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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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戻れない海 3

 ボートから船に乗り移ると防護服に身を包んだ船内のスタッフが出迎えた。俺達にはフェイスシールド、マスク、防護服の三点セットが渡され、早速それを着用するよう命じられる。

 慣れない防護服に手間取っているとキツい口調で急かされる。そのぞんざいな物言いに内心腹も立ったが、それがこの病院船の環境からくるものなのかと思うと口答えも憚られる。実際、みんな大人しく従った。


 マスクも防護服もきちんとした着用を命じられた。適当な着方をして感染でもされたら大変迷惑だとすごい剣幕で言われた。不慣れな素人にその言い方はないだろうとも思ったが、どうせひと月の我慢と考えて反論はしなかった。この時点で俺はもう二度とこの職場には戻らないと心に決めた。


 医療スタッフでもない俺らの主な仕事は船内の消毒作業がメインになる。その他清掃、洗濯、物資の運搬、空いた病室の片付け等、雑用も任される。とはいえ環境が環境なので防護服の着用や適宜の消毒は医療スタッフとほぼ同じルーチンが求められる。それを怠れば俺もこの船に収容されてる患者の仲間入り。ミイラ取りがミイラになるというわけだ。


 作業自体にさほどの労苦はない。指示された場所の清掃、消毒作業をこなすだけ。防護服とマスクのせいで疲労度が高いという難点はあるものの、休憩をきちんと挟めば重労働というほどのものでもない。さすがにタバコが吸えないのはキツいが。

 昼休憩はあてがわれた個室で取る。パック詰めされた食事は味気ないが食費がかからないのはありがたい。まあこれも給与から差っ引かれてるのかは分からないんだが。


 1日の作業が終了すると割り当てられた個室で過ごすことになる。さすが豪華客船。トイレもシャワーも完備されてるのはありがたい。生活するにはちょっと狭いが、セレブ気分を味わえる。ただ洗濯、入浴、消灯は決められたルーチン守る必要あり。テレビは置いてあるがネットばかり見ていた俺には肌に合わない。どのチャンネルの番組もよく分からず、面白いとも思えない。ま、消灯時間になれば強制的に電源が落ちるみたいなので丁度いいかもしれない。


 そんな調子で1日目はつつがなく終了。慣れてないので少し疲労はしていたが、豪華客船だけあって個室は快適。これならひと月ならなんとかやれなくはない気がした。


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