表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
やさしい魔女の眠る国  作者: niku9
穏やかな日々
37/61

ユーフォルト家の結界

ちょこちょこ出てきてはいましたが、何ぞや?という感じだった、ユーフォルト家の結界についての説明回です。

 ユーフォルト家の周りを覆う結界は、広範囲で強力なものだ。

 高価な魔石と凄腕の魔術師が複数人で張ったもので、これを単独で破れる者は、金竜と呼ばれる竜人族の王か、聖樹の守り手と呼ばれる南のエルフ王だけであろうと言われるほどのものだ。両人は、凄まじい魔力の持ち主で希代の大魔術師の代名詞と言っていい存在だ。

 言い方は大げさであるが、少なくとも雇われ魔法士風情が太刀打ちできるような代物でないことだけは確かだ。

 この結界は、主が認めていない者の侵入を拒むものだ。ここはユーフォルト家の所有する森の一部で、木材以外特に資源も無いためこのような結界を張ることを許された場所だった。

 結界を張った魔術師の一人にレティアの弟がいて、彼が「暁」と呼ばれる王宮付き魔術師団の副長を務めているために実現した結界であった。彼は、麗しい姉と、突然出来た姪っ子をこの上なく溺愛していたので、本来なら声を掛けられないような高名な魔術師にも協力を(無理やりに)求めたのだ。

 そもそもこの結界が張られたのは、ユーリが保護された後、黒竜が何度か目撃され、それが竜人であるのか邪竜であるのかの判断がつかない状態で、いよいよユーリの身の安全が重要になってきたことが原因だ。

 ユーリの容姿は、邪神を奉る邪神教にとっては、この上なく魅力的なものだ。黒い髪に黒い瞳は闇の愛し子と呼ばれ、闇の精霊が好む色であり、ひいては闇を好む邪神が降臨するのに適した器とされている。

 目撃された黒竜が邪竜ならば、邪神教の動きが活発になっている証拠であり、ユーリは隠さなければならない存在だった。その為、一時期ユーリは、この結界の中で軟禁状態にあった。

 邪竜は、竜族を呪法により黒竜化させたもので、その瞳は血のように紅いことで知られている。瘴気を纏い、生けるものを毒で冒し、邪神の眷属である死霊を生み出す元凶となるものだ。

 その後の調査で、目撃された黒竜は瞳が金であったとの証言と、目撃された範囲で死霊が確認されなかったことから、竜人の可能性が高いと判断され、ユーリの軟禁も解かれる次第となった。

 その頃リドワールは、西の辺境にいたためユーリの存在を知ることは無かった。黒竜の目撃だけで国全体を動かすことは出来ないので、ユーリのことは王都でも知る者はほんの一握りであったのだ。それは、王と宰相、騎士団長、魔術師団長、あとはユーリを最初に保護したアストラル砦の上層部だけだった。

 その時点でユーリは知らなかったが、瞳が金の黒竜は竜人である証のようだ。黒竜は野生の竜種では生まれないらしく、竜人族でも稀に生まれる希少種らしい。もっと早くにその特徴を言っておけば、この結界も無かったかもしれない。

 高名な魔術師様たちには申し訳ないが、こうしてリドワールを守ることができる盾となっているので、何とも複雑な結果オーライだった。

 竜人族は、エルフ以上に人間との接触を好まない一族で、国交を持つ国は現在一つも無かった。竜人族は山の種族と海の種族があり、山の種族は様々な貴石を、海の種族は真珠や珊瑚などの希少な宝石でわずかばかりの交易を行っており、他族との交流はほとんどこの交易だけと言っていい。時折、その凄まじい力を生かして傭兵となって里を出る者もいるが、そういう者はほとんど異端の扱いだという。

