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セント・アドベント 〜田舎者少年レオンの英雄譚〜  作者: 竹倭部
第1章 『平凡と伝説』 
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第1章04『爆撃姫』

ヒロインの登場です。え?ヒロインがボンバーマンの訳がない?嫌だなぁボンバーウーマンですよ。

 


「では私の紹介といこうか。私の名前はルワードだ。

この前までは剣聖をやっていたがもう歳だからなぁ。強いやつに席を譲ることにした。」


 本人はそう言うがその屈強な体躯や傷だらけの顔からは未だに現役の戦士といっても何一つおかしくない常人ならざる雰囲気が漂っていた。


「さて、だいたい紹介は済んだな...おっと、肝心なものを忘れてた!」


 ふと背後に気配を感じてレオンは振り返る。すると教室後方に、修道服姿の女性が佇んでいることに気がついた。


(いつの間に...全く気がつかなかった!)


 女性は俯いて立っていた。見たところレオン達よりも少し年上であろう雰囲気を感じさせるが、修道服の頭巾を頭にかぶっているため表情は見えなかった。


「悪いシャル、お前のこと完全に忘れていたよ!」


 シャルと呼ばれた女性は負のオーラを漂わせながら恨めしそうに顔を上げた。


「ひどいですルワードさん...私の影が薄いことを分かってやってますよね...」


「すまんすまん!彼女はシャーロット。ユグドラシルの教会でシスターをやっている者だ。今日は用があって来てもらっている。シャル、よろしく頼む。」


「はぁ...ひどいです...自己紹介すらさせてもらえないなんて。別にいいですよーだ。どーせ私は影の薄い地味なシスターですよー。」


 シャーロットはぶつぶつと文句を言いながら両手を教室の床に向けて魔力を込め始める。

 その膨大な魔力の流れに肌がビリビリと痺れるような感覚が走る。


「あの先生...シャーロットさんは一体何を...」


 魔力の流れを感じ取り疑問に思ったマナがルワードに訪ねると、


「自己紹介だけではお前達のことをよく知ることはできないからな!」


 ルワードはニッコリ笑いながら答える。それと同時に教室の床を中心にして巨大な魔法陣が浮かび上がり---



「拳で語ろうじゃないか!」



 ---直後、レオンは目眩に襲われる。


(これは、...幻術?でも何か違うような...)


 聖都の街で発動した幻術はほんの一瞬だけ強烈な目眩に襲われるような感覚だったが今回のものは異なっていた。

 目眩はすぐに治るどころかさらに悪化していき、視界がぐにゃぐにゃと歪み始める。


「う、、、やばい吐きそう、、、」


「ちょっと!こんなところで吐いたら承知しないわよ!」


 ライリーが溜まらずに口を押さえてえずき始め、それを聞いたマナが叱責する。


 他人事ではないと必死に目眩に耐えながら2人のやりとりを眺めていたレオンだったが、急に目眩が引いていき、気がつくと自分が草原に立っていることに気がついた。



「ほう、なかなか良いところだな。」



「ここって...」



 目の前に広がる草原はレオンにとっては馴染みの深いノートン村の景色にそっくりだった。

 レオンは2日ぶりに見る()()の景色に何故か懐かしさを感じて深呼吸をしていたが、他の同期達は突然自分たちが見知らぬ草原に転移されたということに困惑している様子だった。


「よし!これから交流の意味も込めてお前らには()()してもらう。」


 そんな困惑する教え子達には目もくれずルワードの口からとんでもないことが告げられる。


「いやめちゃくちゃだろ。変なところに連れてこられたかと思えば急に戦えって...」


 拳で語るとは言ったが正しくそのままのとんでもない提案に、アルフレートは呆れた様子で吐き捨てるが---


「1番優秀だと判断した者は...リーダーに任命しよう!」


「...やってやろうじゃないか。」


(リーダーだと!?エーデリックにフェルティガルド...こいつらのリーダーになればさぞかし気分が良さそうだ。)


