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第二章 停戦協議その2

第二章 停戦協議その2







 オレとアモンは教室に戻った。そこにはプリンスアモン側メンバーに加えて明日太郎もなぜか居た。

「まあ、取り敢えず掛けましょう」

 オレはアモンに促され、適当に近くの席に着いた。

「部田さん、改めて今日は無駄足になってしまい、本当にすみませんでした」

 アモンはわざわざオレの前に立ち、頭を下げた。

「いや、どう考えてもアモンのせいではないだろ。向こうの親玉と側近が勝手に席から離れてじゃれ合ってたせいだろ?」

「まあ、そうなんですが」

「アイツ等、今日という日の意味がわかってんのか?」

 オレ自身はそれほど腹は立っていないが、アレではアモンが可哀想だ。しかも父親だろ?


「ブタ、あれは親父の常とう手段なんだよ」

 オレが憤っていると脇からオレ達の方へ寄ってきたエキドナが返答した。

「何がだ?」

「親父は兄貴と真正面から話をしたくないんだよ。口では勝てないから。だからアザゼルを挑発して場を壊した」

「なんだ、そりゃあ?」

「次も恐らく似たような手口で来るぞ」

「はあ? アホくさ」

 全く呆れた話である。息子の弁が立つからと言って逃げ回り、そのせいでいつまでも戦闘行為が止まない。魔王の罪は重いと言えよう。

「エキドナ、何か打つ手はないのか?」

「それについて魔王側のベルゼブブと中座して話をしていたんだよ。アイツはアザゼルに出席させないようにするのが一番簡単な方法だと言っていたな。だが簡単じゃねえ。アザゼルも絶対出たがるし、魔王も出させるだろうしな。ったく、ろくでもねえ」

 エキドナは大きなため息をついた。

「なあ、アザゼルは魔王が話し合いを避けようとしていることに気付いているのか?」

「いや、そんな細かいことを読めるタマじゃねえ。ド単細胞野郎だよ。頭の中が筋肉で出来ているような馬鹿だ」

「じゃあ、駄目だな」

 オレは少し考えた。ベルゼブブと明日太郎はもう停戦していいと思っているだろう。そんでリリスもドエロ……じゃなくて戦うことを良しとしていない。じゃ、あとはあの大男二人だけなのだ。アイツ等を止められれば……


「なんや、テメエは? どっから湧いたんじゃ、クソボケが!?」

「お前こそ、何だ!」


 ん? 教室の隅で女の声で言い争っているようだが……

 声のする方向へ視線を移すと希と明日太郎がもめていた。明日太郎はオレと初対面の際にいきなり食って掛かって来たが、アレと全く一緒だった。希も思い出せばああいう上からの物言いは初めて会った時があんな感じだった。恐らく良く知らないヤツには二人ともああいう不遜な態度をとるのがデフォなんだろう。……アホだな。


「おいおい、やめとけ! 二人には言ったよな? 紹介したいヤツが居る。友達になれそうなヤツがいるって。それがお前たちの前に居る人物だ」

 オレは仕方なしに立ち上がって彼女たちの前まで小走りして仲裁に入った。

「「え?」」

 二人のリアクションが双子のようにピッタリ一致した。お互いに顔を見合わせた後、くるりと首を回してオレを見た。

「そもそも何でこうなった? 何が原因だ?」

「「コイツが!」」

 またユニゾった。これはこれですげえ。

「わかった。まず希! 君から言いたまえ」

「コイツが、『誰や、おまえ』って言ってきたから、先に自分から名乗れって言ったら胸倉掴んできた」

「ふんふん。では明日太郎」

「名前を聞いただけなのに偉そうに威張り散らしてきたからムカッとした」

「ふんふん。よし、まず希。制服が上に引っ張られたせいでパンチラしてる。明日太郎もファスナーが下がってパイチラしてるからまずそれを正せ」

「「え!?」」

 二人は慌ててお互いから離れ、服装の乱れをチェックしているが……

「部田! 別に問題ないぞ!」

「人間! 私もだ。上は乱れていたが、下は平気だ!」

 二人からクレームを受けたが、そりゃそうだ――

「そうだよ。取っ組み合いをやめさせるために嘘を言ったんだ。さっきの魔王とアザゼルでそういうのは飽き飽きだからな」

「……」

「ま、そういうことだから仲良くしろ。二人は結構ウマが合うと思うぞ」

 オレは沈黙している希と明日太郎にそう伝えるとすぐにまた元の椅子に着席した。アモンとエキドナもそのままの位置に居たのでオレは前置きなしであるアイデアを披露することにした。これは希と明日太郎の功績だ。

