただ、なぜそんな人物が急に別荘を購入して隠れるように一人で居たのか、一人で居ながらショック死するようなことがあるのか、家族に何も告げていなかったのか、依然不可解な点は幾つかあったようだ。


 そんな事故物件にいま僕は泊まりがけで来ている。なるほど別荘とはいえ、一人住まいを想定した簡素な造り。それでいて内外装はコテージ調の、まさに男の隠れ家かセーフハウスといった趣。

 彼はなんのためにここに来て、何を見たのか。

 悪趣味ながらありきたりなオカルト好きな僕は半年前に起きたそのミステリアスな事件に惹かれ、内見と称してこの事故物件に泊まらせて貰うことにしたってわけ。怪奇体験のひとつもできればいいな、などと不謹慎な期待を抱きつつ。


 やがてセミの声も止み、何事もなく夜になった。幽霊の出現を期待したもののそんなものもなく、後は設置した定点カメラに仕事を任せて床につく。避暑地の別荘だけあって結構快適。網戸にしておけばクーラーなんか点けなくても涼しい風が入ってくる。

 真新しい木の匂いも手伝って、すぐに心地いい眠りについた。



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