 ---すぐに掌を返してルワードに賛同した。


「ルールは()()!とにかく周りの奴と戦え!」


 アルフレートの他には特に意見する者は無く、それぞれが準備体操をしたり武器を構えたりしていた。

 その様子を見て田舎者は重大なことを思い出す。



「え、僕まだ武器とか無いんですけど...!!」



「では始めろ!」


 レオンの訴えは虚しく、無情にも()()と言う名の乱闘の幕が下される。

 その直後爆発音が響き、土煙が巻き上がる。


「リーダーになるのはこの私、マナ・エーデリックよ。私の"爆撃"の前にひれ伏しなさい!」


 魔術を行使したのはマナだった。マナは1発では飽き足らず周囲に無数の魔法陣を展開し次々に辺り一帯を爆破し始めた。


「うわ!めちゃくちゃじゃねーか!殺す気か!」


「あら、ライリー。もう吐き気は治ったのかしら?治ってなくても私の"爆撃"で()()()()()してあげるわ!」


「うわぉぉぉ!死ぬ!死ぬって!気持ちよく死ぬって!!」


 マナはライリーの周りばかり執拗に魔法陣を展開して爆破し始める。そのとてつもない爆撃の中をライリーは全力疾走で回避していくが...


「ちょ、ちょっとこっち来ないでよ!」


「すまん田舎者!!!」


 なぜかレオンの方へと走って来たためレオンも爆撃の嵐に巻き込まれ一緒に逃げる羽目になった。

 とっさに身体強化を発動して全力で走り出すが襲いかかる爆撃の威力は凄まじく、爆風で何度も吐き飛ばされそうになる。


「いいわ、鈍臭い田舎者まで一緒に吹き飛ばしてあげる!!」


 マナにとっては獲物が1匹増えたことなど大した問題ではなく、爆撃を収める気配は一向に無い。



「いやぁ、あの()()()さんはたまったもんじゃねえなぁ!」


()()()...?」


「お前知らないのか?爆撃姫マナ・エーデリック。超名門貴族エーデリック家始まって以来の天才にして()()と評判のとんでも女だ。」



 誰が名付けたのか、恐ろしいほどしっくりとくるネーミングに、レオンは自分がまさに襲われ全力で逃げ回っている最中だというのに思わず納得し、感心してしまった。


「お前ただの田舎者にしてはやるじゃねぇか!普通ならこんな爆撃に襲われたらイチコロだぞ!」


「辺境で郵便屋をやってたんだ!職業柄こういう経験が多くて!」


 ただの郵便屋と言えど、街の郵便屋と辺境の郵便屋では事情は大きく異なる。

 魔族がはびこる地域での仕事を幾つかこなして来たレオンは自分の身を守るスキルとして自然と魔術が上達していたのだ。  


「何回も死にそうな目に遭って来たよ!」


「そいつはいいじゃねぇか、面白い!俺はライリーだ!よろしく!」


「僕はレオン!こちらこそよろしく!」


 2人は笑顔で会話を交わすが、立ち止まって握手の1つできるような状況ではなかった。

 もう長いこと逃げ続けているが未だ爆撃の雨が降り止むことはない。

 体力の限界が近いレオンは息をぜぇぜぇとさせながら後方を振り返る。


「くそ、いつになったらやめてくれるんだ?...!?」



 しかし振り返った先には術者であるマナの姿はなく、それどころか遥か後方に爆撃の煙が上がっていた。




 ☆



「しぶといわね...!」


 マナはレオンをも巻き添えに爆撃する算段だったが2人が粘り強く逃げ回るため想定よりも手を焼いていた。


「ちょっとだけ本気を出してあげる!」


 この不毛な追いかけっこを終わらせるために爆撃魔術にこれまでよりも多く質の高い魔力を込める。

 体から溢れる魔力で鮮やかな紅色の髪が逆立ち、周囲の空気が()()始める。



「魔力がダダ漏れ。それに隙だらけ。」



「...ッ!?しまった!」



 魔力を込めるのに集中していたため背後からの気配に気が付くことが出来ず不意を突かれる。

 振り返ると杖を構えたコハクが目と鼻の先まで迫っていた。


「爆撃姫、もらった。」


 呟いた直後、コハクが握る杖が青白く輝く。


(これは氷結魔術!)


