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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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自殺者の死に戻り 7


 人生やり直すことになった俺は職探しという名目の無職生活をしばらく楽しんだ。どうせ俺みたいな学歴もコネもないやつは頑張ったところでいい就職先なんかない。だからタレント目指して上京したのであって。あと、タレントとして気の休まる暇もない人生を送った反動もあるのかもしれない。

 はっきりとは憶えてないけど、あっちの人生は心から落ち着ける時がなかった。いつも何かに追い立てられてるような気がした。知名度のある人間は大なり小なりそんなもんなんだろうけど、人によって向き不向きもあると知った。


 有名人になってチヤホヤされるのが大好きってやつなら24時間365日、気を張っていても苦にならないのだろう。でも残念ながら俺はそのタイプではなかった。タレントとして成功する資質はあってもそれに伴うメンタルがなかった。だから向こうの人生で自殺という結末に至ったのはなんとなく憶えている。あれはもしかすると神様が俺に見せた夢だったのかもしれない。俺には向いてないから、ってんで考えを改めさせるために。


 それが証拠にテレビで見る番組のまあつまんないこと。ありきたりなバラエティだけど内幕を知ってる人間からすれば見るに堪えない。上辺だけを取り繕って裏ではあさましい欲望や憎悪が渦巻いてる。笑い声なんてヤラセだし面白いこと言ってる芸人にしても平気で暴力ふるう反社だったりする。テレビに出ない業界人はもっと悪質。およそ世間一般の常識が通じない。

 そんな世界に憧れ抱いて排泄物に群がる蝿みたいに全国からタレント目指して集まる連中のなんと多いことか。いや、俺もその1人だったんだけど。

 そんな現実があると薄々分かっていても、誰もがタレントになりたがる。夢とか綺麗事で糊塗してその実ラクして生きてえ、金持ちになりてえ、有名になりてえ、テレビに出てえ。そういう下心丸出しな連中がいいように食い物にされる。俺なんかもその典型だったのだろう。


 10年前はまだネットの普及率が低くて娯楽といえばテレビくらいしかない。すぐにつまらなくなって観るのをやめた。なんでこんなつまんないもんをガキの頃は必死に見てたのか不思議だ。たぶん頭が悪かったんだろう。

 結果、自然と娯楽は本になってゆく。今まで利用したこともない図書館に入り浸り、いろんなジャンルの本を読み漁った。前の人生では漫画しか読まなかったけど、ずいぶんもったいないことしてたんだな。


 たまにテレビも観る。でもそれはニュース番組を見てタイムスリップ気分を楽しむという程度の意味合い。しかし世界は俺がタレントになった世界とほぼ同じルートを辿っているようだ。

 激甚災害、国内の凶悪犯罪、政権交代からの長期政権、世界的なテロ事件、そしてそれに伴う戦争。ほぼ前の人生で見知っている事象が起きている。俺がタレントになろうがなるまいが世界規模でいえば大した違いはないってことなのだろう。


 もちろん、俺1人自殺したところで世界は何も変わりはしないし、何の影響もない。分かりきってることだけど、自殺するときってのはそんな現実も見えてなくて、得てして自分が世界の中心だと思っちゃうんだよな。

 その程度のこと、昔の人がいくらでも書いて遺してくれてるっていうのにな。


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