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第四章 戦闘その3

第四章 戦闘その3





 アレは相当怒っているな。ブチギレっていうのはああいうことを言うのだろう。

 アザゼルは両腕を高く上げて吠えている。抑えられない激情を体全部で表しているかのようだ。アレはヤバいぞ!

 だが!

 直後に真横から超高速で飛来した白色の物体がアザゼルを直撃し、彼はその衝撃で風切り音と共にあっという間に飛ばされ、はるか彼方まで行ってしまった。マジか!?

 つまり物理で習った衝突玉の運動量の移動原理だ。当てられた方は当たってきた方のパワーとスピードを受け継いでしまった。いや、でも仮にそうだとしてあのアザゼルが当たり負けしてピンポン玉のように軽々と吹っ飛ばされるというのは一体どんな兵器だよ!?


「多分、希ですよ。他に考えられません」


 その衝撃映像を共に見ていたアモンが分析した。なるほど、それならわかるかも。それにしたって信じがたい能力だ。アザゼルも希もオレは真の実力を全く知らないが、体格差だけで判断しても物理法則ガン無視レベルだ。

 希と思しき白い物体は一旦、その場に浮いていたものの、すぐさまアザゼルを追うべく弾丸加速でぶっ飛んで行った。

「アモン、肝心の親父さんはどこに居る?」

「……さあ。あぶりだしますか。他に生物もいませんし」

「え?」

「部田さん、ドラゴンに周辺一帯を焼いてしまうよう命令してください」

「え? そんなことして大丈夫なのか?」

 アモンらしからぬ随分と過激なやり方だ。

「相手は魔王です。これぐらいなんでもありませんよ」

「そうか、わかった」

 オレは離陸に備えている地下鉄に数歩近づいて命じた。

「地下鉄、焼き尽くせ」

 オレ、悪魔のようなセリフを吐いているな。

「ぐぉー」

 地下鉄は一気に高度数十メートルまで上昇、大きな口から猛火を吐きながら飛び回り、辺り一面を瞬時に火の海にしてしまった。こんなに火を放ってしまうと……

「間違いなく大爆発ですね」

 アモンはか~るく言っているが、あのタンクって石油が満載なんじゃ……

 と他人事のように思ったそばから――

 その音は――すぐ近くで落雷があったのかと思う重低音だった。

 火柱は数本。それより中心部でオレンジ色のきのこ雲が二段になって上昇、肥大化していった。


「なんでだー!!」


 きのこ雲の中から巨大化したドワーフのような男が飛び出してきた。あのシルエットは……


「ワシはここまでしとらんじゃろー!!」


 アモンの思惑通りあぶりだされたというか、いぶされたというか……

 大げさな甲冑を身にまとい、大げさな斧を担ぎ、顔がすすで真っ黒なので、ホントにドワーフのようだがサイズがね、あれだけデカいと可愛くない。ま、それは良いとしてアザゼルと同じく地響きを立てて我々の目の前で着地した魔王。登場シーンだけ考えるとアザゼルとそっくりでまるで仲良しじゃんか。

「何を言っているんです? 宣戦布告はそちらからではありませんか? それに貴方が送り込こんだ連中はそれなりに殺気をもって乗り込んで来ましたけどね」

 アモンは冷たく言い放つ。ま、でも確かにその通りだな。

「ぐぬぬぬ……」

「貴方に付いた皆さんはどうされたんです?」

「やかましい!」

 魔王は斧を頭上でグリングリン回しながらアモンに突っ込んできた。アレを食らったら千年杉も一発で切り倒されそうだ。

 アモンは大きく宙に飛び魔王が持つ斧の握り部分に蹴りを入れた。その一撃で魔王は斧をポロリと落としてしまった。

 まさかまさかの肉弾戦?

 さらにアモンはそのまま魔王の首を対面位置から小脇にガッチリ抱えるようにホールド。そして自分の体を相手の背後に旋回させてからそのまま着地。地面に頭から杭打ち状態になった魔王は予期せぬ方向へ回転させられた勢いの反動で自らの頭部を軸線にして半回転してから仰向けでバッタリと倒れた。彼はかなり首をひねられた上に着地の衝撃も加わったはずだ。

 魔王はピクリとも動かない。まさか……

「いえ、さすがに物理攻撃一回だけでは」

 オレの想像をアモンは即座に打ち消した。そりゃそうだな、いくら何でもアレだけでは。

「しっかし、それってプロレスじゃねえの?」

「はあ、ま、妹とポセイドンが人間界と深くかかわるようになって良く観ていたようでしたので……」

 なんとまあ、壮絶な魔力攻撃が飛び交うと思いきや。

「これ以上邪気でこの世界を汚染させるのはどうかとも思いましたし」

 アモンは周囲に気を遣ったような口ぶりだが、この火炎地獄はどう説明する? もう元には戻らんだろ?


