二十八話 過去の光と災厄の竜
前回のあらすじ
沖縄に到着する。
何かの影をみつけ、逃げ遅れた人を保護するために追うと、そこには謎の穴が。
「穴にしては長いな。防空壕ってこんなに長いものなのか?」
俺が懐中電灯を持ちながら先を進む。
倉木さんは俺の背中の服をギュッと掴みながらだがついてきている。
いつものクールな感じとは変わってなんだか保護欲がわくな。
ギャップ萌えってやつか。
「確かに防空壕はなかで治療していた例もありますからそれだけ長いかもしれませんね。だけど本当にこの中に何かあるんでしょうか。」
「あぁ、うん。たぶんね。感覚だからしっかりとは伝えられないけれど、確かにこっちの方から感じるんだよ。」
何か、とは答えられない。でも確かに熱、というか温もりというか。そういうものがこの先にある気がするんだ。
「そ、それならいいんです。それなら。ちょっ、ちょっと速いですよ!」
「ご、ごめんっ。」
後ろから叩かれてしまった。
さすが一流の探索者の拳。超痛い。
「行き止まり?」
ライトを当てるが先は壁になっているようだ。
といってもまだ壁まで二十メートル程あるが。
「手前に何かありますっ!」
そういって俺の背中から離れるとすぐに臨戦体勢を整える。
ここで出てくるのはモンスターじゃなくて幽霊とかその類いな気がするけど。
「確かに。なんだろう。」
ライトを広域のモードに変え、行き止まりとなっている壁全域が明るくなるようにする。
ここまでは電池が持つようにと細くしていた。
「これって、」
「遺跡?壁画?」
壁には壁画や、文字。そして何かの台座が存在していた。
それは肘掛けほどの大きさしかなく、その上にはなにもない。
「壁一面に壁画、か。」
「これが何かある、といったものなんですかね。結局なにもいませんでしたけど。」
「文字もあるな。」
俺は壁に書かれた文字を指でなぞる。
少し汚れてはいるが見ることは出来る。だが、読めない。
「今の文字じゃない。それに、日本語でもないな。形もほとんど違う。最早暗号か。」
「鑑定、してみますね。」
倉木さんが文字に指を当てスキルを使う。
だが、通常光が出るが出ないため失敗に終わる。
「駄目みたいです。どうしますか?」
「なら解析を使ってみるよ。そんなにランクは高くないけど。」
俺は倉木さんと同様。壁に手のひらを当てる。
「解析。」
するとすぐに壁全体に血が巡るような動きを見せる。
絵画や文字の部分が発光し、それらが俺に流れ込んでくる。
これは、壁に書いてある情報!?
十秒ほど俺の身体に流れ込む。
「だ、大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ。」
俺は身体から力がぬけ、地面にへたりこむ。
倉木さんが肩を止めてくれたお陰で倒れることはなかった。
「なにか、わかったんですか?」
神妙に聞いてくる。
俺の表情でわかったんだろう。きっと今の俺は驚愕ということばを顔にしたような表情をしているだろう。
冷や汗が止まらない。
「あぁ、わかったんだが、一気に流れ込んできたのもあって…理解が追い付いてないんだ。少し時間をくれないか?」
「沖縄ダンジョンに行くよりも大切ですか?」
そうだった。今はそれも大切。だがこの情報はそれにも関係のあることではある。
だが、急がないといけない。どうする。
すると倉木さんは俺の横に座り込んだ。
「どうしたの?」
「いえ、私たちが行ってもほとんど力にはなれそうもありませんからね。付き合いますよ。」
そう言うと鼻唄を歌い出す。
ありがたい。自分としても時間が置けるとだいぶ楽になる。
だが、急がないと行けないのも事実。
「……ありがとう。」
「どういたしまして。」
「もう、大丈夫だ。ありがとう。」
十分程考えた。正直俺のレベルの解析だと曖昧なところもあるらしく、自分で考察した部分がある。
そのために曖昧な解釈にはなってしまうが。
今はそれでもある程度理解できるところまでは整理した。
「そうですか。どうします?ここで話しますか?」
