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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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自殺者の死に戻り 5


 2年が過ぎ、計画通り起業のための初期費用も貯まったので世話になった職場に退職願を出す。職場の空気は最悪だったけど、普通にカネ稼がせてもらってノウハウまで教えてくれたんだから感謝しかない。もっとも、一生居続けるような職場とはお世辞にも言えないけどね。

 いちおう社長からも強く慰留された。それだけでもこの職場にいる連中がいかにダメかがよく分かる。なにしろ仕事は真面目な奴に押し付けてサボるのが賢い、みたいな風潮がまかり通ってるようなところだからな。その点、タレント業の方が実力主義な分まだ健全とは言える。ただ、その実力ってのもコネやらしがらみやら、甚だ怪しいものではあるんだけどね。


 ついでに数少ない信頼できて有能な同僚にもアプローチしておいた。将来こんな仕事始めるつもりだけど、よかったら来てね、てな具合だ。いきなりそんな博打に乗る奴もいないけど、気心の知れた人材はいた方がいい。ちょいとしたバイトテロだね。

 ところが俺と一緒に退職して協力してくれるという同志が1人いた。仲良くなってたあの女子職員。仕事を辞める際、当然俺は職場の連中から色眼鏡で見られたけど、彼女もまた職場内で俺と付き合ってる、みたいな噂されていたらしく、俺がいなくなった後の職場でやってゆく自信がないとのこと。

 俺としても彼女は真面目だし有能だし信頼もできるのでありがたい申し出ではあった。


 かくして俺は彼女と2人で起業することとなった。世間ではもうスマート端末が普及し始めている。これからネットインフラ、サービスが整備されて通販が主流になるはずだ。ついでに情報発信、マッチングサービスにも食い込んでいく。要は勝ち確産業に乗っかって泳いでいけばいいだけ。

 俺はあと8年は先に起こることを知ってるんだから、頑張らなくてもそこそこ生活できる程度に稼ぐくらいはできるだろう。


 そんな甘い見通しをしたにも関わらず起業は思った以上に順調。小さなネット販売の業績はたちまち伸び、遊び感覚で始めた短文投稿サービスも収益の柱になった。みんな何かを発信したがってるのは知ってたけど、いざそれを収益化しようと思えばこれほどオイシイ仕事もない。場所さえ提供すればユーザーが勝手に集って向こうから盛り上がってくれるんだから。なんてことない単純な話なんだけどね。

 ついでにこれから政府主導で地方の観光産業が活発化するはずだからそちらにもアンテナを張っておくか。

 

 そんな調子で1年も経つと会社は優良中小企業の仲間入りを果たした。彼女の支えも大きかったし、俺もタレントで成功した経験が売り込みに活きた。ついでに前の職場で声かけといた人材が次々集まってくれた。俺の会社では人間関係を何より重視した。お互いが信頼し合い、設定した目標にチームとして挑めるような風通しの良さを作ることに専念した。それは仕事というより大学のサークル活動に似ているかもしれない。本人が前向きに楽しめれば業績は勝手に上がるというのが前の人生で失敗した俺の信条だった。


 それが正しいか否かまでは俺には分からないけど、会社は勝手に大きくなっていったんだからやっぱり俺のやり方は間違ってないんだろう。

 それから数年、俺は彼女とめでたくゴールインし、一児を授かり、職場のみんな、家族から祝福を受けた。



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