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第四章 戦闘その2

第四章 戦闘その2




 ゴブリンの侵入はようやく止まった。オレ達はつかのまの休憩を取っている。さすがに少しは疲れたのか皆、床に直で座っている。

「これじゃあ、今までとさほど変わっていないんじゃあねえか、兄貴?」

「……そうだな」

 エキドナとアモンが何やら二人で話し込んでいる。今の戦局についてのようだが、確かに絶え間なく相手側からの攻撃はつづいているものの、単発が多い。

「兄貴、こっちも希を送り込んではいるけど、それっきりだ。そろそろ仕掛けてもいいんじゃないのか?」

「……じゃあ、ゴーレムとドラゴンを使おう。エキドナ頼む」

「おう……ん、待てよ。アテナとメリアが居るんだし……」

「兄貴、ゴーレムは一度にどれだけ出せる?」

「最多で五体くらいなら」

「おっし。ドラゴンは?」

「最大級のズメイ、ズマイ、ズミーを一体ずつ」

「よし、それでいいや。アテナ、メリア、これだけの数を動かすとなるとかなりの魔力が必要だ。協力してくれ」


「かしこまり~」

「はい、わかりました」


 友情っていいね……いや、感心している場合ではない!

「お、オレも! 何かやらしてくれ!」

 このまま皆の足を引っ張っているだけなんて御免だ。オレも戦力になりたい一心で立ち上がって挙手した。

「あっ!!」

 皆が注目した瞬間、またオレの腰のタオルがはらりと下に落ちた。

 室内が葬式のように静まり返った。

「兄貴!! ブタのパンツとズボン、何とかならねえのか!? こんなコントまがいのことをやってる場合じゃねえ!! ブタもブタだ! やらしてくれって何をやるつもりだ! この完全最終変態!」

「く、くそ!!」

 エキドナは怒り心頭だが、それ以上に不本意なのは他ならぬオレ自身だ。両手で股間を押さえたものの、これで合計何回ご開帳してしまったのだろうか。屈辱だ。

「ゲートを使えばなんてことないが、今はその力も温存したいところだ……では部田さん、宜しければ私が着用しているもののスペアでも良いでしょうか? ……」

「おお、助かる。十分だ」

 アモンは自分の制服の替えがあるらしく、ロッカーから持ってきてくれた。

「どうぞ」

「恩に着る」

 直ばきになってしまうが今より千倍マシだ。早速履こう。

「うむむむむ」

 アモンはスリムなので少々……というかかなりきついが、まあなんとか履けた。しかしピッチピチで太ももや股が食い込む。だが、学生服は強度が高い。ウエストも大丈夫そうだしイケるだろう。

「では、屋上に」

 アモンがワントーン落とした口調でオレ達の行動を促した。でも屋上って?



 階段を一段上がるごとに地鳴りのような音と野太い咆哮が聞こえ始めた。確実に何か居る。

 塔屋と呼ばれる屋上出入り口のところまで来るとそれはハッキリとわかった。

「まさかこれがドラゴン? こんなにデカいの?」

 ウチの屋上はサッカーコート一面くらいの大きさがあるにもかかわらず、たった三体でもうギュウギュウ。みんな箱座りして大人しくしている。


「よ~し! んじゃ、私ら三人は一緒に乗るぜ」


 エキドナが勢いよく走り出し、早速皮膚が少し青っぽいドラゴンの背に乗った。アテナとメリアも続いて搭乗(?)し、あっという間にテイクオフ。

「アレがズメイというドラゴンですよ、部田さん」

「お、おう、そうか」

 アモンは見慣れているのだろうけどオレはゲームとアニメでしか見たことないし、それに出て来るヤツもあれほど巨大ではなかった。

「私はズマイに乗ります。一番機動力がありますので。部田さんは最も火力の強いズミーに乗って下さい。一人で心細いかもしれませんので、サポートを付けます」

 この三体のドラゴンの名前は覚えにくいな。とりあえずオレが世話になるのはズミーか。……ん、サポート?


「宜しくお願いします、ブタ」

「おお!! びっくりした。 マドゥーサじゃんか! いいのか、オレでも?」

「エキドナ様からの命令ですからお気になさらないでください、ブタ」


 マドゥーサは何故かウチの制服姿でオレの眼前に突如出現した。よくわからんが魔界人達の制服着用率が高い。

「マドゥーサ、以前お前はエキドナだけでなく王とその側近にはかなわないと言っていたのに大丈夫か?」

「エキドナ様のために全力を尽くすのみです、ブタ」

「そ、そうか。じゃあ、頼む」

「お任せください、ブタ」

 表情を変えずに淡々とオレと問答をするマドゥーサだったが、オレがとぼとぼ歩いてドラゴンに乗るとすぐさま後ろに乗った。

「よ~し、じゃ、行くぞ! ……えっと、……えっと『マズイ』だっけ? 『墨』だっけ? ……墨だな、墨! いくぞ墨!」

 墨は重低音の声で短く答えた。きっとこれが返事なのだろうが、オレには地下鉄がホームに入ってきた音を遠くで聞いている感じがする。

「よし! 墨! お前は今から『地下鉄』に名前を変えるぞ! いいか、地下鉄!」

「ぐぉーん」

 出発だ。武者震いがするぜ。

 ところでどこに行けばいいんだ?



