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18.04.22.S 僕の意思(1)



 君のことを知りたいと思ったのはよかったが、どうにも不器用で、なかなか素直になれない僕は、君に話しかけることができなかった。

 気が付けば二月にも半ばを過ぎていて、厳しい寒さも徐々に和らいできていた。

 君さんってやっぱり馬鹿やんな。練習終わりに言った僕の一言がきっかけだったと思う。

 君は確か、

「は?」

としか返さなかった。

 まだ物理的にも距離があって、君に近付くにはまだまだ時間が必要だった。ここから頑張って、何とか連絡を取り合える仲となったんだ。多分僕以外誰も知らない、大切な思い出の一つだ。



 努力が実ったのか、君と毎日連絡を取り合うようになっていて、君に対してふざけながら悪口を言ったり、下品な言葉を言い合ったり、三月の試合では、会場で言い合って怒られたのも覚えている。

 当時の僕は、自分を大人だと思っていた。でも相当な子供だったんだと思う。

 僕はこの頃から、君が一人の女子、ではなく一人の男子と思い始めるようになっていた。

 しかし、徐々に仲が深まっていくことに、抵抗を感じる僕もいた。

 とても苦しい初恋を思い出してしまったんだ。色々と辛いことがあって、そのせいで僕は、男女問わず他人との距離に、一線を引くことを覚えた。

 君といずれそうなった時、あの時と同じことになるのが嫌だから、君との関係に、とりあえず一線を引いておこうと思った。




 三月の会話を遡ってみた。

 君が送る文のほとんどに「笑」という文字が付いていた。それに今よりも、ずっと既読が早く、僕もかなりの頻度で返信していた。君は変わってしまったと痛感した。

 なにより変わってしまったのは僕だった。今の僕は、自覚してしまう程、倦怠期がピークに達している。あの頃はいろいろあって、とげとげしていたから、余計に君との相性がよく、会話が盛り上がっていたのだろう。

 もし叶うのなら、僕は一年前からやり直したい。




 二年生に上がるとき、部活終わりに何人かで、好きな人について話したことがあったのを覚えているだろうか。

 みんなは、君の好きな人を


「〇〇か」


「〇〇くんか」


と言っていたけど、僕は、いや俺だろ。と思っていたんだ。なんとも恥ずかしい。

 君は気になる人はいると言っていたけれど、僕は君が、僕のことを好きになると思っていた。

 自意識過剰かもしれないが、僕にはそれだけ自信があった。


 二年生になって早二週間がたとうとした日曜日。僕らの学校で、試合があった。

 残念ながら僕は腰を痛めていた。先輩は捻挫して出られなかった。

 点数を一番取る先輩と二番目の僕。僕らが抜けたチームなんて最悪のチームだと思った。だから、僕は我慢して出場した。彼らが負けたら自分も負けたことになるし、何よりも練習が報われなくなるのが嫌だったから。


 試合中、君は隣の観客席にいた。位置もだいたいどの辺か覚えている。

 そこだけが少し明るく見えた。と言いたいが、実際にそこは他よりも明るく見える場所だった。


 鎮痛剤を飲まずに出た試合。君が隣にいたことを確認できた試合、高校に入って初めて一セット取ることができた試合。

 痛みを堪えて、ありったけの笑顔で、僕は君に向かってピースをした。届いていたかな?もしかしたら他の人に送ったと思われたかもしれない。

 覚えてくれてると嬉しいな。

 結局負けてしまったし、君はその日何も僕に話しかけてこなかった。僕も君に話しかけなかった。でも僕は君が隣にいてくれたことは心強いと思った。

 これからも応援してほしいと思った。


 疲れ切った状態での帰宅時、坂道を上るところで、親友である十秋早紀とあきさき君と喧嘩した。血なんて全然繋がっていないのに、瓜二つの顔をしている。違いと言えば、左脇下に黶があるかないか、僕の方が少し若干太っていて、髪の分け目が違う。あとは声ぐらいだろう。

 僕は胸ぐらを掴まれ、殴られた。この頃からよく彼と喧嘩して、口内炎がよくできはじめた。


「あの子に二度と関わるな。あの時のようになるならまだマシだ。先月みたいになるぞ」


そう言われた事は鮮明に覚えている。

 今日の試合を見に来たことはすぐに分かった。

 彼はいつも、僕の心の奥に潜む声を代弁してくる。正直僕も思っていたんだ。関わらない方がいいって。でも僕の直感は外れやすい。だから君に近づくことを決めたんだ。

 僕は初めて彼に反抗した。ふざけんな。って言いながら殴ってしまった。殴り殴られの喧嘩に発展した。

 二度と喧嘩はしないと誰かと約束したのに、君に関わろうとするのをやめるのが何故か嫌で、破ってしまった。

 今までの僕なら、きっと従っていただろう。でもはじめて自分の意志で、君と仲良くなりたい。そう思ったんだ。


「絶対秋か冬、あん時みたいに泣くことになるぞ。なんで分かってくれへんねん」


そう言われた。確かに嫌な思いをした。けど、君と少しでも笑い合えるのなら構わない。と思った。

 君の笑顔をもう一度見たいと、その笑顔を僕だけに向けてほしいと強く思ったんだ。



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