「は~い! お待たせ~」


 上空からバブリーボンデージのアテナが降りてきた。ドラゴンは使わず己の魔術で飛んできたのだろう。

「おう、アテナ!」

「あら、決着ついちゃった?」

「う~ん、なんかそれっぽいけど違う気もするんだな」

 一回首を決められたプロレス技だけで魔王がKOということはないだろうから、どうもはっきりしない返答をしてしまった。

「まっ、いいわ~ とにかく消火ね~、メリアちゃん~」

「え?」

 見上げるとメリアが翼を広げながら佇んでいる。合掌しているようにも見えるが、まさかお祈りってわけでもないだろう。

 どこから現れたのか大量の水が超ド級サイズの透明な立方体容器に入っているかのように宙に浮いている。この辺り一帯を覆うほどのそれはゆっくりと下降し、空中で激しく回転し始めた。この洗濯機のような水流は……

 そうだ、精霊界からメリアに勝手に会いに来た人参みたいなヤツが突如発火して辺りが火事になった時もこういう魔法で消火したのがアテナだった。だが今回は規模が違う。ダンチだ! ドデカホーンだ!

「あ、そうか。だからメリアの力も借りているのか」

 うっかり声に出してしまった。数百メートルなのかキロなのか知らないが、この海浜地帯はドラゴンによって火の海だ。これだけの範囲を一気に消火するためにアテナとメリアが力を合わせたのだろう。

 こうして災害級集中豪雨を浴びた石油コンビナート地帯は程なくして完全に鎮火した。

 遠くから戦闘機の爆音が近づいてくる――

 違った。希だった。彼女はファイヤーマンズキャリーの体勢で何か担いでいるようだが……

 希はオレ達が集まっている上空までやってくると上からその荷物らしきものをぶん投げた。それはかなり重量物のようで猛烈な速さで降下し、ドスンとけたたましい音とともに地面に刺さるように落ちた。

 恐る恐る近づいてみるとそれは白目をむいたアザゼルだった。コイツも何の力を使うことなく一発ド突かれて終わったか。少し可哀想だな。

 希はゆっくりと降り立った。珍しく天使らしいと感じた。

「すまない。幹部はコイツしかやっつけられなかった」

 アモンに報告する希。相変わらず態度がデカいが、功績からすると当然だ。今回だけはオレが許す。それはそうと結局偉いヤツはこの二人だけでリリスとかベルゼブブとかあと、裏切り者のスケベが二人いたはずだがなんで出てこなかったんだ?

 魔王はまだ仰向けになったまま起き上がろうとしない。コイツも何をやっているんだ。

「魔王、今度こそきちんと私と向き合ってください。沢山の案件について話したいことがあるんです」

 アモンは魔王の脇にそっと腰を下ろした。

「……だ?」

「は? 何ですか?」

 魔王はアモンに何か言っているようだが、オレは勿論のこと間近にいるアモンにも聞こえないようだ。

「なぜ、お前には大勢仲間が居るのだ? ワシにはアザゼルしかおらん。皆、裏切りよった」

「……さあ。皆に訊いて下さい」

 アモンは立ち上がるとオレの方へやってくる。

「さ、ここを直して一旦、引きあげましょう」

 アモンは再びオレに背を向けて両手を上に広げて目を閉じた。すると焼け焦げたタンクや鉄塔、煙突、パイプ等が宙に浮かびながら元の形を取り戻し始めた。そして原型を完全に形成したものから元の位置に次々と再構築された。

 しばらくその異能力建築に見惚れていたが、あらかた片が付くとアモンは大きく息を吐いた。

「さすがに魔力の消耗が激しいです」

 疲れを隠せないアモン。凄いやつだよ、お前。

「おーい、地下鉄! どこ行った?」

 地下鉄は上空にはいない。四方八方見渡すと……なんだ、すぐ後ろでちゃんと待っていた。出来過ぎた龍だぞ。

「ぐぉー」

「アモンも乗っけてくいくぞ。帰りはそーっと飛べよ!」

「ぐぉー」

 アモンは体力の限界だ。とにかく一旦、皆で帰ろう。おっさん悪魔の二人は放置でいいや。面倒見切れん。

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