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厠倶楽部  作者: 厠 達三
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戻れない海 2

 俺は指定された港へ必要最低限の手荷物と貴重品を持って向かった。ひと月分の衣服は向こうが支給してくれるのでさほどの大荷物は必要ない。というか、住む場所もなくなった俺にはもうその職場しか寝泊まりできる場所がない。豪華客船だから居住性は快適なはずだろうと淡い期待を抱く。


 港に到着すると俺とご同輩らしい連中も3〜4人いた。みんなシケた面をしている。こんな仕事を受けるような奴らだ。いずれ同じような境遇なのは想像に難くない。向こうも同じことを考えているのか、目配せするばかりで特に挨拶も会釈もなく、めいめいが適当な距離を取って関わろうともしない。それがお互いにとって居心地のいい距離なのだろう。


 港の沖合には、これからひと月の職場とねぐらになる豪華客船が停泊している。朝もやの中に浮かぶその巨体はどこか得体の知れない不安を抱かせた。


 しばらく待っていると担当の者が現れ、俺を含むご同輩の点呼を取り、人数と身元の確認が終わると簡単な説明を始めた。とはいえ、今までに受けた説明のおさらいでさほど重要なものではない。乗船前の儀式といったところか。

 それが終わると港に待機していたボートに乗せられ、そのボートで職場となる病院船へと向かう。


 ボートが接近するとモヤの中、船の影が次第にはっきりしてきた。近付くとさすがにその大きさを実感する。この豪奢で巨大な船の中に、一体何人いるのか知らないが、大勢の感染症患者、その治療、看護に当たる医療スタッフ、その他関係者が乗り込んでいるのかと思うとどことなく気味が悪い。その中に俺も加わると思うと今すぐ引き返したくなった。


 ボートが病院船の船首の前を横切る時、船の名前だろうか、「あるしゆ」というひらがなが書かれていたのがモヤの向こうにかすかに見えた。あるしゆ……どういう意味なのだろうか。


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