「さて、アモン」

「何でしょうか?」

「相手がふざけた方法で来るなら、こちらも少し奇をてらった方法でいかないか?」

「と仰いますと?」

「冥界から王のハーデスと娘のシーリーを呼びたい。ハーデスは娘のボディーガード役だ。シーリーの方は少し条件があってそれは天界の協力が必要だ。それと希なんだが、次は遠慮なくあの馬鹿力を発揮させよう」

「私には話が見えないのですが……」

「すまんな。詳しく話すと長くなりそうだし、関係各位の反対にあいそうだ。しばらく伏せておいてもいいか?」

「……わかりました。部田さんを信じましょう」

「よし、ハガイ!」

 ハガイは窓際でまどろんでいた。

「ハガイ! 寝てんじゃねえ。仕事だ」

「え~?」

 授業をまともに聞いていない生徒が先生に指されたかのように間延びした返事と共にこちらを向くハガイ。

「次の連中達との会議の前に冥王ハーデスとシーリーを呼びたいのだが、問題はシーリーだ。今のシーリーでは困る。オレのよく知っているあの変なラーニングテキストで言葉がちょっとおぼつかないシーリーが良いんだ。なんとかならないか?」

 ハガイがダレているので、オレの方からヤツの机まで近づいた。面倒くさい。

「あ~そうですねえ。どこかに存在しているはずですから探してみるしかないですかね」

「じゃあ、やってくれ。すぐに」

「無茶言いますね、部田さん。世界線は無数なんですよ。消えてしまったものもあるんですから結果は保証しかねます」

「四の五の言うな。最優先事案なのだろう? それともオレがさやか先生に直接頼んでもいいが」

「い、いえ! 私がやりますから、少しだけお待ちください。すみませんが、少しの間外します」

「おう」

 ハガイのヤツ、ただ眠くて煩わしかっただけに違いない。さやか先生の名前を出した途端アレだからな。あっという間にアクションを起こして消えやがった。

「ブタ」

「おうエキドナ」

 ハガイを見送った直後にオレを呼んだのはエキドナ。ただ、オレはブタではない、部田だ。

「大丈夫なのか?」

「絶対とは言い切れないが、向こうの好き勝手にさせない自信はあるかな」

「?」

「ただ、ちょっと乱暴なやり方かもしれないがああいうちゃんと席に着かないヤツらには別にいいと思う」

「良くわからないが、お前がそこまで言うなら当てにする。人間ならではの斬新なやり方をみせてもらおう」

 



 二日後の朝。それまでやることがなくて困っていたオレは希や明日太郎にちょっかいを出して暇つぶしをしていたが――

「お待たせしました」

 ハガイが教室にやにわに現れた。

「おお、どうだハガイ?」

 オレは駆け寄って収穫を期待した。

「会議はまもなく。冥界親子もギリギリ間に合いそうです」

「おお、さすが天界事務次官!やるときゃやるねえ!」

「え、そうですか?」

「もちろん!」

「ま、まあ、これでもエリートと言えばエリートに分類されるポストですからこれくらいは……」

 たったこれだけの絵にかいたようなお世辞を本気にしちゃうのは所詮はハガイってことだな。

「ハガイ、今回は冥界の二人と希がポイントだ。校長室の真ん中に陣取らせる」

「はあ。でもそういうことはアモンさんに――」


「承知しました。全て部田さんの言う通りにしましょう」


 少し離れた場所からアモンが返答した。

「よろしく頼む」

 これで準備は整った。いざ出陣!



