十五話 スキルの検証
前回のあらすじ
倉木さんと遊びに行った。
「今日はよろしく。」
「はい。よろしくお願いします。」
横浜ダンジョンの前で待ち合わせた俺と倉木さんは、すぐにダンジョンに向かった。
今回は俺に合わせてくれるようで、20層前後で検証する。
今日の朝買ったものは無事届いて、自分のかばんのなかに入れてきた。
俺たちは歩きながら、自分の戦闘スタイルなどの確認をしていた。
「本当に武器だけで戦うんですね。」
俺の全身に付けられた武器をまじまじと見て彼女は言う。
「うん。これしかできないしね。それにしても倉木さんはホントに軽装だね。」
倉木さんの防具に鎧はない。
おそらく高価なのだろうが、皮でできたバイクスーツのようなもので身を守っている。
「はい。私は機動力が武器ですから。」
なるほど。俺も足を引っ張らないように頑張ろう。
俺たち二人は止まることなく、16階層まで来た。
ここはダンジョンの中でも広い階層だ。洞窟の形ではなく、壁が一切ない構造だ。ただ、まっすぐ進めば次の階層に進めると言うものだ。
視界が悪いわけではないので、ここで苦戦する人はほとんどおらず、皆が素通りしていく階層だ。
モンスターはカピバラサイズのネズミで、ジャイアントラットと呼ばれる。
別に強くもないので、警戒することもない。
まぁそんな旨味がない階層だからこそ、こういう検証ができる。
周りにはほとんど人がいない場所を選んだ。
「それじゃあ早速やってみようかな。」
俺はその場にリュックを下ろし、中のものを取り出した。
「ホントに買ったんですね。それ。」
俺の手に持つ化石を見てジト目になる。
「ああ、使えなかったら飾ればいいだけだしな。」
「そんなもの飾ってどうするんですか?」
「見る。」
他愛もない話をしながら化石をケースから取り出す。
まずはサメの歯。
「いくよ。」
「はい。」
俺は緊張で額に冷や汗が流れるのを感じる。
「化石覚醒。」
言うとすぐに手に持つ歯が光となり消える。
それと同時に、口の中が盛り上がるのを感じた。
「ほうなっへう(どうなってる)?」
俺は口が閉まらず普通の声を出せない。
「ぷっ、フフ。歯がギザギザです。」
「ほうやっへかいひょふるのはな(どうやって解除するのかな)?」
「んー?念じればいいんじゃないですか?」
念じるか。よし。解除!!
するとすぐに口の中の異変が治まった。
そして手の中に歯の化石が戻っていた。
「これは使えないな。」
「そうですね。ステーキ食べるときに使ってみたらいかがですか?フフッ」
彼女は俺の変な顔が気に入ったようで、ずっと笑っている。
よし、次は、
「爪、行ってみようかな?」
「爪が延びるんですかね?」
「さぁね~。化石覚醒。」
言うと同時に、また化石が光となり消える。
そして爪をつかんでいた手の指先が、十センチほど延びる。
指先と言うものはなくなり、第一間接から爪が延びている。
先は鋭く、先ほどの化石の色とは少し違って、きっと生きていた頃の色に近いのかもしれない。
「ど、どうかな?」
俺は自身の右手を見せる。5本とも爪が延びている。
「それって使えるんですかね?それだったらナイフとかの方が長くないですか?」
「確かに。ちょっと切ってみたいな。またあとでにするか。」
「あ、そうだ。二個同時に使えるか試したらどうですか?」
「あー、そうだね。じゃあそのままやるね。」
俺は最後の一つ。アンキロサウルスの装甲を取り出す。
ただこれが疑問なのが、からだのどこにつくのかだ。
「化石覚醒。」
光るのは変わらず、物は消えた。
変かがあったのは腕だった。
腕が自分の腕ではないように、突起が無数についている。
「なんだか人の手じゃ無いみたいですね。腕はごつごつで、指先は長い爪。悪魔みたいです。」
「ひどいいいようだなぁ。まぁ確かにそう見えなくもないよね。ちょっと実践で使ってみるね。」
そう言って俺は近くのラットの方に近づく。
こいつらは好戦的でも臆病でもない。こちらから攻撃を仕掛ければ襲ってくる程度だ。
そのため、俺は近くの一匹に、落ちている石ころを放り投げた。
グギャァァア!!
やはりモンスターだな。声が汚い。
すぐにラットは俺の方へ突進を始める。
今回は装甲と爪の検証なので、攻撃を受けること前提だ。
だが、正直それらを信用していないので怖い。
「だ、大丈夫だよね!?」
少しはなれたところで見守る倉木さんに問う。
「わかりませーん。」
「そんな!?」
そう言う間にも近づく。
俺は腰を落として腕を前でクロスして突進を受ける構えを作った。
ドスッッ!!
なんと吹き飛んだのはラットだった。
見るとほとんど気絶していた。
「そんなに力を入れてないのに。どうしてだろう?」
「やっぱり凄いですね。」
倉木さんが既に横にいた。
「やっぱりって?」
問うと昨日の夜俺が買った化石について調べてくれていたみたいだ。
アンキロサウルスの装甲については、ティラノサウルスの噛む力さえも押さえ込んでいたらしい。
ちなみにティラノサウルスの歯あたりにかかる圧力は三トンだ。
「なるほどね。だからなにも感じなかったのか。」
「そうですね。でも守られているのは腕だけなので気を付けないと。それじゃあ次は爪ですね。」
そう言って彼女はラットの方をみた。
気絶しているのでトドメをさすことを促しているようだ。
正直気絶している相手を殺すのは気が進まないが。
「ごめんね。」
彼女が言った。俺ではない。
「今なんて?」
不自然にも聞いてしまった。
だっておかしい。それだと俺の考えが違っているということになってしまう。
確かに他の人たちはそれ系統の倫理感はなくなっているはずなのに。
「?ごめんねと言いました。この子たちも生きていたから。変ですか?」
マジか。マジかよ!!
まだ、こういう人もいたのか!?ならその違いはなんだ?
というか、それならなんでダンジョンを攻略しているんだ?
「いや、変じゃないけど。ならどうしてダンジョンを攻略してるの?」
「………私の姉は、師匠の奥さんです。」
「うん。それは知ってる。」
「師匠と私は、姉のためにダンジョンに潜っています。姉は病気なんです。脊椎の病気なんですが、その影響で立てなくて、ずっと車イス生活で。」
「ダンジョンに薬があるってこと?」
「と、信じています。ほら、私達が想像するものって大抵ダンジョンにあるじゃないですか。ポーションとか、回復の魔法とか。それじゃ効かないから。ならもっと潜れば、あるんじゃないかって。」
「……エリクサー…。万能薬。」
「はい。確かに今はダンジョンで生計を立ててますが、それがなかったら私はやめています。」
「そっか。なら俺もいつか見つけたらすぐに届けるよ。」
「はい。ありがとうございます。」
そう言う彼女の顔は、今までで一番朗らかだった。
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