 ともかく、黒竜でも竜人であればそれは瑞兆と言われ、忌避するものではないことが分かったので、ユーリは街へも一人で繰り出せるようになったのだ。

 この世界では、闇の精霊は忌避の対象ではなく、光と対で語られる安らぎの象徴であった。その闇の精霊を象徴するのが黒である。邪神と結びつく心象もあるが、どちらかと言えば尊ばれる色彩なのだ。ただし魔物は例外で、魔物が纏う黒は闇というよりも瘴気の色である。すべての色が混じり合って凝った穢れとでもいうべきものだ。本質は全く違うのであるが、混同されることも少なくないのも現実である。

 また、ユーリは詳しいことを説明しなかったが、そのいくつかの言動から、リドワールがたどり着いたように、周りはユーリを「渡り人」であると結論付けた。色彩から「聖女」ではないかと思われたが、女神の祝福を受けていないようだったので、ただの渡り人ということに落ち着いた。女神の祝福とは、来訪時に必ず大神殿の特定の場所に降り立つことで、来光と呼ばれる光を纏うことからそう言われている。

 こうした希少さや事情があり、ユーフォルト家の周りの結界は張られた訳である。一国を脅かすような事態は起きなかったが、有事の為に結界はそのまま維持されている。それが今は役に立っているのは女神の采配なのか。

 リドワールの傷が癒える前にと放たれた刺客は、この結界に阻まれて粗方退けられた。

 結界は、接触した人間に害意があると自動的に死なない程度の攻撃で無力化し、害意が無ければ結界内に入れない壁になり、アラートのようなものでユーフォルト家の人間に知らせる。普段は家の中にある水晶で確認するが、リドワールが結界に引っかかった時に、たまたまユーリが近くを通りがかったので、直接確認して保護したのだ。

 何にしても、結界の恩恵で療養している間にリドワールは完治し、それを悟った雇い主は刺客を放つのを一時諦めたようだった。リドワールは、誰が放ったものかいくつか推測しているようだが、どれも決定的な物証がなく、決め手を欠いている状態らしい。

 恐らくというか、十中八九王族が絡んでいると思われるが、王族以外にもキナ臭い高位の貴族がいるようだった。

 ユーリにはよくわからないが、王族を裁くのには、例え現行犯であっても、複数の証拠の他、大法廷での直接審議が必要であり、相当な時間を要するようだ。いくら巡視官が裁判権を持つと言っても、王族には幾重にもそうした保護が掛けられる。それは、巡視官を使う時の王が、いつでも正しいとは限らないから。この一方的に断罪できないもどかしい制度は、互いの足の引っ張り合いで相打ちとなり、王の血統が途絶えてしまうことを回避するためだ。

 無論、疑いが晴れるまでは王族は軟禁され、証拠隠滅や逃走、支援者との接触を禁じるのだが、時間が経てば経つほど有利な証拠等が無くなる可能性もあるため、リドワールは慎重かつ迅速に物的証拠を集めているのだ。

 公儀とはいえ、リドワールの心中はどうなのだろう、とユーリは思う。

 仮に首謀者が王族だった場合、王族はリドワールの近しい血縁である。また、リドワールに命じた王においても直系傍系はあろうが更に近しい者を裁くのは、辛くはないのだろうか。

 部外者であるユーリに何を言う権利も無いが、出来れば少し気難しいけれど私心を持たないこの貴公子が、少しでも幸せになれればいいと思う。

レティアの弟ですが、ちょっとした一文にもかかわらず危ない臭いがします。間違いなく変態です。

もっと早くに出る予定だったんですが、真面目な話を書くと説明臭くなって、いろんな話が伸び伸びになってしまっているので、とりあえず説明回にぶち込んでおけとばかりに登場させました。


もう一つのほったらかし要素のファンタジーの代名詞である竜ですが、異世界へ転移した説明に便利に使われているだけでしたが、一応今後キーパーソン(キードラゴン?)としてご登場いただく予定ではあります。


まあ、出来るだけ頑張って早めに書きたいとは思ってます、はい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