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十九話 弱さの実感

前回のあらすじ

気づくと病院にいた。二人とも無事で帰ってくることができたが、多くの疑問が残る。

  「どうかな?体は?」


  次の日、倉木さんのお見舞いついでに雷帝さんが、俺の病室に来てくれた。

  ちょうど奥さんも今倉木さんの病室にいるようだ。


  「はい。お陰さまで支えがあれば立てるくらいにはなりました。」


  「そうか。それはよかった。」


 

  なんでも医師が言うには、ダンジョンに入ったことのある人間であれば正常の回復力らしい。

 

  それだけダンジョンの影響が強いと言うことだろう。


  それから少し二人で世間話をして、



  「そろそろ愛唯のところに行こうか。」


  と、提案をしてくれたので行くことにした。


  実際俺一人で行くのもどうかと思っていたところだった。

  他の人が案内をしてくれると入る理由ができて楽だと思う。

  ようは恥ずかしい。



 


  「失礼します。」

 

  俺は雷帝さんに開けてもらったドアに入る。


  今俺は点滴をさしている状態で、移動できる点滴スタンドを使っているので、気を遣ってもらった。


  手すりに捕まりながら中に入ると、中には三人。


  ベッドに倉木さん。その横に車イスに乗る女性。これがおそらくお姉さん。そしてその後ろで立っている男性が一人。


  彼は俺より結構若いだろう。彼が倉木さんの幼なじみで、助けてくれた人か。



  「この度は自分が不甲斐なく、倉木さんに怪我を負わせてしまい申し訳ありませんでした。」


  とにかくできる限り頭を下げる。


  今回、他人から見たら足手まといと共にダンジョンに入った倉木さんが俺を守り怪我をした、という構図だ。


  この場合俺が謝るのが筋なのだ。


  それに、それが偽りであったとしても、あそこでもっと早く力を使っていればなにもなかったのも事実。


  二重の意味での謝罪だ。



  「ダンジョンに入って戦っている時点で、怪我をするということは覚悟してましたし、この子とうちの人が私のために戦っていることは分かっていることでした。なのであなたを責めるつもりはありませんよ。」


  自分が一度も聞いたことのない声。きっとお姉さんだ。



  俺は頭を上げて声のする方を確認。


  「本当にすみません。」


  再び頭を下げる。


  「でも一つだけ聞くわね?防げるものではなかったの?」


  彼女の声は優しい中にも、行き場のない怒りが含まれていることを感じるのは容易だった。


  どう答えるべきか。自分に問う。


  病室には数秒の静寂が訪れ、そこにいる全員の目が俺に向けられる。


  「あのっ!?」


  そこで倉木さんが発言しようとするも、お姉さんに止められる。


  俺に答えてほしいらしい。


  確かに今の俺の力では及ばなかったが、早く使えていれば。だが、それを言ってもしょうがないだろう。



  「防げていた、かもしれません。」


  俺は他にどう答えていいのか分からなかった。


  ただ地面だけを見つめることしかできない。



  「それでも男かよ。足手まといのせいでこうなったんだろうが。」


  お姉さんの後ろの男性が口を開く。


  言い返すこともできない。素の俺はあの時完全に足手まといだったし、彼女だけなら勝てたかも知れない。



  「そんなことないっ!」


  そこで倉木さんが耐えきれなくなったように口を開く。


  「お姉ちゃんも翔もなんでそんなこと言うの?さっきも言ったはずだよね。彼がいなかったら勝てなかったし、生きてなかったって。」


  「だけど事実そいつは……」


  「なにも知らないのに言わないで。」



  翔、と呼ばれた男性はその気迫に押される。


  その言葉を、お姉さんは噛み砕いて受け入れているように見受けられる。


  そして俺をじっと見た。ただ見るだけ。


  俺はその目を見返すことは出来なかった。


  「すまない。先ほど冷静に話し合うと決めたんだが。病み上がりにごめん。病室に戻って貰えるか?」


 

