二十五話 思わぬ再会
前回のあらすじ
地獄の訓練のなかで久し振りの休暇。倉木さんに誘われてプラネタリウムへ。
プラネタリウムを見終わり、二人でレストランに入った。
そこはチェーン店ではないものの、カジュアルで誰もが気軽にはいれそうな外観だ。
それでいて綺麗で静かだから良いお店を知っているなと感心する。
中に入り案内されたのは、二人席ではなく結構広めの席だった。
片側がソファで方側が椅子と言うオーソドックスなタイプだが、その椅子が三つあるのだ。
二人で入ってきた人間にそれを勧めるのはどうかと思ったが、倉木さんは気にせずに座る。
「こんなに広くていいの?」
俺は耐えかねて聞いた。さすがに不自然すぎるからだ。
これは東京名古屋関係ないだろう。
「あ、この後師匠が来るんです。だから広めでお願いしました。」
いいながらメニューを見ている。
てっきり二人だと思っていたが、この後人が来るなら自然だ。
だが、師匠はなにをしに来るのか。
「なにか予定があるなら俺外れるけど、いてもいいの?」
もし、家族的ななにかで食事をするので集まると言うところに俺がいるのは場違いだ。
それに、正直師匠がいると堅苦しくなって食事が喉を通りそうもない。
「はい。今日は鹿取さんがいるので来るんです。」
それはどう言うことだろうか。日頃の行いか何かの指導か。
それとも何かの指示だろうか。
そんなことを考えながら、メニューを決めて頼んだ。
「そういえば、先に頼んじゃって良かったの?まだ来てないけど。」
「はい。大丈夫です。お姉ちゃんと食べてから来るみたいなので。」
食べてから来るのか。ソウカソウカ。
「えっと、お姉さんが来るの!?俺がいたらまた機嫌を悪くされちゃうんじゃ。」
正直それがあって倉木家には挨拶にすら行けていない。
名古屋にきて毎日お姉さん以外の人とは会っているのだから挨拶くらいした方が良いかと思ったがやめておいたほどだ。
「いえ、お姉ちゃんが話したいことがあるみたいで。きっとこの間のことで。」
この間とは病院のことだろう。
あの時はしっかりとした謝罪もできずに帰ってしまった。
もう一度機会があるなら謝ろうとは思っていたが。
「そ、そうか。ならいてもいいのかな。」
「はい。大丈夫です。そんなに緊張しなくても。」
彼女はそう言うが、そうは言っても、である。
「お、まだ料理はきてないのか。」
声の方を振り向くと、お姉さんをのせた車椅子を押す師匠が。
彼は横についてきた店員さんにお願いして1つの椅子を撤去してもらい、そこに車椅子を入れる。
このお店も慣れているのか、スムーズにおこなった。
「はい。まだ注文して五分です。どうぞ。」
倉木さんは今まで座っていた椅子を師匠に明け渡し、俺の横に座る。
夫婦は横に座らせようという計らいだろう。
さすがいつも二人と一緒に暮らしているだけあって慣れている。
さて、どうしたものか。自分の向かいには先日機嫌を損ねてしまったお姉さん。
なんともコミュニケーションが取りづらいのだが。
「あの、先日はすみませんでした。まともな会話もできずに退出してしまって。」
「私こそすみません。妹のことで熱くなってしまって。怪我をしたのは貴方も同じなのに。」
そう言って目を伏せる。
そういえば背中?脊椎?の病気だったはずだ。
それが謝罪のジェスチャー的なものなのだろう。
「いえ、自分はもうこの通りピンピンしてますので。それに、自分が弱いことを痛感させられました。おかげで今頑張ってられています。ありがとうございました。」
「あら、そうですか。頑張ってくださいね。」
笑顔で返してくれる。
さすがは倉木さんのお姉さんだ。彼女と似てはないけれど、タイプの違う美人であることには変わりない。
師匠も良い女性を捕まえたものだ。
「で、どうだった?プラネタリウムは。あそこすごいだろう。」
師匠が対角線に聞いてくる。
「はい。ものすごく綺麗でした。最近だと夜空をみる前に部屋にこもって寝てしまいますから。」
地獄の訓練のせいでな。
心も体もズタボロなのだからしょうがない。
「お、それはいやみか?」
「い、いえ!そんなことは!お願いしている立場ですから。」
そんな様子を見て姉妹が笑う。
二人とも優しく見守るタイプの女性だから、なかなか男二人の話をまじまじと見られると、なにを話していいのか分からなくなる。
それに、話すことといったらダンジョンの話になってしまうため、お姉さんが退屈してしまうだろう。
どうしたものか。
そうして口を閉ざしていると、
「好きなように話していいのよ。ダンジョンの話も私は好きだから。この二人は家でもずっとその話だから。気を遣ってくれたのは初めてよ。」
あー、なるほど。この二人ならそうなりかねないかもしれない。
家に帰ってきてそれでは慣れるのも仕方ないのか。
って、俺気を遣ってるように見えたのか?なんだかするどい女性だな。
「そうですか?すみません。」
「えっ、そんなことないだろ。ダンジョン以外の話だってしてるだろ?」
「そうだよお姉ちゃん。」
和気あいあいと話しているのをみると、ダンジョン以外では家族なんだなって思う。
いつもは殺伐と弟子と師匠の関係の二人が、お姉さんを中心として家族になっている。
二人が彼女のためにエリクサーを探す理由が垣間見得た。
「あの、師匠のギルドってないんですか?」
プラネタリウム前に話していた話題を思い出し振る。
正直あそこでは疑問が残ってしまった。
「あぁ、ないな。たぶんランカーだと俺だけだろう。そもそも俺がソロで戦うタイプだからな。パーティ自体組む気もないし、もっとでかいギルドなんてなおさらだ。」
「なるほど。だから?」
俺は倉木さんの方を見て言う。つまり彼女はギルドに所属していないから幼なじみ君に誘われるわけだ。
「はい。作ってくれたら楽なんですけどね。」
「あら、翔君の所の話?まだ誘われているの?」
と、また言葉に出していないのに指摘される。
俺は驚きで目が点になってしまう。
それを見て隣の倉木さんが俺の耳に手を当てる。
「お姉ちゃんは人の心を読むのが上手いんです。文脈とか、表情とかで大体分かるみたいで。」
って、怖いな。でも、きっと車椅子生活による特技みたいなものだろうか。
動けないぶん人の言動をしっかり見ていたんだろうな。
「ねぇ、そうなの?しつこいなら私が言うけど?」
と、少し瞳孔を広げながら言う。
もう一度言うが瞳孔が開いている。ガチの目だ。
「いや、いいよ。私が自分で何とかするから。」
そう言うも、倉木さんの表情は暗い。
まぁ、師匠が当てにならないんじゃきっとどこにもつてはなさそうだ。
どこかのギルドに入っちゃえば別なんだろうけど。
だが師匠の一言がこの空気を切り裂いた。
「なぁ、愛唯。自分で作れば?」
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