「え?」
「いやいや、教えてくださいよ。私も待ったんですから。」
あぁ、確かに。自分で考えて理解して。それで解決だと考えてしまった。
でもこれは伝えてもいいものか。これを知れば巻き込むことになってしまうかもしれない。
「言わないとぉ…?」
きっと俺の力の事だろう。それを脅しの様に使ってきた。
俺の正面にしゃがんで上目遣い。
かわいい。
いやいや、それでも。
「私は口固いですよ?それに社長の言うことを聞いてもらいたいです。言うまでここから出しません。」
そう言う倉木さんは、少しふざけたような口調だが、目は本気だった。
きっと、一人に背負わせない、と思っているんだろう。
まだ若いのにできた子だ。
「分かった。話すよ。」
二人で壁画の前に立つ。
「まずいつかはわからないけど、遠い昔。突如この地に入ったもの、迷って出られない穴が現れた。入ったものの中で帰ってこれたものはいなかった。」
「それって、」
「うん。ダンジョンだと思う。」
「でも昔からあったなんて聞いたことも!?」
少し興奮したように詰め寄ってくる倉木さんをなだめる。
「分かってる。少し聞いて。それでしばらく近寄らないようになったんだ。それがこの絵。」
そういって穴の周りを線で囲むような壁画を指差す。
「だけどしばらくして災いを呼ぶ竜が穴から出てきた。」
「竜…。」
「それは近づく生き物は全て貪り、少しすると穴に帰ることを繰り返した。すると食べるものがなくなった人々はその竜をどうにかしようと立ち上がるが、多くの犠牲を払い失敗する。」
形のいびつな生き物とも思えぬような竜が、人や生き物を喰らう壁画をなぞる。
その絵は理解すればするほど、凄惨な過去を想像するに容易いものだった。
「人々は考える。そして出した答えは……。」
「生け贄。」
倉木さんは俺が言うよりも先に壁画に向かって言う。
彼女が見る先には、竜の前に人が並ぶ姿。
全員が頭を垂れ、なす術もなく並んでいる。
「そう。だけどそれにも限界がくる。人間たちは限界を迎えた。誰もが神に祈りを告げた。」
きっと、この時に俺と同じ力を持つ者。
地球を守りし者。
「その時彼が自分を犠牲にして封印した。それが、」
「シーサー、ですか?」
「たぶん。ここは俺の考察でしかない。理解ができなかったから。黄金に輝くそれは竜と共に穴の奥底に沈んでいき、穴も同時に塞がった。」
だが、壁画はシーサーと酷似した絵が描かれている。
「それじゃあ今の起こっている地震って、もしかして。」
「いや、わからない。だけど今あるダンジョンはしっかりモンスターが出るし、そんなに竜の目撃はない。だけど、もしかしたらそうかもしれない。それに、俺がここに引き付けられた理由もそれかも。」
「でも、それじゃあ私たちはどうすればいいんですか!?」
そう、それだ。
仮に今起こっている地震が、災厄の竜が原因だとしたら、今の俺たちで太刀打ちが出来るのだろうか。
そして、押さえられなかった場合、次に餌の標的となるのは人口の多い那覇。
そこまでいかれれば俺たちの負けとなる。
まぁその時には死んでいるだろうがな。
「わからない。だけど、何とかするしかないだろう。いざとなったら、」
俺が出る。
「鹿取さんが行くんですか!?またあんなにボロボロになって!?シーサーと同じ様な運命を辿ろうとしてるんですか!?」
「いや、そんなことは。」
「嘘!病院でのあの怪我を見たら大丈夫なんて言えるわけがない。代償が大きすぎます!いつ身体が機能しなくなるかもわからないのに!」
確かに、あの全身の出血を続けていれば、いつ動かなくなるかわからない。
だけど、俺が行かないといけないのも事実。
「……まぁ、今回それが原因かどうかわからないんだから。その時になったら考えよう。」
「………もしそうなっても行かせません。」
「ははっ。」
それからすぐに二人のスマホに連絡が来た。
ダンジョンから大量のモンスターが出たと。
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