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18.10.14.S 罪悪感



 この日、僕はあるスポーツの近畿大会の監督として、兵庫県に呼ばれていた。

 一方、僕と君は文化祭のステージで歌うことになっていた。なのに、練習などほとんどしなくて、君は焦っていた。僕の我儘で出ることになったのに、君はしっかりと練習しようとしていた。真面目なんだなと思った。

 僕は本番に強いタイプだと自覚していた。練習しなくても何とか乗り越えてきたことがほとんどだった。ここで不真面目が出てきたんだと思う。でも我儘に付き合ってもらっている身。招集がかかっていたのに、熱が出た。といって君と、最後のカラオケに行った。実際向こうも楽しかったのだけれども、反対側に君がいたから、君を選んだ。

 僕が若干遅刻した覚えがある。初めての遅刻だった。その時には、なんか嫌な感じ。と思っていたけど、僕の勘は外れやすいのは知っていた。

 君との練習のために行ったのに、結局僕らはまた暴れた。でも夏、僕が君を好きだと思った日から何も成長していないと思ったのだけれども、なんだか妙に君が疲れ切っていて、またおかしな胸騒ぎがした。

 でもスルー。

 君の歌声は本当に好きだった。でもその歌声は付属品にすぎないぐらい、君のことが好きだった。もたれかかったりもした。付き合っていないのに欲張りだっただろうか。それでも君に触れたいと思った。

 暴れていると、ふと思ったことがあった。眼鏡飛ばないかな?って。

 今になって後悔している。その日妙に胸騒ぎがしたこと、君の感覚がおかしかったこと、普段考えないことを考えてしまったこと。

 君と暴れている最中、歌などもう歌っていなくて、お互い疲れ切っていた頃だった。眼鏡が飛んで行った。

 探そうとしたら、僕が踏んでしまって、フレームが折れた。

 君は謝る必要なんてないのに、「ごめんね」って言ってきた。

 僕は焦っていた。フレームが折れたことにではなく、今日起きた僕の悪い直感が当たる気がしたんだ。

 怖くなった僕は、「どうしよ」「ほんとにどうしよ」と言っていることを、君に気付かされた。

 本当はもうちょっと君と長く居たかったけど、帰ることにした。



 僕の直感は外れやすい。でも決して外れないわけではない。そんなことはとっくの昔に知っていたのに、浮かれていたのだろう。忘れていた。



 家の最寄り駅に着くころ、母から一本の電話が入った。電車から降りて、僕は掛けなおした。


「今隣の家が火事やから早」


 最後まで聞く前に僕は走っていた。改札にが開く前に出ようとして、ぶつかりかけた。階段を何段も飛ばして降りたし、ずっと坂道で、すぐに体力の限界が来ることも知っていたのに、心臓が悲鳴を上げても走った。

 僕は家に近づけなかった。


「これ以上先は入らないでください」

「その家の隣が僕の自宅なんです」


すると後ろから、厳つい感じの親しいご近所さんが、


「向こうからな行けると思うわ。はよ走り」

「ありがとうございます」


 疲れ切っている足を必死に動かして、家まで行った。

 隣を見ると、二階から一瞬火があがった。消防隊が何にも入っていくのを見ていた。

 駐車場を挟んでいたから、僕たちの家まで火は回っていなかった。家族の安否を確認していると、妹がいないことに気付いた。場所は母から言われた。走った。

 僕の直感は普段外れる分、一度当たってしまうと、連鎖して起きるようになっていた。僕は知らなかった。

 走っているとき、もちろん眼鏡は掛けてなくて、運悪く夜だった。

 不運は積み重なって、そこは街灯がなかった。

 僕は、消防車のホースを踏んでこけた。

 瞬きをしたぐらいなのに、目の前は住宅街から黒いアスファルトに変わっていた。足がおかしな方向に曲がっていることには、すぐに気が付いた。立ち上がろうとしても全身に力が入らなかった。結局近所のおっちゃんに助けてもらった。

 痛い足を引きずるように走った。

 頑張って帰った僕の目からは、自然と涙が溢れ出した。

 夏休み、熱中症になるまで練習したバレーボール。家でもずっと自主練して、試合まで残り一か月だった。何度も足を怪我したからこそ分かった。これは一ヶ月じゃ治らない。

 隣の家で死者が出たことよりも、しんどかった自主練習や、先輩に勝つと約束したのに、それを守ることが出来なくなった悔しさ。練習がまた報われなくなった辛さ。

 そして僕は思ってしまった。


「君を選ぶんじゃなかった」


って。

 その場に合わせた感情しかできない、僕の欠点だった。

 一時間近く泣いた後、早紀に言われた「秋か冬、泣くことになる」という言葉思い出した。

 ここで来るか。って思った。それでもいいと思っていたはずなのに、いざその身になってみると、思うことなんてできなかった。これも経験していたはずなのに、僕は浮かれすぎていたんだ。

 徐々に気温が下がってくる秋、そのせいだろうか、それとも本当にそうなったのか。

 夏、明るかった夜空が真っ黒に染め上げられていた。




 僕は君の顔が見れなくなった。



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