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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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自殺者の死に戻り 8


 上京のために乗るはずだった電車を見送り、俺は仕方なしに家へと戻った。家出同然とはいえ、家族と喧嘩したわけでも、家を出ると啖呵切ったわけでもない。家族はいつもと変わらぬ日常を送っているはずだ。俺の部屋に置き手紙くらいは置いてたはずだ。腰を落ち着けたら連絡する、みたいな内容だったと思う。事実、俺は上京してから住み込みのバイトを見つけてから連絡して、母親に涙声で帰って来いって懇願されて、ますます帰るわけにはいかないって発奮したんだっけ。いま思うとバカバカしいけど、若い頃ってのはそういう面子が何よりも大事なんだよな。


 家族は床につくのが早いから家の電気は消えてしまってる。俺は泥棒みたいに家族を起こさないよう自分の家に忍びこむ。生まれ育った我が家だけどとても懐かしい。上京してからほとんど帰郷することもなかったからな。

 タレントとしてそこそこの知名度を得て、帰って故郷に錦を飾ろうなんて気はさらさらなかった。むしろこんな田舎になんか二度と戻ってやるもんか、って、意地になってたところもあった。都会での成功は田舎者のコンプレックスを逆撫でするものらしい。里帰りした時点でなにか負けるような気がしたのだ。

 でも俺は上京しなかった。このド田舎で生きてやると決めた。タレントとして成功したって自負があればどんな場所でも、どんなことでもやれる気がした。


 部屋に戻ってみるとそこは間違いなく10年前の俺の部屋だった。よく分からないけど本当に時間を逆行したらしい。神様からの贈り物? それとも未来予知か? 何にしたって考えても分かるわけがないんだが。それにタレントの人生をつぶさに憶えてるわけでもない。自殺した記憶も曖昧で、その理由までは憶えていない。ただ、物凄く疲れていたってのを漠然と憶えてるだけだ。まあ自殺するくらいなんだから嫌気が差してたに違いない。


 デスクの上に、やっぱり俺自身の書いた置き手紙があった。内容もだいたい憶えていたとおり、落ち着いたら連絡します、な内容。しかし細部まで憶えてなかったけど書かなくてもいい余計なことをカッコつけて書いてたもんだ。やっぱりガキの頃ってのは頭悪いもんなんだなと苦笑してしまう。

 その手紙を破り捨て、ベッドに寝転がる。俺はこんなに狭くて貧乏な家に住んでいたのか。でも懐かしい。タレントで成功するとデカい家に住みたがるけど、家なんて必要最小限のスペースさえあればそれが一番心地いいもんだって、広い家に住んでみて初めて分かるんだよな。ま、有名人だと体面やセキュリティの関係でそういうわけにもいかないんだが。その分維持費もかかるし、家のローンやらでしがらみにがんじがらめになる。セレブって、端から見る分には羨ましいけど実際は体面保つのに必死なんだよな。


 でも、今日からはそんな人生じゃない、退屈でつまんないけど、自由気ままでしがらみのない人生を謳歌するんだ。



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