手紙編(4)~顔も知らない君への一言~
俺が宝に憧れたときから、彼は随分と変わってしまった。
何があったのか、それは俺が一番知っている。
中学三年生になるとき、久々に彼に会いに行った。約一年ぶりぐらいかな。真面目に戻ってしまった俺は、毎日学校に行って、帰ると、遅れた分の勉強をしていたから、彼に会いに行く暇が無くなっていた。
春休み。久しぶりに連絡して、彼とよく一緒にいたC公園に集合した。よく晴れた、桜が咲きかけていた日曜日だった。
先に着いてブランコに座っていると、横から声を掛けられた。
「早紀。久しぶり」
彼は大人になっていて、爽やかになっていた。特に髪型が変わっていた。一年生の頃はスポーツ刈りだったのが、今時の中学生のツーブロックになっていた。
彼と僕は身長が一緒になっていて、驚いた。昔よりも顔がしゅっとして、多分こいつはモテるだろうなと思った。
「去年と同じこと聞くわ。誰かと付き合っとるんか」
「俺も去年と同じこというわ」
まだ自分のことを大切にしていなかった。
「いつ別れんねん」
「俺があの子と関係を切りたいって思うまでかな」
「性格腐りきってんな。そんなことよりなんで体操服やねん」
「そんなことよりって酷いな。部活に行っててん」
体操服で腕をまくっていて、短パンだった。藍色の体操服に刻まれた赤い刺繍を見た。
「お前の苗字か」
「あ、ばれちゃった」
初めて知った。どうやら、何て呼べばいいのか迷っていた俺に気付いたらしく、
「でも、宝でいいよ。そっちの方が慣れてるし」
「気遣わせて悪いな」
「気にせんといてな」
「お前部活やっえたんか?」
俺は彼についてほとんどしらない。毎日何をしているのか。部活をやっているのか。全く分からなかった。
彼はバレー部に所属していた。
「楽しんか?」
「最近は微妙かな」
「なんで続けとんねん」純粋な疑問だったと思う。
「あの子が初めて認めてくれたスポーツだから。試合の時、彼女」
こいつ。まだ忘れてないんかよ。あれから一年以上経ってんぞ。って思ったのを覚えている。どんなに辛くても一途であり続ける彼に気持ち悪さを感じた。
「そういえば、俺生徒会長になってんで。すごいやろ」
「あんな面倒なもんよくなったな」
「選挙とかあったけど、運良く勝ってんで」
「楽しいか」
「実際はそんなにやけど、暇じゃなくなったのは良かったな」
生徒会長になったのは、お前の学校で二度とお前みたいなやつを出さへんため。っていうことはすぐに気が付いたが、彼は言ってこなかったから俺は触れなかった。
きっとまた壊れる。俺の初めて当たった勘だった。
「てか俺ら、受験生やねんな。時間って早いもんやな」
「まだ始まってないのにしみじみすんのやめよーや」
「元気そうやったし、俺は帰ろうとするか」
「もう帰んのか。次は俺が行くからな。体壊すなよ」
「お前こそな」
これが彼が壊れる前の、最後の会話。
彼が壊れたのは三月二日だった。
『俺は人の為に生きるのやめるわ』
俺に入ったこの連絡に驚きを隠せなかった。
何があったのか聞くと、どうやら元々付き合っていた子が自殺を図ったらしい。
は?ただそれだけ?今付き合ってないならほっておけば?って思うのが正常だと思う。当然俺も言った。
「俺が苦しめたらしい。あいつには俺の時間の大半を費やした。言われたことは全部やったし、俺のせいにされる意味が分からへん。人の為に過ごした結果が俺のせいにされて終わり?ふざけんなよ」
彼から次々と何かが溢れ出した。相当なストレスを抱えていたんだと思う。
「俺今日から自分のために生きるわ」
衝撃の一言だった。
以来彼は色んな女子と関わるようになったけど、全員に対して一線を引いた。自分に必要なら手に入れて、要らないなら見向きもしない。
俺の憧れた彼はもうどこにも居なくなった。
だから君には感謝しないといけない。
変わってしまった彼にもう一度人を信じることを思い出させてくれた。
今までで彼と矛盾していることを言っている箇所があるかもしれないが、それは記憶力の差だから彼の方を信じてほしい。
当然人を信じるということは、また辛い思いをすることだから、止めようとしたが、その都度無理だということは分かった。
俺にも彼にも周りから孤立していた頃に比べて、本当に多くの友達ができた。でも彼は俺にとって、たった一人の親友なんだ。
図々しいかもしれないが、願わくば、宝を幸せにしてやってはくれないだろうか。あいつには俺が書いたこの手紙を見るなと言ってあるから、このことをあいつには内緒にしてほしい。
以前彼を元に戻そうと、彼を傷付けないだろう女子を紹介したこともあった。何人もの女子が彼を好きになって、その都度傷付けられた。
傷付く側から傷付ける側になった彼。でもきっと近いうちに完全に元に戻る。また自分を犠牲にしてまで、誰かのためにあろうとするだろう。君のことが好きでも、それを殺してまで他人の恋を成熟させに行くかもしれない。
辛い思いをすると分かっていて君を好きになった馬鹿だ。本当に自分を犠牲にしても君を守ってくれるだろう。安心していい。俺の勘は外れた試しがない。
もちろん選択権は君にある。失恋なんて長い年月が経てば風化してしまう。新しいものが塗り潰すかもしれない。だからそこまで深く考えなくてもいい。直感に従えばいいと思う。
俺の語彙力とかそういうものが無いのは仕方ない。伝えたいことを伝えられた感覚もしない。
最後に、君を否定し続けたそんな俺からの一言を受け取ってほしい。
「ありがとうございました」
〜完〜




