チート・ザ・笠地蔵
むかしむかしある所に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある年の大晦日、おじいさんは雪の中を笠を売りに町に出かけます。が、残念な事に笠はひとつも売れませんでした。
おじいさんは天気が荒れそうな予感がしたので、笠を売ることを諦めて早めに家に帰ることにしました。
強い吹雪の帰り道、おじいさんは6体のお地蔵様をみつけました。
「これはこれはお地蔵様、こんなに雪をかぶってはさぞ寒いでしょう。この笠をかぶってください」
おじいさんはそう言いながら、売れなかった笠をお地蔵様にかぶらせることにしました。
まずは一番手前のお地蔵様にかぶせます。その時天候が変化した。吹雪に代わって降り注ぐは氷の塊、雹。
しかしその大きさは通常の比ではなくその一つ一つがサッカーボールのごとく巨大。台風の様な風と合わさり降り注ぐ凶弾の威力は山の地形を容易に抉る。
おじいさんは自分に直接当たりそうな軌道のモノは手で受け流し、他のモノは残り四つある笠で防ぐ。
二人目のお地蔵様に笠をかぶせた時、雹が雷に変化した。その雷速の筒一つ一つが意思を持っているかの如く正確にお爺さんを襲う。
しかし逆に言えばその軌道は読めるという事。お爺さんは雷を上回る疾さで反復横跳びを行いつつ徐々に前方に進み、それら全てを躱しながら三人目のお地蔵様に笠をかぶせた。
速度で捉えられぬならばと今度は天気は雨へと変わった。もちろんただの雨ではない。それはほんの一滴で古の毒竜をも毒殺する破滅の液体。如何におじいさんといえど触れれば即死は免れない。
しかしおじいさんにはまだ二つの笠が残されている。猛毒の雨とは言えやはり所詮は雨。笠が元々雨を防ぐものである以上おじいさんには通用しない。
四人目のお地蔵様に笠をかぶせた時、おじいさんは今まで以上の威圧を肌で感じ取る。
空を見上げれば、そこに写るは視界一杯の岩の塊。数で敵わないならば質で仕留めると言わんばかりに、おじいさん目掛けて落下する巨大隕石。
防ぐことは出来ない。躱す事も難しい。いや、仮におじいさんが躱したのならばこの国そのものが無事では済まないだろう。
となれば残る選択肢は一つ。おじいさんは迫る巨大隕石に対し、自らそちらに大きく跳んだ。
そして握りしめた拳にありったけの力を込め、
「はあああぁッ!!」
殴りつける事で巨大隕石を粉々に砕く!
その破片が広範囲に降り注ぐが、そこはおじいさんの預かり知らない所。巨大隕石がそのまま地表に激突する事と比べれば些細な問題だろう。
自由落下の勢いのまま五人目のお地蔵様に笠をかぶせつつ着地すると、天気は晴天へと変わった。隕石までも止められた今、もはやおじいさんに対してなすすべがないと判断したのだろうか?
(────いや、違う!)
おじいさんは頭上への警戒を解かない。
(この急に晴れた空は────視界をよくするためのもの!!)
おじいさんからは見えるはずもないのだが、その予感は当たっていた。
遥か上空、いやその上空を更に越えた宇宙空間で、数多の人工衛星が一斉におじいさんへと照準を合わせる。その一つ一つから発射されるは最先端科学の結晶、光速のレーザー。
瞬く間もなくそれは標的であるおじいさんに命中する。
防御するための笠はもう全てお地蔵様にかぶせてしまった。お地蔵様が居られた以上これは仕方がない。人間に光の速度を上回る事は出来ない。当たり前ですよね。
「うおおおおおおおおおおぉッ!!」
そこでおじいさんは手をクロスさせ、その攻撃に対して肉体の力だけで全力の防御に徹した。
注がれ続ける人知最大の殺意。それが続く事、実に三日三晩! 遂には衛星のエネルギーが使い果たされた。
その跡に立ち尽くすは墨のような黒い影。おじいさんだったもの────
ではない! なんとその影はよろめきながらも動き出し、ボロ布になった上着を破り捨てると六人目のお地蔵様の方へと歩みを寄せたではないか!
「おや弱ったな、もう笠がない。……お地蔵様、申し訳ありませんが、これで我慢してください」
おじいさんが持っていた笠は五つ。お地蔵様は六体。数が一つ足りません。
そこでおじいさんは自分のかぶっていた、汗で汚れている手ぬぐいをかぶせてあげました。
家に帰ると、おじいさんはおばあさんにこの話をします。
「すまないおばあさん、笠は一つも売る事が出来なかった。それで帰りにお地蔵様が寒そうにしていてのう、そのお地蔵様に笠をかぶせてきたのじゃ」
するとおばあさんはとても喜び、
「おじいさん、良い事をしましたね」
と笑顔で返しました。
その晩のこと、おじいさんは知る事になる。おじいさんを襲う猛威はあれだけではなかったのだという事を。
おじいさんが何かに気がつき目を覚ます。この威圧はこの三日間戦い続けたアレらと同質のもの。
天を見上げるおじいさん。しかし夜も遅く空は真っ暗。何も見えません。
(なにも見えない……なにも降ってこない? いや、違う! これはッ!!)
そう、空にソレは有った。
漆黒の塊、全てを呑みこむ宇宙の災害ブラックホール!
降り注ぐことで攻撃していた今までとは違う。空にある事ただそれだけで、逆にこの星そのものを呑み込むために引き寄せる!
流石にコレはおじいさんが、人類がなんとか出来る問題ではない。当たり前ですよね。
おじいさんが己を無力さを噛み締めているその時、ズシンズシンという音が遠くから聞こえてきました。
すると雪の中を、笠をかぶったお地蔵様達が重そうな荷物を引っぱりながら歩いてきます。
一番後ろのお地蔵様は、なんとおじいさんの手ぬぐいをかぶっていました。
「親切なおじいさんの家はどこかいな。笠をかけてくれてありがたい。親切なおじいさんの家はどこかいな。笠をかけてくれてありがたい」
音はだんだんと大きくなっておじいさんの家の前まで来ます。
「親切なおじいさん、これは笠の礼だ」
お地蔵様達は大きな荷物をおくと、
「さあやるぞ兄弟たちよ!」
「存在意義を見せる為に!」
「受けた恩義を返す為に!」
「神として人に示す為に!」
「地上の愛と平和の為に!」
「手ぬぐいさえも捧げしその心の為に!」
「「「「「「今こそ我らが巨悪を討つッ!!!!」」」」」」
お地蔵様達は一斉に跳び上がる。
「お、お地蔵様ーーーーッ!!」
叫ぶおじいさん。上空へと消えるお地蔵様。
その数秒後に、星を引っ張る引力を消えた。
お地蔵様が消えた後、そこには米俵が六つ置いてありました。
こうして、おじいさんとおばあさんは楽しいお正月をむかえることができましたとさ。
めでたしめでたし