 気がついた時にはもう遅く、杖は冷気を放ちながらマナに触れるほどすぐそばまで近づいて---



 ---爆発を起こした。


 否、杖が爆発を起こしたのではない。コハクの杖は冷気を放っていたが、マナを氷漬けにするどころか逆に爆撃の返り討ちにあってしまったのだ。


「ん、、、動けない。」


 勢いよく舞い上がった煙が収まると、そこには身体の至る所が氷に覆われたコハクの姿があった。

 コハクは力を込めて手足を動かそうとするも、氷は地中から伸びて体にまとわりつくかのようにコハクの身体を縛りつけている。


「ふふふ、惜しかったわね。」


 間も無くして空からひらりとマナが降りて来て優雅に着地した。


「分からない。いや、あなたが爆発で空に逃げたのは分かった。でも私が凍っている理由が分からない。」


「あら、簡単なことよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()、ただそれだけのこと。」


「...ずるい。」


 爆撃魔術は、通常は任意の地点に魔法陣を展開して爆発を起こすというものだが、マナが操る爆撃魔術は相手の魔術そのものを吹き飛ばすという法外の性質を持っていた。

 これは生まれながらにして恵まれた魔力量とその才能の賜物である。


「これこそが我がエーデリック家が誇る究極の爆撃魔術。私の前ではどんな魔術も無意味だと知りなさい!」


 マナは誇らしげに胸を張ると、身動きの取れないコハクに手を向けて魔力を込める。


「う...ん...っ!」


 コハクは地面に転がる自分の杖へと手を伸ばす。しかし身体が動かさず手に取ることは叶わない。


「あなたから退場よコハク。大人しく私のショーを楽しんでいなさい。」


 今すぐにも魔法陣が展開されようとしたその時、



「弱いものいじめは関心しないな!」



 ミーアが閃光のごとき速度でマナの懐に飛び込んだ。


「ッ!!」


 マナはすぐに反応し、魔術の発動をやめて剣を引き抜き応戦する。

 2人の剣は交差して重なりギチギチと音を立てて軋み合い、双方一歩も引かずに膠着状態になった。


(...早い!視界を外れていたはずなのに私の爆撃よりも先に一瞬で距離を詰められた!)


「さ、さすがだね貴族さま、私のスピードに対応するなんて...!」


「あ、あなたこそこの私に剣を抜かせるなんて大したものよ!」


「おっと!」


 マナは足元を爆撃するもミーアは一瞬にしてその場を離れて回避し、爆撃の届かない場所まで距離を取って着地した。


(身のこなし方に一切の無駄がない最短距離の移動。どこでそんなものを...)


「ふふふ、面白いじゃない。」


 マナはニヤリと笑みを浮かべると再び魔力を込める。

 だが今度は今までのものとは異なっていた。魔法陣を自らの剣に展開し---



()()わよ!!」



 思い切り剣を振りかざす。魔法陣を纏った剣は勢いよく空を切るが特に何も起こらない。


(なに?素振り?そんなわけないか。じゃあ一体...)


 ミーアはこれまでとは違う動きに警戒するもマナの行動の真意を見抜くことができなかった。そして---


「え...」


 全身に寒気が駆け巡る。


 何をされるのかは分からない。何をされたのか分からない。ただ一つ彼女に分かることは自分の身に良くないことが起きるということだけだった。


そして---



「お休みなさい、ミーア。」



 ---ミーアは爆撃され気を失った。




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