 オレは前回同様、一度深呼吸をしてから校長室の戸を一気に引いた。


「じゃけぇ最初にノックをしんさい!」


 やはりあの男が最初に食いついてきた。そして室内を見渡すともう向こう側は全員揃っている。やる気がないくせして先にちゃんと来て待っているというのはどういう考えなのだろうか。前回もそうだったし。

「ああ、どうもすみません。気を付けます」

 今回は二回目なのでオレも落ち着いて返答できた。

「座りんさい」

 アザゼルは落ち着いた口調で着席を促してきた。前回もここまでは良かったんだよな。

 オレはアザゼルとは対角線位置になるが一番奥、すなわち魔王に一番近いソファーに着座した。座ってから気付いたが今日はこの『反社ソファー』が一つ多くなっていた。だからてっきり魔王が移動して掛けるのかと思いきやヤツはまた後方の校長机のところに居たまま動く様子がない。

 事前の打ち合わせでこちらサイドについての座席位置は奥から最初がオレ、希の順で、他は誰もソファに腰かけないように頼んでおいた。


 オレはまず魔王にこう言ってやった。


「魔王さん、大事な話し合いなのでこちらで一緒に話を致しませんか?」


「……生意気(くせ)らし口を(たた)っ人間だな。いいやろ」


「じゃけぇアンタは何を言いよるのかわからん。標準語を……つ、使え」

「わはは! ぎこちない話し方になっちょっぞ」

「余計なお世話じゃ」

 始まったぞ。だが、もういいようにはさせん。

「ハガイ……まだか?」

 オレは部屋の隅で事の成り行きを見守っていたハガイにゲストの催促をした。

「今、来ます。あと数十秒」


「わいは最近太ったんじゃなかとか?」

「あんたにそんなんを言われとうない」

(なん)()た」


 マズい! 間に合わんぞ。


「トリニータ様~!!」

「わぶ!!」


 突然目の前が真っ暗になり、柔らかい双丘の谷間にオレの鼻が挟まった。このパターンは懐かしい。


「これ、部田さんから離れなさい」


 この声は冥王ハーデス。助かった~来てくれた~。

「は、ハーデス(シュコー)さん、(シュコー)お待ちしていました(シュコー)」

 息がちゃんと出来ん!

「シーリー!」

「はあい」

「ぷはあ!」

 ハーデスがもう一度叱るとシーリーはやっとオレから離れてくれた。おかげで呼吸が出来るようになった。

「部田君、その節は。時空震犯の件では私の見解はかなり外れていたようで申し訳なかったね」

 ハーデスは開口一番オレに謝ってきた。

「い、いいえ。全然。それよりも今日は宜しくお願いします。まずはそちらに座ってください。シーリーも」

 周りを見ると衝撃的なシーリーの登場の仕方に全員が目を白黒させている。特に掴みかかろうとしていた魔王とアザゼルはお互いに手を握り合って愛を誓い合った恋人同士のようなポーズのまま口をあんぐりと開けていた。ま、初めて見たヤツはそうなるかもしれない。

「部田君、私はなにをすればいいのかな?」

「とりあえず娘さんを守って下さい」

「何にかね?」

「予期せぬ事態です」

「?」

 ハーデスは何を言われてきたのか、二股に分かれた大きな槍を持っていた。この場で武器を所持しているのはハーデスだけなのでかなり目立つ。

「さて、シーリー、久しぶりだな君の……姿は別にそうでもないが、やはりそのキャラクター。嬉しいぞ、よく来てくれた」

「貴様の申し出、痛み要る。ほんで、あたいはどないしったらよろしおま?」

「お、おう。相変わらず凄いな。とにかくあそこに居る大男たちに着席するよう頼んでくれ」

「そーだこつ、お安かことですねん。おめんど! 早う座りなっせ!」


「「?」」


「何ぼーっと見でらのだが? しゃっしゃとしんさい!」


「「????」」


 魔王とアザゼルは完全にフリーズしてしまった。だが、これでいい。

「アモン! 親父さんたちを座らせちゃえよ」

「……え!? あ、そうですね」

 アモンは初めてじゃないはずだが、魔王サイドはシーリー登場のインパクトに加えあのめちゃくちゃなちゃんぽん語が加わって、そっちの処理で各自が精いっぱいになっている。特にベルゼブブはシュッとしたクールな男のはずだが、目いっぱい目を開いて白目を充血させてシーリーをガン見していた。アイツは別に驚かす予定はないのだが、まあいいだろう。

