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やさしい魔女の眠る国  作者: niku9
聖女と騎士と
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リドワール 3

本日最後の投稿です。

 その茶会の後、どのように話しを取り付けたのか、リドワールを聖騎士にと、何度か似た要求が教団側から申し入れがあった。

 リドワールをその職に望んでいるのは聖女本人と、王と意見のぶつかる派閥からの意見であろう。リドワールは、政治的な発言をする立場ではないが、貴賤を問わずリドワールの高い人気は、王の大きな力となっているのだ。

 寄付と言う名の資金源である、ヴェルトルー公爵一派からそのように言われれば、教団としても意見を受け入れざるを得ないのだろう。

 リドワールは国の要職を担っており、王も要求を撥ねつけていたが、聖女はその優し気で無垢な容貌とは違い、なかなか引き下がる様子はなかった。

 そして満を持して教団側との会談が三日後に執り行われる段になったのだ。

 リドワールは、この国屈指の魔力と剣技を持っているため、自らを省みないのであれば街の一区画くらいなら楽に灰に出来る力がある。そのリドワールをもってしても抜け出すことが困難な場所での会談であり、故に王も気軽に連れて行くことが出来ないのだ。

 場所はこの大陸最大の神殿であり、常に礼拝者が日に数百と訪れる場所に隣接した王宮所有の庭園だった。下手に暴れでもしたら、大いに死傷者を出す羽目になる場所だ。リドワールが力ずくで解決できないよう、人の檻で周囲を固めるつもりなのだ。

 あちらは、既成事実を作ってでも、リドワールを王から引き剥がすつもりだろう。それを足掛かりに、教団は政治に口出しをしたいと考えているのだと思う。リドワール一人がそれほどの情勢を左右することはないが、要はリドワールの取り込みを足掛かりに、空いた穴に教団の意見が反映しやすい人員を執政に送り込むつもりなのだ。

「もうすぐ春の大祭であやつらも忙しいだろうに、勤勉なことだ」

 王は辟易してため息をつく。大祭は、春秋と年に二度あり、春は秋に比べて慎ましやかではあるが重要な祭事である。一年の実りを女神に祈る祭りで、国を挙げて春を祝うのだ。神殿が主催とはいえ、国側が何もしなくていいということはない。

 このような国にとってはどうでもいい(リドワールには一生を左右する問題だが)で、貴重な時間を割かれるのは痛恨の出来事だった。

「もう、面倒だ。そなた、あちらに行ってまいれ」

「……それは冗談でおっしゃっていると思っておきます」

 投げやりに王が言うので、リドワールは流して聞いておく。実際面倒な出来事ではあるが、王は決してリドワールを疎んではいない。これも、権謀術数のうちの一つで、どこで足元を掬われるか無数にある取っ掛かりの一つにすぎなかった。

 それなので、リドワールも卑屈にならずに王を支えることが出来るのだ。

 王には恩義がある。この身に流れる血のせいで行き場のなかったこの力をふるう場所を与えてくれた。それだけで、王の為に命を懸けるのに他に理由はいらなかった。

 王が必要を感じ、それを命じれば、例え死ぬほど嫌だとしても、リドワールは先ほど王が言ったように教団側へ身を投じることも厭わないが、今のところそれほどの価値は教団側になかった。

 もし、これ以上王の手を煩わせるような事態になれば、リドワールは王宮から身を引いても何ら痛痒を受けない。むしろせいせいするくらいだろう。

「ベルホルトが外交に出ている時期を狙われたな」

 ベルホルトはウィルフレームの長子で、父親の聡明さを余すところなく受け継いでおり、王太子として申し分のない青年だった。リドワールの二つ年上で、北のホルム帝国の皇女であるヴァレーリヤを妻に迎えており、既に二人の子を設けている。本人は、誰に似たのか穏やかな性格であるが、物静かなだけに怒らせると非常に怖い人物だった。

 古い王族の血を引くギーレン公爵家の息女のフレデリカを母に持ち、ウィルフレームの最初の妻であり第一王妃であったので、ベルホルトは誰もが異を挟むことが出来ない王太子なのである。第一王妃は残念ながら病でこの世を去っているが、その聡明さの薫陶を受けた貴婦人は多いという。

 そんな大らかな血筋ゆえか、王族の中でもリドワールを擁護してくれる奇特な人で、長女のベアトリーゼは天使のように愛らしく、王と共に身を捧げるに値する一家であった。

 現在妻の生国であるホルムへ外交で出ており、ベルホルトが国内にいたのなら、エルマーの行動を抑制してくれていたに違いなく、ここまでこじれた話にならずに済んだかもしれなかった。

 今更言っても栓無き事だが、ベルホルトの不在はヴェルトルー公爵派としては良い波であったようだ。

「いっそ、エルマーを外遊に出してしまえば良かったか」

 そう王は呟くが、エルマーはヴェルトルー公爵の初の男子の孫ということで、それはいたく大切に育てられ、国政を任せるにはいささか頼りない性格であった。能力も、王太子やリドワールと比較してしまうと、平凡の一言に尽き、そのことが余計にヴェルトルー公爵派からリドワールが嫌われる所以であった。歳が近いものだから、尚更その差が如実に見えてしまうのだ。

 ふと、王が何かを思いついたのか、「外に出す、か」と独り言を言い出す。

 そして数舜何かを考え込んだかと思うと、突如楽し気な笑みを浮かべた。

 リドワールには少しも良いことが起こるとは思えなかった。

「そなた、王宮の外へ出てみぬか?」

王様は良からぬことを思いついたようで。


いつまでも動かないつもりか、リドワール。

このままでは、王様とキャッキャウフフしてしまう……。


というわけで、次話は旅立つ……のでしょうか?


閲覧ありがとうございました。

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