 場所は知らんがアモンは飛び立ってしまったんで、オレは付いていくしかない。ちらりと後方を見たら、麗と知床が元の姿に戻って手を振っていた。

「地下鉄、急げ! アモンに追い付け!」

「ぐぉーん」

 地下鉄は力強く羽ばたき、アモンが乗っている『まずい』じゃなくて『ズマイ』のすぐ後ろの位置に着いた。後ろを見るとマドゥーサが相変わらずの鉄仮面ぶりで感情が全く読めない。

 今度は前方を見ると遠くにもう一体のドラゴンが見える。さらに目を凝らすとそのドラゴンの背に人が立っているのが確認できた。シルエット的にエキドナではないだろうか。

「お~い! アモン! エキドナは何をやっているんだ~?」

 オレは地下鉄の手綱を引いてアモンの横に並んでから、エキドナの行動の謎を訊いた。

「魔力消耗が激しいから一緒にやるつもりだったのですが、恐らくゴーレムを動かすつもりでしょう!」

 強風の影響で目を細めながら返答するアモン。

「ゴーレムってなにー!?」

「大きな泥人形です!」

 やはりそうか。本当にあるんだな、ゴーレム。オレはハーレムの方が好きだけど。

「魔王の拠点ってどこなんだー!?」

 仕方のないことだが、いちいち大声を出すのが面倒だ。

「この先に工業地帯があります。そこに陣取っているようです!」

「わかったー!」

 とは言ったもののオレの知識に間違いなければまだ海浜地帯まで何十キロもあるぞ? あの隕石みたいな波状攻撃はそんな遠くから飛ばしていたのか?

「部田さーん! 少し加速します!」

「オッケー、アモン!」

 眼下には街並みが続いているものの、魔界に侵食されているこの世界ではゴーストタウンだし、紫太陽で色もくすんで見えるため、無機質な感じで模型のようだ。

 かなりの距離があったはずだが、少し磯の香りがしてきた。海が近いのだろう。

「部田さん、高度を下げてください!」

「おう!」 

 地上に少しずつ近づいていくと煙突や鉄塔、コンビナートに混じって少しだけ丸っこい人型の大型建造物らしきものがいくつも見えた。え、あれってもしかして……

「既にゴーレムが暴れています!」

 アモンが解説してくれた。アレがそうなのか。

 まずその大きさだ。建造物と間違えたくらいだ。鉄塔並みの高さで腕と足が胴に比べ異様な太さをしている。泥人形ということらしいが、ここからだと色とか質はあまりよくわからない。そんな怪物が五体……

 引き続き注視していると、あの体で時々跳躍しているが、アレは準備体操か? んなことあるわけないか。

 さらに地上数メートルまで下降してわかったが、足元にまとわりついているゴブリンを踏みつけているのだった。しかも腕もぶん回したりして鉄塔もたくさん倒している。損害額を考えると同情する。

「部田さん! 降りましょう!」

「お? おお!」

 少し開けた芝生の土地があったので、アモンとオレというか二体のドラゴンは着地した。

 オレ専用(一時的)ドラゴンの『地下鉄』は校舎の屋上の時とは違って羽を広げたまま待機している。彼らもわかっているのだろうな。大したもんだ。

 前方数十メートル先ではゴーレム共がとにかくぶっ壊し、踏みつけまくっている。特撮ドラマやゲームなら完全に敵の振舞だ。一方、上空ではエキドナ達を載せていたドラゴンがくるくると旋回して飛んでいる。何をやっているんだ? 

 オレが周辺の光景に呆けてフラフラと前に歩き出すと、いきなり後ろから裸締め(スリーパーホールドでも可)を食らって腰砕けになった。

「危ないです、ブタ」

 オレに危険すぎる足止めをしたのはマドゥーサだった。

「うぇほほほ! な、何をすんだ! 落ちるとこだったぞ!」

「あれです、ブタ」

 マドゥーサが指を差した方向にさっきのドラゴンが地上に向かって火を吹いていた。オレはあれほどの業火を見たことがない。一番近い表現はダムの放水だろう。あれは水だが、それを火に置き換えればまあまあ当てはまるのではないだろうか。

 もはや周囲は火の海でその中をゴーレムが暴れ、まさに地獄絵図だ。魔界の本気とはさも恐ろしきことかな。



「調子に……のるなー!!」



 どこからともなく怒声が聞こえた。

 いいや、一方向からではない。だが全方位的に響く人声など存在しない。

 オレの立ち位置から十時の方向で数百メートル以上離れた場所、そこにひと際大きな大型石油タンクがあるが、それがいきなり爆発した。きっとゴーレムが叩き壊したかドラゴンの火炎によるものだと思ったが……

 違った。燃え盛るタンクの中から信じがたい速さと飛距離をもって何かしらの物体が飛び出してきた。

 ソレはミサイルかと錯覚するほどだったが、結局鉄球が放物線を描くがごとく地響きを立てながら着地した。こちらとの距離はだいぶ縮まり百メートルほどになった。

 その正体……あのアダルト男優かはたまたボディービルダーかと思わせる鋼の肉体と海外の山岳地帯に生息しているUMAのような体のサイズ――


「王子ィィー! やり過ぎだー!!」


 あ、やっぱしアザゼル。〇ョジョみたいだぞ。

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