 このドサクサで向こうの大男をアモンに着席させたオレは矢継ぎ早にシーリーにこう言った。

「シーリー、今度はそこのオッサン二人に『今すぐ戦闘をやめるよう念書にサインしろ』と言うんだ」

「わかりんした。ちゃーき戦闘やみーるべ! こったら念書ば、サインしよっと!」

「「……」」

「なんば、言いんしゃい!」

「「!!」」

 魔王とアザゼルはビクッと震えた。ついでにベルゼブブと明日太郎までビクッとしていた。明日太郎は手の内をある程度知っていたはずだが。ちなみにリリスは今日もスケスケ一枚でまったりとドエロに佇んでいた。


「ちょ、ちょっといいですか、部田さん?」

 ひどく慌てながらアモンがオレに声を掛けてきた。

「どうした?」

「座らせるところまではいいと思うのですけど、ここからは相手にきちんと理解してもらってからでないと……」

「……ま、アモンがそういうなら」

 オレはこのままの勢いで停戦協定を勝手に結んでしまっても良いと思ったが、当事者としてはそうはいかないのかも知れない。


「魔王。何の関係もない人間の部田さんがこうまでして貴方をこの席に着かせようとしてくれたんです。それだけじゃない、天界、冥界、世界線を渡ってまで多くの方々にご尽力頂いています。だからどうか話をして下さい」

 アモンが机に両手をバンっとついて力説した。なのでオレも加勢した。

「親父さん、もう魔界だけの問題じゃないんです。ここでの争いが他の世界へ飛び火してしてですね、ここだってこ~んなに荒廃しちゃったし、お宅らの邪気とかモロ影響受けちゃってさぁ、どう責任取ってくれるの?」

「……あ? あーそうか、これをやらんとな。うん、わかった、わかった。話をすればいいのだろう?」

 魔王はようやく了解したが、言葉もちゃんと標準語だ。やっぱりカムフラージュだったんだな。


「うおっほん! そいじゃあ、アモン。貴様、何で親の言うとおりにせんのだ?」

「いきなりですか。散々引っ張っておいて最初の言葉がそれですか? だからそういうところなんですよ。いつも自分の都合で上から目線。こちらの話は全く聞かず、都合が悪くなると逃げ回る。それですよ」

「王子、言い過ぎです」

 横からアザゼルが口を挟んできた。コイツも普通に喋れるじゃないか。

「……それが貴様の回答か? まだ、わしは何のことかも言っておらんぞ。貴様こそ人の話を聞かんバカ息子じゃ。よ~くわかった。じゃあわしから答えてやろう――」

 魔王はいきなりその大木のような腕を大きくかざしてからアモンめがけて一気に振り下ろした。


「希!」

「はい、えい!」

「のば!!」


 オレは事前に魔王が短気を起こすことも考慮に入れ、手は打っていた。それがこれだ。オレの期待通りに希は瞬時にアモンの顔面前で魔王の腕をキャッチし、カウンターで相手の頬に平手打ちした。魔王の顔が瞬間大きく歪んでひょっとこみたいになった後、椅子ごと後ろにぶっ倒れた。

 隣に居たアザゼルは喧嘩っ早いと聞いていたが、希の驚天動地のパワーに唖然としていた。プロレスラーをはるかに凌駕する岩石のような大男を小柄な少女がビンタ一発で倒したわけだから無理もないが。


「あ~あ、こりゃ今日もダメだな」


 魔王側の反応と裏腹に呑気な声を上げたのがエキドナだ。アイツは希をほぼ舎弟にしちまってるからな。

「そうだね、仕方ない。今日も帰るしかなさそうです」

 アモンは残念そうだったが、きちんと場を読んでお開きを提案した。

 今日も決着せずか。

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