六話 英雄
前回のあらすじ
初めて一人で探索を開始。モンスターを倒すことにより、魔石やスクロールが出てくることを実際に体験する。ただ、モンスターを倒すのは俺にとっては結構な苦痛であった。そして、スクロールから解析のスキルが手に入ったが、本当にほしい力はまだまだ金がかかりそうだ。
俺はダンジョンを出てすぐにスクロールの専門店に向かった。今すぐに解析(超)ができるほど金を持っていないが、解析(大)にしてみたいという衝動に負け移動していた。
「ここの路地を右か。」
この横浜ダンジョン周辺の地図リーフレットを手に、目的地を探していく。
思ったよりも路地の中にあって、人出がグッと減った。そもそもスクロール専門店といっても、ほとんどの人はダンジョンで手に入る物ばかりおいてあり、あまり人気はないようだ。
俺のお目当ての解析にいたっては、研究者や科学者らしか必要としないため完全に不良債権らしい。お安くなってるとありがたい。
「ここか?」
ここ五年でダンジョン関係の建物が作られているため、いかに人出がないといっても綺麗な外装だ。
進んでいくと自動ドアが俺を迎え入れる。
中には中年男性の店員が一人。ここまで人がいなくてもしっかり仕事をしている辺り、ちゃんとしてるんだなと思う。
ここ周辺のダンジョンモールは全て国の直轄であり、皆が公務員だ。そのためここまで人がいなくてもしっかりとした店員なのだ。
「いらっしゃいませ。なにかご質問等ありましたらお声がけください。」
「あっ、はい。じゃあ解析(中)を九個ください。」
すると驚いた顔をして、
「あの、研究者の方ですか?」
まぁ聞かれても仕方ないだろう。
「いえ、自分はダンジョンを探索しようと思っているのですが、興味本位でとってみたいなと思いまして。まだまだ新米ですけどね。」
「そうなんですね。ですが、ダンジョン探索者の方なら鑑定とかの方がよいのではないですか?ダンジョンのものについてその方が詳しく出ますよ?」
そんなものがあったとは。だが、俺が欲しいのは解読。それがなければ用はない。
「いえいえ!初めて自分でとれたスクロールだったので思い入れがあるんです。」
何とかうまい言い訳ができたと思う。まぁ少しは怪しまれたとは思うが。
「では、ご自宅に配送いたしますね。ご利用ありがとうございました。」
全ての手続きが終わり出ようとした。そのときだった。
「っっ!!!!」
いままで感じたことのないほどの地震が俺たちを見舞った。
「地震!?!?すぐにテレビを!!」
店内の中にあったテレビをすぐにつけるとそこには。
「モンスター!?」
魔物、モンスターと呼ばれる生物たちが画面いっぱいに写し出された。
「まさか、ここって!!」
写し出されたのはそう。ここ。
「横浜ダンジョン!?」
俺と店員は二人で店の外へ出る。とりあえずどの方角に逃げるべきか探るためだ。
路地を抜けて大通りにでた。
するとそこは人による大河。人が人と思わないように自分のために逃げていく光景。一人が転べば助けるものはなく、それがまるで川の中の石のごとくそれを避けて流れていく。
誰一人として助けることはないのだ。
「どうして、こんな…」
俺はそう呟かざるを得なかった。この悲惨な光景を目にしてそう言わないものはいないだろう。
俺はもはやモンスターによる攻撃よりも人の無情さに直面し、動くことすらできなかった。
「う、うわぁぁぁぁあああああ!!!」
隣にいた店員も、突然気が狂ったように大河の中に吸い込まれていく。無理もない。この状況で逃げるなという方がおかしい。
俺も逃げないといけないのだ。だが、なぜだろうか。その気分にはならなかった。
ここで大河の一部となれば確実に、いや、高確率で助かるだろう。
だけど俺はこの状況を何とかしたいと思ったんだ。
これは地球の意思によるものか?であればこれはこれで俺も感染してるのかもな。
そんな皮肉を考えながら、人の流れを避けながら逆に進んでいく。
すると最後尾が見えてきた。
それすなわち、モンスターの大軍。
先頭はスライムやゴブリンから始まり、空には俺が見たこともないコウモリのようなモンスター。その後にも多くのモンスターが跋扈しているが。
一際目立つ最後尾の大きなからだ。
ダンジョンを知らない俺ですらそれに名前をつけることが出きるだろう。
ドラゴンと。
「まじかよ。これは無理だろ。」
俺はその大軍、いやドラゴンを見て怖じ気づいた。当然生身の俺が立ち向かえる相手ではない。
ただ、奴らまであと百メートルほど。
その間には逃げ遅れた人たちが少なからずいた。
「っ!!!」
俺は走り出した。
奴らが来る前に。なんとしてでも彼らを助ける。
そこから倒れている人を何人も起き上がらせ、逃げることを再開させる。それを繰り返しているうちに、奴らは容赦なく近づいてくる。
「大丈夫ですか!?逃げましょう!!」
最後の一人となった男性を起き上がらせる。
「あ、ありがとう。君は戦えるのかい!?」
彼は少しの希望を持った目で俺を見る。
「いえ!だから逃げましょう!」
すると彼は少し残念そうな顔をするも、俺を置いていく勢いで逃げ去っていった。
「ああ、薄情だなぁ。」
俺はふとこぼれた。だがこんなことをしている場合ではない。奴らはもう三十メートル先位まできている。
あと十秒もすれば、俺がいるところは奴らの足跡でいっぱいになるだろう。
「逃げないと!!」
俺は振り向いて走り出そうとした瞬間。周りの建物の上から人影が自分の方に落ちてきた。
ズドオォォォォォォォォォオオオオン!!!!!!
「うわっ!!!!」
俺は尻餅をついてしまった。
落ちてきた場所を見ると砂ぼこりがだんだんと晴れて俺の方に近づいてくる。
「大丈夫か?」
彼は俺に手をさしのべる。その手に捕まり立ち上がった。
「はい!あなたは!?」
俺はとっさのことで大きな声が出てしまった。
「俺は雷帝。日本ランキング二位だ。」
この人が、日本二位。そんな人がどうしてここに!?
彼は身長185はあるだろう。そして胸の暑さが半端じゃない。トップアスリート顔負けだ。顔もキリッとしていて、35歳くらいだろうか。イケオジって感じだ。
「どうしてここに!?」
「そりゃあお前。」
含んだように彼は笑い言った。
「力持つもんは守るために使うんだよ。」
そう言った途端、彼が降りてきた建物からもう一人続いて降りてきた。
「すみません!!遅れました!!」
今度降りてきたのは若めの美人。おそらく俺より若いだろう。20そこそこじゃないか?だが、身のこなしがすさまじく速い。
それに彼に敬語ということは、師弟関係的なものなんだろう。
彼女は一瞬俺の方を見てすぐにモンスターの方に向き直った。
「行きましょう!!」
そう言って彼女は二位よりも先に大軍に向かっていった。
俺はその背をただただ見つめることしかできなかった。
「憧れるか?」
雷帝が俺に問う。
「はい?」
さらに
「君は勇気がある。力なきものが立ち向かうこと。それは無謀であるかもしれないが、その勇気が確かに先の男を救った。君がいなければ彼は奴らの餌食だっただろう。」
彼は俺に背を向けモンスターの方へ歩きながら話す。その内にも彼女がモンスターをとてつもないスピードで倒していく。
「よくやった。青年。ここから先は任せろ。」
彼は雷を纏い、モンスターの大軍に彼女よりも速いスピードで突っ込んでいった。
評価、感想、ブックマークありがとうございます!!!とても励みになります!!