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やさしい魔女の眠る国  作者: niku9
聖女と騎士と
10/61

リドワール 1

誤字の訂正をしました。

話自体に変更はありません。

 リドワールは、幼い頃より孤独を囲ってきた。

 リドワールは、優れた身体能力と魔力を持ち、剣技でも国の五指に入ると言われている。そのため、身分も能力も求められる近衛騎士の副長を務めている。

 現王のすぐ下の弟の長子で、父は公爵、自身も侯爵位に封じられていた。

 何故、長子なのに侯爵に叙爵されているのか。リドワールは長子であるのに公爵家を継げない。それはその身の半分に他種族であるエルフの血を引いていたからだ。

 父であるアルフレール公爵ユリウスは、現王ウィルフレームの同腹の弟で、王子だった時に、エルフの領域に侵攻した魔族を撃退した戦功として、エルフ族の末の姫を妻に所望した。それは情熱的な恋愛の末の婚姻ではなく、時の王であるユリウスの父王が、エルフ領の豊かな森を得るための布石として、王命により結ばせたものだった。

 王太子である兄のウィルフレームは既に妻と子がいて、弟はまだ十五になったばかりだったので、都合の良い年齢の王族男子はユリウスだけだったのだ。

 婚姻と併せて公爵に叙された際、ユリウスは二十歳、エルフの姫アールスウェンは十八歳だった。

 それでもユリウスは妻を粗雑には扱わなかったし、姫も夫を蔑ろにすることはなかった。夫婦仲は傍目には少々淡白に映っていたのだが、やがて姫は一人の男児を産み落とす。

 しかし、どれだけ大切に扱おうが、政略結婚では種族の違いの溝を埋めることはできなかったと聞く。公爵はいつしか王の舅の一族の女性を傍に置くようになるが、姫の立場を思って女性との仲が進展することはなかった。

 しかし、そんな中、姫は病を患い急逝した。

 長命で魔力豊富なエルフが病で無くなることは珍しくはあった。一部では、ユリウスの想い人が公爵との婚姻を実現するため、姫をその手に掛けたのではという噂までたった。リドワールは、その時はまだ七つで、それが真実であったかは分からないが、その女性から執拗な嫌がらせを受けていたのは事実だ。もはや人の記憶にはその醜聞しか残っていないが、父はそれを否定することも肯定することもなく、リドワールはただその背を見つめるしかなかった。

 だが、このことに激怒したエルフ族は、人族の国であるエルミナ国との絶縁を言い渡す。また、その罪深き人族の血を引く子であるリドワールもエルフ族から拒絶された。

 次いで、エルミナ国が欲していたエルフ領の深き森は、人族が住むことで森の加護が失われることが分かり、両族の懸け橋となるべく育ったリドワールは周囲が言葉には出さずとも不要とみなされた扱いを受け、人族からもひどく浮いた存在となってしまっていた。

 父である公爵は、母親のエルフ姫の喪が明けると、かねてより懇意であったとされる例の女性と結ばれ、その子を成すと少しずつリドワールから離れていった。そのことが後妻となった公爵夫人の陰湿な迫害を助長した。

 後で知ったことだが、元々父の婚約者であった夫人は、母のせいで婚約が破棄され、しばらく日陰の身を囲っていたせいか、母を強く憎んでおり、それは幼いリドワールにも向けられたのである。

 何とか幼い心を守っていたのは、献身的な乳母と家令のお陰であったが、身の置き所のない心細さと、謂れのない誹謗中傷はリドワールの心に陰を落とした。貴族の中でも、それは公然の秘密であり、根も葉もない噂も助長して、長らく好奇の目で見られていた。

 リドワールは長ずるにつれ、その身には混血ならではの異能が現れるようになった。生まれた時から精霊に愛され、エルフしか持たない植物を操る魔術が使え、夜闇の中でも昼のように行動できる目を持っていた。聴力も並外れており、音だけでどこにどれだけの人間がいるのかを聞き分けられるほどだった。