  雷帝さんが俺の肩を軽く抱いてそう言う。


  ここに来て俺はなにも出来なかった。まともな謝罪すら。


  むしろ倉木さんに擁護されるほどだ。不甲斐ない。


  せっかく仲良くなれるかもしれないと思っていた幼なじみの彼や、お姉さんとも怒らせてしまった。


  どうすればよかったんだろう。









  それから俺は病室に戻り、ただ流れてくるテレビの音を聞き流して無心になっていた。


  なにもしない時間は長いようで短く、ふと外を見ると暗くなり始めていた。


  「失礼するね。」


  ノックと共に雷帝さんが病室に入ってくる。


  後ろを確認すると車イスに乗った倉木さんもいた。



  「先ほどはすみませんでした。あの、お二人は?」


  「先に帰ってもらったよ。翔、あぁ、説明もしてなかったね。彼は愛唯の幼なじみで今回助けてくれた人の、佐藤翔くんだ。まぁまだ若いから許してあげてほしい。」


  「いえ、自分が悪いので。」

 

  「いや、まぁそれは後で。彼は帰ったよ。拠点が横浜だから家が近いそうだ。奥さんは今受付横で待ってもらってる。ここにさっきのことを謝りたいと言っていたけど、それは俺が止めたよ。気にしないでくれ。」


 

  自分が帰った後で色々あったようで、今は二人だけで病室にこられたようだ。


  「あの、」


  雷帝さんが促すように車イスを押して病室の中の方まで入ってきた。


  自分はベッドの上なので気まずくなり立ち上がろうとすると雷帝さんに止められる。


  「先ほどはすみませんでした。二人が失礼なことを。」


  倉木さんが自分に謝罪した。


  俺は手を出して、


  「や、やめてよ。俺が悪いんだ。しょうがないことだし。」


  「でも、……」


  彼女が少し悩んだ様子を見せた後、


  「師匠。少しだけ席をはずしてもらってもいいですか?」


  彼女は雷帝さんに提案する。


  「俺がいてはダメか?」


  それに対し彼女は俺の顔を見た後にもう一度、


  「お願いします。」


  と言うと、彼は病室の横で待っているから終わったら呼んでほしいと言う。




  彼が出てから数秒の無音があるが、すぐに彼女はそれを切り裂いた。


  「なんて言えばいいのか分かりませんが、とりあえず。ありがとうございました。そして、誰にも言っていません。」


  色々な言葉を伏せて言っているが、ほとんど理解できるないようだった。


  きっと周りに知られないようにと気を遣ってのことだったのだろう。


 

  「いや、俺があの時もっと早く……」


  「いえ、助けてくれたのは事実です。それに色々な事情があるのでしょうし、怪我の状態を見て気軽に使えないものだと理解しましたし。」


  「いや、もうこの通り動けるよ。」


  そう言って腕を振る。


  でも彼女は話をやめずに、


  「私鹿取さんがまだ目が覚めていない間にここに来てるんです。私は救急車の中ですでに目が覚めていましたから。車イスに乗っていますが、この怪我ももうほとんど治りかけです。皆を安心させるために乗っているだけですよ。」


  怪我はそんなに大きく無かったようだが、実際怪我をさせてしまったことには負い目を感じざるを得ない。


  「見ました?ここに来たばかりの時の体。」


  それは俺のものだろうか。そんなものは写真がない限り見ることはないし、見たくもないな。


  毛の処理してたかな。


  「ビックリしました。全身が真っ青なんですよ。もう人の体はじゃないみたいに。聞いたら全身が内出血して、皮膚の中で溢れてたみたいなんです。なんでも無理やり全身を動かしたからじゃないかってお医者さんは言ってました。」


 

  あいつなにも言ってなかったじゃないか。糞医者め。


  だが、気を遣ってのことだろうと心になんとか落とし込む。


  「でも、それならなんでこんなに早く回復してるんだ?」


  「手持ちのポーションをお医者さんに提供しました。助けてもらったお礼です。」


  「え!?申し訳無いよ!!」


  「気にしないでください。その代わり、色々聞きたいことがありますから。」



  申し訳無い気持ちから、強かな女性を恐れる気持ちに変わった。


  ただ、どこまで搾り取られるか想像すると冷や汗が止まらなかった。

 

 

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