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やさしい魔女の眠る国  作者: niku9
世界は優しい
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一緒にいよう 1

ごはんを食べる回です。

 翌日は、優莉は怪我と心労のせいか熱を出して一日寝込んだ。

 熱自体は大したことはなく、大事をとっての休養だったが、アイゲルやルースなどが心配で見舞いに来たが、レティアが全員追い返した。

 彼らのほとんどが、保護した女性たちやレティアが話した盗賊団での優莉の武勇伝(?)を聞いて、彼女にぜひ騎士団の食事を作ってほしいという要望を伝えにきたのだった。

 騎士団の砦は、有事に備えての防衛線であり、常に大量の人間を押し込めている訳ではなかった。近隣の都市の騎士団が配備をするため、少ない時は五〇人程度、有事の時で千人と配置に幅があった。そんな場所で常に料理人を雇うこともできないので、少ない人数の際は兵士が持ち回りで食事を作る。

 騎士団の構成はほとんどが貴族や豪商の次男坊以下の男であり、そんな人間が食事など作ったことがある訳が無く、大体にしてゆでた卵や芋やトウモロコシ、パン、焼いた肉など、良く言えば素材の味を生かした料理と呼んでいいか分からないものが出てくる。料理が出来なくはない者もたまにいるが、それでも良くて野菜を煮込んだ塩味のスープやマッシュポテトが関の山だった。

 病み上がりは重々承知だが、一食でいいから是非とも食事を作ってもらいたい、との熱望だった。

 レティアも正直言って家事に向かない人間なので彼らの言い分も良くわかるので、優莉に一応話をしてみた。

 優莉も助けられるばかりで何か感謝を伝えたいと思っていたので、二つ返事で了承した。人数が全部で百名と聞いてびっくりしたのだが。

 正直なところ、優莉自身がここの淡白な食事に飽きたというのもある。

 その話を聞いた保護された女性たちも、自分たちもぜひ腕を振るいたいと申し出てくれたため、次の日の昼食、女性たちが故郷へ帰る前日の食事を作ることになった。

 騎士団には食材だけは豊富にあるので、好きなものを好きなだけ使って良いというお墨付きをもらっていた。昼食を明日作るにしても、材料の確認をしておきたいと思い、アイゲルに許可をもらって厨房へ足を運んだ。

 材料は本当に豊富にあった。身体が資本の兵士なだけあって皆よく食べるらしい。牛乳もあったので恐らくあるだろうと思っていたのだが、バターやチーズがあった。おまけにあまり多くは無いが砂糖もある。

 優莉は食事だけではなく、日持ちのするものも作れたらと考えており、施設でも大好評だったクッキーを作ることにした。大人の男性の口に甘い菓子が合うかは分からないが、疲れた時の甘いものは存外入っていくものだ。クッキーなら軽いし十日はもつので、記念に作ろうと決心した。

 善は急げということで、夕食の準備が終わった厨房を借りて、クッキーの制作を始めるのだった。

 ビニール袋やクッキングシートが無いのと、オーブンの使い方が難しかったので苦労したが、何とか五〇〇枚のクッキーを焼くことが出来たのは、明け方近くになってのことだった。途中、甘く香ばしい匂いに誘われた騎士や兵士が何人もフラフラと厨房に現れたが、レティアの威嚇により虚しく追い返されていた。

 レティアにだけは、どうしてもとせがまれて何枚かクッキーを渡していたが、彼女によるとこんなお菓子は食べたことが無いらしい。それほど難しくはないし、バターも砂糖もあるのにクッキーがなかったことは驚きだった。

 夜が明けて仮眠を取ると、みんなが朝食をとる前にクッキーを片付けなければならなかった。配る前にもう一仕事だった。

 パンは数日おきに日持ちのするものがまとめて届けられるため、そのパンを包んでくる油紙を拝借し、人数分の適当な大きさに切ってクッキーを包む紙にしようと思っていたのだ。

 ある程度作業が終わると、朝食を皆食べ終える時間になった。そろそろ昼の準備に取り掛からないといけないと思ったが、既に女性たちが集まってきていた。

 一〇人で出来るものを考えたが、一つはこの地方のお袋の味であるポトフのような煮込み、一つはバターが豊富に残っているのでミートパイを作ることになった。

 そして皆からの要望で、優莉の故郷の料理を一つとせがまれた。残念ながら味噌や醤油が無いので和食は無理だった。

 今ここにある材料で、最も沢山あるのがジャガイモで、次いで玉ねぎ、鶏肉、牛乳だった。本当はコロッケでも作りたかったが、油があまりなかったので断念する。代わりにチーズを使って、ポテトグラタンを作ることにした。

 村では毎日家事をしていた女たちでも、グラタンは知らないらしく、クッキー同様珍しがられた。

 女が一〇人もいれば姦しくなるが、作業は物凄く捗った。面倒なパイに人数を裂いたが、グラタンは難しくはないので、一度教えるとすぐにホワイトソースをマスターした。

 そうこうしているうちに、昼時がやってきた。いそいそと待ちきれなかった騎士や兵士たちが列をなしていた。たっぷりと作ったので、たっぷりとよそってやると、皆それぞれ得も言われぬ表情をしていく。そのまま食堂はしばらく戦場のようになった。

 結果は、アイゲルが直々に礼を言って回るほどの好評だった。兵士たちは、女性たちがちょっとドン引きするくらいの喜びを見せていたのだ。

 特にクッキーは珍しがられ、日持ちすると言ってあるのに、皆その場で完食してしまった。中には「俺のために作ってくれ」と言ってくる騎士や兵士もいたが、仲間の男たちが慌てて優莉から引き離しにかかる場面がいくつかあった。

 そんなにみんな甘味が好きなのか、と優莉は満足感でいっぱいになった。

 アイゲルも兵士たちが多少羽目を外すのを黙認する。誰にとってもこの昼食会が楽しく心に残るものであってもらいたいと思っていたのだから。もちろん、優莉の手を握ろうとする輩には制裁を加えていたが。

 賑やかで、楽しい時間はすぐに過ぎる。自分の食器は自分で片付けるのがこの砦の流儀らしい。幹部まで残らず後片付けさえも楽しんでやった。

 全ての宴が終わった後は、女性の中にはそっと涙する者もいる。明日には故郷に帰れるが、これまでと全く同じ生活が送れる事はないことを承知しているから。盗賊に攫われたというレッテルは、一生付きまとうのだろう。

 それでも女性たちは笑顔を見せる。優莉に勇気をもらったからと。

 しばらく女性たちは優莉と過ごし、いろいろな話をした。皆が、どこの村へ来ることがあっても歓迎すると請け負ってくれた。出会って一月ほどの期間だが、誰もが忘れがたい友達となったのだ。

 優莉は、全員の姿を見送って、彼女らの幸せを願った。

 余談だが、この中の数人が、砦で出会った兵士と結婚することになるのだが、それはまた別の話。

優莉の趣味は料理でした。

他の女性たちも、優莉の料理が好きでしたので、餞には良かったのかなと思います。

幸せって、意外なところに転がっているものですよね。

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