 また、混血である異質さは、その容姿にも現れていた。混血には両方の美点を受け継ぎ、往々にして美しい者が生まれるものだが、エルミナ国最高の戦士でエルフ王にも容姿を讃えられた父と、「夕星(ゆうづつ)の君」と呼ばれるほど美しかったエルフの母を持つリドワールは、誰もがため息をつくほどの美貌を備えていた。

 その金糸のような淡い金髪と、春の草原のような新緑の瞳は、常に光を纏っているようで、いつからか「光の貴公子」と呼ばれるようになり、男女問わず多くの人間を魅了し、更に王宮や社交界では注目を集めるようになった。。

 リドワールは年頃になると、奇異の目に晒され身の置き場のない王宮を脱して、騎士として鍛錬を積み、公爵家の人間としてはあまり例のないことであるが、一騎士として辺境騎士団へ志願したのである。周囲の反対もあり、騎士団でも浮いた存在となったが、実力で騎士の階級を上げ、そこではささやかな居場所を得るに至った。

 その反発はリドワールの祖父王の勘気に触れ、リドワールの扱いに頭を悩ませていた祖父王は、公爵家の跡取りを弟へと譲るように命じた。

 かねてよりの確執もあり、リドワールは喜んで王位継承権と共に公爵子息の身分を手放し、王家との決別を申し出た。

 しかし、リドワールは野に下るには、血統も出自も容姿も特殊過ぎたのだ。

 国内外の外聞を気にした祖父王は、リドワールへは政治的地位も領地も無い一代限りの名誉爵と呼ばれる名ばかりの爵位と、王都の郊外に邸宅を与え、半端にリドワールを囲ってその名声を利用することにしたのだ。

 名誉爵は通常男爵、もしくは子爵、騎士爵などで下位の爵位しかないが、リドワールの身柄を利用するために、特例で高位の爵位である侯爵位の名誉爵に封じたのだ。侯爵位であれば将軍職も賜れる地位であり、悲劇の貴公子という風聞で民に人気のあったリドワールを、いつでも利用できるようにと。

 リドワールにとっては、地位など煩わしいだけのものであったが、自分の存在が何かしらの火種になることを避けるため、勝手に自らの生を左右する祖父王に怒りを覚えながらも、唯々諾々とそれを受け入れた。騒乱は望むものではないし、僅かでも公爵家を離れられることは喜ばしいことでもあったからだ。

 やがて、その無欲な行動や父親譲りの戦績は、その容姿と相まって多くの者の関心を買い、名を上げていったが、自分の思うままにならないことに業を煮やす祖父王には、相も変わらず冷遇されて、王宮では不遇を囲っていた。

 その傲慢な祖父王も寿命には勝てず、とうとうこの世を去った。それが五年前のことである。

 代替わりしユリウスの兄である王太子ウィルフレームが王となった際、リドワールは近衛騎士に引き抜かれることになった。賢君であるが冷徹だと言われる王も、父王が弟に負わせた命と、そこから孤立することになった甥を気に掛けていたのだ。

 ようやく居場所を掴んだリドワールであったが、王宮に詰めるようになると、今度は年頃の娘たちがこぞって熱を上げるようになり、その親たちも参戦し、それまで祖父王を憚って遠巻きにしていたリドワールを巡って争いが起きた。

 リドワールの血統と容姿、財産はどれも魅力に溢れていたし、祖父王の崩御で爵位の回復もあり得ないことではなくなったからだ。もっともリドワールは、公爵家を継ぐ気はさらさらなかったが。

 そうして、他人から自分の生を弄ばれてきたリドワールは、自分の心を殺すことで静かに生きてきたのだ。

リドワールという名は、エルフの古い言葉で「明けの明星」という意味です。

母のアールスウェンは、「高貴な白い花」という意味ですが、別名を「夕星の君」と呼ばれていて、「宵の明星」の意味です。2人とも美しい星の名を冠しています。

夜から黎明へ変化することから、リドワールはアールスウェンから命を繋ぐ者という意味も込められています。

意味を知る者にとっては、とても愛情深い名前なのです。

さて、誰が付けた名前なのでしょうか。


誤字の箇所は母の別名でした。夕月って打ってました。

「夕星」が正しいです。

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