チート・ザ・屁ひり女房
むかしむかしあるところに、一人の男と年老いた母親が住んでいました。
ある日、隣村からお嫁さん迎えました。
お嫁さんはとても働き者で親孝行の良い人でしたが、結婚してからしばらくするとなんだか少し辛そうにしています。
その様子を母親が心配して声を掛けました。
「どうしたんだい? どこか調子が悪いのかい?」
「あぁお母様、実は……お嫁に来た時からずっと屁を我慢しているのです……」
「なんだそんな事か、わしらはもう家族じゃ。屁ぐらい遠慮なくすればいい」
母親が優しく促すと、嫁は安堵した表情を浮かべ、その場でものすごい屁をぶっ放しました。
人知を超えた破壊力。この屁の威力はおおよそ0.1秒後、周囲数キロのあらゆるものを灰塵に帰してしまうだろう。
「【完全究極結界】ッ!!」
瞬時にそう判断した母親は、全力で防御結解を張り威力を抑え込もうとした。
それはおおむね成功した。が、その全てを抑え込むには足りず、母親自身は嫁の屁に吹き飛ばされ、向かいの大根畑まで飛ばされてしまいました。
この様子を見ていた亭主(お嫁さんの夫)はカンカンに怒ります。
「こんな嫁は実家に返す!」
義母に促された事とはいえ、全ては自分の決断が招いた結果。嫁は全てを受け入れ、悲しみながらも了承し、実家までの道のりを亭主の後ろについてトボトボと歩いていきました。
しばらく進むと、先日の大嵐の中の運航で誤って陸に上がってしまった貨物船がありました。
そこで、嫁は再び屁を発射した。
先程、義母を吹き飛ばした破壊力を持った噴出ではなく、通常の人間と変わらぬ程度の噴出力の屁。
その屁を座礁した辺りまで展開し終わったとき、嫁は自分の尻の辺りで親指と中指をこすり合わせ『パチン』と音を鳴らした。
指パッチンにより発生した高熱が展開した屁に引火。嫁の尻から爆熱が巻き起こり、それは導火線のように連鎖爆発を起こす。
結果、爆発は座礁した辺りの丘を粉々に破壊し、貨物船を海に放り出す事に成功した。そのお礼にと、乗組員から米俵を三俵もらいました。
更に道を歩いて行くと、峠の柿の木から柿を取ろうとしている男達がいました。
男達は柿の木の上にいる者に向かって話しかけます。
「猿さん、自分ばかり柿を食べていないで、早くわたし達にも下さいな」
「おおそうだったなカニ共よ、おいらの計画通りに動いてくれたお前達にも褒美をやらねばなるまい……」
猿は左手でまだ青くて固い柿をもぎ取り、その柿に膨大な魔力を込めた。
すると猿が握っていた渋柿に邪悪なエネルギーが集まっていく。
「き、貴様ッ! 今まで私を利用していたというのかッ!!」
「今更気がついてももう遅い! そうら欲しがっていた柿だ! くれてやろう! 【渋柿】ッ!!」
猿の手から発射されるは周囲一キロは消しとばすだろう強大な暗黒の力。
ここで嫁の脳裏に、先ほど吹き飛ばしてしまった義母のとっさの判断が駆け巡る。
義母は最速最適な判断で、身を挺して周囲を護った。
ならば、今度は自分がそれをする番だ。
嫁はそこで屁を展開。
その屁からはフローラルな香りが瞬時に立ち込める。
屁の神聖な力は猿の【渋柿】に帯びた邪悪な魔力を瞬時に打ち消し、更に他の柿を栄養たっぷりに育たせ、たわわに実った柿はその自重により次々と地面に落ちだしました。
男達は嫁に大層お礼を言い、持っていた反物と馬をくれました。
「こんな宝嫁を実家に返すとはもったいない」
亭主は考えを改め、嫁と一緒に暮らすことにしました。
嫁はとても喜び、米俵と馬と反物と夫を抱えると。屁の噴出力でジェット機のように空を飛び、自宅へ戻ってきました。
のちに亭主は、嫁の為に屁の家を創り、その中に亜空間の入り口も設置することで、いつでも好きなだけ屁を出来るようにしてあげました。
この家族はいつまでも仲良く幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし